東日本大震災から11年、教訓をいかに永く伝え続けるかは被災地共通の課題。多くの児童が犠牲になった宮城・石巻市の大川小学校では、保存された校舎のあり方を考えたいと卒業生が新たな取り組みを始めている。

卒業生の声で校舎を震災遺構に

東北一の大河、北上川の河口から約4km上流に位置する宮城県石巻市立大川小学校。11年前、津波が押し寄せ、児童・教職員84人が犠牲になった。

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爪痕が色濃く残るこの校舎は市によって震災遺構として整備され、2021年7月から一般公開が始まった。震災当時5年生だった只野哲也さん(22)。この場所には思い出が詰まっている。

只野哲也さん:
校庭側に桜の木が2本か3本ぐらい植えてあって、4月になると満開になるので、お花見給食と言ってピクニックみたいな感じですごく楽しかった

あの日、大川小の児童は教員の指示で約50分、校庭で待機を続け、移動を始めて間もなく津波に遭った。

只野哲也さん:
地面をえぐるようにして(斜面を)登って、2メートルくらい登ったんですかね。ものすごい圧力が体にドーンとかかって、斜面にダーンとたたきつけられた

只野さんは波にのまれながら奇跡的に助かったが、妹の未捺さんや多くの友だちを亡くした。母・しろえさんと祖父・弘さんも失った只野さんは、震災直後から助かった児童のなかで唯一メディアの取材に応え続けてきた。

只野哲也さん(当時11):
全国のみんなに東北は大きな被害を受けたので、知ってほしい

大川小の校舎をめぐっては、地元で当初、解体すべきとの声が出ていた。そのなかで保存を求める声をあげたのは只野さんたち卒業生だった。

只野哲也さん(当時15):
大川小の校舎は、地震や津波の恐ろしさや命の大切さを、何十年・何百年・何千年と後世の人々に伝えるきっかけにできればいいと思う

この声が一つの流れを生み出し、市は2016年3月に保存を決定した。
只野さんは高校時代、語り部活動にも参加していた。
しかし、注目され続けることに次第に疲れ、1年前にはこんな思いも口にしていた。

只野哲也さん(2021年1月):
(メディアで)世に顔を出し続ける大変さを、まざまざとこの10年で知った。”大川小の只野哲也”で居続けるのは、勘弁してほしい

震災遺構ができたら終わりではない

そうしたなか、一つの転機が訪れる。災害ボランティア団体からの声がけで、2021年8月、原爆投下から76年の日に合わせて広島を訪れることになったのだ。

一番の目的は、戦争の悲惨さを伝え続ける原爆ドームの見学。只野さんにとって、以前から大川小と重ね合わせて考える存在だった。

只野哲也さん:
実際に現場に来て原爆ドームそのものを見ると、言葉にできない伝わるものが本当にあると思う。原爆ドームも継続的に補強工事を行っていると聞いたので、形をとどめて後世の自分たち世代が見られることにすごく価値がある

そして被爆2世として伝承に取り組む男性とも交流した。

被爆2世のガイド・平原敦志さん:
(思いは)だんだん薄れる。薄れるのはなぜかというと、我が事ではないから。私が我が事というのは、いまだにおじを探している。ガイドする人の心得、本気でやらないと

さらに、90代の被爆者からも体験を聞いた。

只野哲也さん:
(伝承は)ある程度の覚悟を持って臨まなけれいけないことだと改めて思ったし、それができるのって大川だと誰なんだろうって思ったときに、自分がやらなければいけないと思う

広島訪問後、大川小の遺構としてのあり方について、只野さんはさまざまな課題を感じるようになっていた。

只野哲也さん:
体育館への通路が津波で倒れてしまっていますけど、これも多分かなり10年で老朽化が進んで、全部どんと下に落ちなければいいなと思っていて

只野哲也さん:
「未来を拓く」という文字が壁画に書いてあって、直後に比べると塗装が剥げて劣化が進んでいる。ただのコンクリートの壁になる前にやっぱり早急に対処しないといけないと思う

只野哲也さん:
震災伝承の建物が整備できたらそれで終わりみたいなのは、やっぱり違うのかなと思う。関わり続けるための取り組みとか、そういう仕組みがもっと必要なんじゃないかなと思う

そして2022年2月、只野さんは新たな取り組みを始めた。大川小の保存のあり方を地域とともに考えたいと、「チーム大川未来を拓くネットワーク」という団体を立ち上げた。

只野哲也さん:
大川小のこれからについて、みなさんと亡くなった方々と向き合い続けたい。よりよい未来を拓くために、人と人をつなぐネットワークを私たちなりに築いていきたい

メンバーには、今まで公の場に出たことがなかった卒業生も加わってくれた。

大川小卒業生・尾形響聖さん(24):
(当時)小学4年の弟と小学1年の妹を亡くしました。地域のみなさんやいろいろな人が集まって話せる場をつくりたい

大川小卒業生・今野憲斗さん(22):
一番は、さまざまな人に大川小学校を知ってほしい。SNSを活用して広めていきたい

すでに市の震災復興伝承室とも意見交換を進めている。

石巻市 震災復興伝承室・水澤秀晃室長:
未来の命を守っていくという思いは共通なので、一緒に考えて、一緒に歩んでいきたい

あの日から11年、教訓を永く伝え続けるために、只野さんは仲間とともに何ができるのかを模索し取り組んでいくつもりだ。

只野哲也さん:
訪れた人に何かきっかけを与える場所であってほしい。誰のためにこの校舎を残したのか、俺は自分のためじゃなく、これからの子どもたちのためだと思っているので。3月11日がどういう日であるべきか、見失わないようにしていきたい

(岩手めんこいテレビ)

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