沖縄県の小中学校で、子どもたちの心のケアにあたる心理カウンセラーの男性による絵本が出版された。
子供たちの生きづらさに寄り添うために執筆された絵本には、男性自身の生い立ちや思いが込められている。

「自分で気づいてもらう」心理学の要素が盛り込まれた絵本

絵本「さばくと少年」 著 阿賀嶺壮志:
見渡すかぎりの砂・砂・砂。砂漠のサヘルはここにいます。でも今日は、いつもと同じ砂漠に変わったことがありました。砂漠を歩く一人の少年、道に迷ったのでしょうか。サヘルは気になって声をかけました

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人に思いを伝えられず、孤独で不安を抱える少年が、擬人化した砂漠との対話を通じて次第に心を開いていく絵本「さばくと少年」。
作者は、沖縄県内の小中学校で心理カウンセラーを勤める阿賀嶺壮志さん。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
この絵本に関しては、気づいてもらう、自分で何かを感じ取ってもらうというのがちょっと(他の絵本と)違うところかな

絵本は少年の苦しみをありのままに受け止める砂漠や、思い悩んでネガティブな思考に陥っていく様を忍び寄るサソリで表現するなど、心理学の要素を盛り込んだ。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
砂漠との対話を通して気づきが生まれて、徐々に色彩豊かな絵になっていっています

2021年11月に完成した絵本を、学校などに無償で配りたいと阿賀嶺さんは考えている。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
絵本であれば、いろんな方に手に取ってもらえるし、読み聞かせをすることで、子どもだけでなく保護者の方にもメッセージが届けられるんじゃないかと思った

絵本を作る原点は、幼少期まで遡る。

祖父との時間で気づかされたこと「ありのままの自分でいい」

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
小さいときはとにかく体が弱くて、少し運動しただけで40度の熱が出る。
周りと同じようにできないのもそうですし、集団に溶け込めない。
そういった自分の中で、不甲斐なさを感じていた時期に祖父との時間が唯一の救いだった

阿賀嶺さんの祖父・浦崎登史さんは雑誌の編集者だった。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
おしゃべりな人ではなかったので、とにかくそばにいてくれた存在です

小学校低学年、学校生活に馴染めないでいた阿賀嶺さんに祖父・登史さんは、あることを提案した。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
1ドルのへそくりを持って、私に美味しいものを食べさせようと一緒に国際通りに繰り出した。結局使えるお店がなくて、へとへとで帰ってきた

過去に金銭トラブルに巻き込まれ、苦労を重ねたという登史さん。
復帰前から大切に取ってあった1ドル札で孫を元気づけようとする姿をみて、自分も悩みを抱える人の助けになりたいと思うようになったと阿賀嶺さんは話す。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
言語的なメッセージというより、一緒にいてくれた。こんな自分だけれども、ありのままでいいんだよと示してくれた存在

失意のどん底にいた時に届いた一通の手紙

その後、大学に進学すると小学校の教員免許を取得。臨時教員に採用されたが、ここでも周囲に馴染めない自分に悩まされた。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
学んだことと現場では全く勝手が違って、同僚の先生方との関係もうまく築けずに、不甲斐なさと自己嫌悪の中、逃げるように教育現場を離れた

失意のどん底にいた阿賀嶺さんのもとへ、ある日手紙が届いた。
送り主は、以前の職場で受け持っていた5年生の女子児童だった。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
手紙には「もっと先生とおしゃべりしたかった」と書いていました。
ただ不思議なのが、この児童は場面緘黙といって、学校ではほとんど口をきけない子だった。

「場面緘黙」とは、家などでは普通に話せるものの、保育園や学校など特定の場面で1か月以上声を出して話すことができないというもので、原因や発症のメカニズムは詳しく解明されていない。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
私とも言語的な交流はなかったんですけれども、この子は言葉ではないけれど、それ以外の方法で私にいっぱい話しかけてくれたんだと気づきました。
ケアをする方法はいくらでもあると気づかされました。そこで目の前が開けるような、そんな感覚になったのを覚えています

「希望を見つけるのが教育、人は居場所があれば生きていける」

教育現場以外でも心のケアに携わりたいと、阿賀嶺さんは一念発起して国家資格の公認心理士に合格。現在は那覇市内のクリニックに勤務しながら、スクールカウンセラーとして小中学校に対応している。

今回 制作した絵本を、学校や障がい者施設などに寄贈するため、クラウドファンディングを始めた。

公認心理士 阿賀嶺壮志さん:
地域で皆で支えていくというのが一番大きいと思う。支援者の思いと共に、絵本も寄贈していきたい。
希望を見つけるのが教育だと思います。人は居場所があれば生きていける。
そういうメッセージを、絵本を通してカウンセラーとして皆さんに届けていきたい

悩みを抱える子供たちに寄り添いたい…阿賀嶺さんは、絵本を通じて支援の輪を広げていく。

(沖縄テレビ)

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