片足を失ったアカウミガメの「リブ」。その記録をつづった絵本の製作が、佳境を迎えている。
「リブ」と自身を重ね、絵を描く全ろうのイラストレーターの思いを取材した。

海洋ごみに絡まり…右前足が壊死

絵本づくりが行われている隠岐の島町の住宅では、無数のイラストが床に散らばっていた。
片足を失ったウミガメの姿が描かれている。

片足を失ったアカウミガメ「リブ」の記録をつづった絵本の製作現場
片足を失ったアカウミガメ「リブ」の記録をつづった絵本の製作現場
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筆談や唇の動きをみる「読唇術」で、コミュニケーションを取る中村一夫さん(49)。
生後間もないころの高熱が原因で、音はほとんど聞こえない。
片足を失ったウミガメと重なる自身。

2020年8月、隠岐の島町で保護された瀕死のアカウミガメ。
網に絡まり、右前足は壊死。フンからはプラスチックごみが見つかった。

2020年8月、隠岐の島町で保護された瀕死のアカウミガメ
2020年8月、隠岐の島町で保護された瀕死のアカウミガメ

生きる希望を込めて「リブ」と名付けられ、約1年間のリハビリを経て、自然の海に戻った。

さらに、海洋ごみの問題を知ってもらおうと、保護した町民が中心となって、「リブ」の保護から放流までをまとめた絵本づくりが、2021年11月から始まった。

幼少期から全ろうに…ハンデ抱える自身と重ね

絵を描くのは、隠岐の島町在住のイラストレーター・中村さん。
製作に参加したのは、リブとハンデを抱える自分が重なったからだった。

隠岐の島町在住のイラストレーター・中村一夫さん
隠岐の島町在住のイラストレーター・中村一夫さん

中村一夫さん:
リブの前足が失われても、不便でも、生きたいという思いが伝わってきます。私もろう者なので、不便でもがんばって生きたい。そういう面で重なっているんだなと思いました

幼少期から補聴器をつけているが、周囲の音は「ガリガリ」といった雑音に近い聞こえ方という。

補聴器をつけるイラストレーター・中村一夫さんの幼少期の写真
補聴器をつけるイラストレーター・中村一夫さんの幼少期の写真

そこで、自分の意思を表現するため始めたのが、絵を描くことだった。
現在、似顔絵やホームページの制作などで生計を立てる中村さん。多くの依頼をこなしてきたが、「リブ」の絵本製作はやり直しの連続。

こちらは、絵本作りが始まった当初のイラスト。
「リブ」がにっこり笑うなど、かわいらしいタッチだった。
しかし…

絵本作りが始まった当初の「リブ」のイラスト
絵本作りが始まった当初の「リブ」のイラスト

中村一夫さん:
何度も何度も描き直して描き直して、スタッフに全体的に認めてもらえるように書き上げて、何とかできるようになりましたね

骨や血の描写も…海洋ごみの深刻さ感じて

絵本づくりのメンバーと話し合い、海洋ごみの深刻さをより感じてもらえるよう、リアルなタッチへと方針が変わった。

その結果、「リブ」の顔は生き物らしさを意識した表情に変わった。
失った足の部分の切断面には、骨や血の描写も取り入れられた。

生き物らしさを意識した表情に変わった「リブ」の顔と失った足の描写
生き物らしさを意識した表情に変わった「リブ」の顔と失った足の描写

ボツになった枚数は、約30枚。

中村一夫さん:
聞こえなくても、やれば何事でもできる。絵を描くことは自分にとって生き甲斐である。リブの思いが伝わるように、それだけはがんばって描き上げたいと思っています

「リブ」と自身を重ね、絵を描く全ろうのイラストレーター・中村一夫さん
「リブ」と自身を重ね、絵を描く全ろうのイラストレーター・中村一夫さん

音が聞こえないからこそ、絵を描く楽しさを知り、全ろうになって良かったとも話す中村さん。

片足を失っても、生きる力を失わなかった「リブ」。

片足を失っても、生きる力を失わなかったアカウミガメの「リブ」
片足を失っても、生きる力を失わなかったアカウミガメの「リブ」

種の垣根を超え共鳴した思いは、絵本として4月に完成を迎える。

(TSKさんいん中央テレビ)