ものづくりへの情熱や技術を未来につなげようと、新潟・三条市で運営される“ものづくりの始発駅”を取材した。
“ものづくりのまち”に誕生したEkiLab…趣味から商品製作までお手伝い

2021年3月、燕東小学校で開かれたアイデアコンテストの表彰式。
全国から200以上の応募があったなか、小・中学生部門でグランプリを受賞したのは『1本で2種類の飲み物が入る水筒』だ。

アイデアの商品化を目標に、初めて開催された「EkiLab(エキラボ)ものづくりAWARD」。主催したEkiLabの活動拠点は、三条市の無人駅・帯織駅にある。

中を案内してくれるのはEkiLab設立メンバーの1人、斎藤和也さん。
EkiLab 斎藤和也さん:
この機械は木を削るドリル、こちらはレーザーの光でアクリルなどを切ることができる

2020年に、JR東日本の“無人駅活用事業”として採択された「EkiLab OBIORI」。会員登録すると、設置された3Dプリンターやレーザー加工機など自由に使え、趣味の模型作りから販売目的の商品製作まで行うことができる。
EkiLab 斎藤和也さん:
“ものづくりのまち”ならでは、ものを作りたい人のきかっけになる場所

プラスチックの板を加工して、アクセサリーを製作していたのは上村達彦さん。
上村達彦さん:
自分の家には大きな機械を置けないし、作業する場所も大事なので助かっている。

EkiLab 斎藤和也さん:
機械の使用は1時間1000円で、スタッフが使い方をサポートする
しかし、この自由に使える機材は、ものづくりコンテストを主催したEkiLabの魅力の一部に過ぎない。
後継者不足に悩む工場も…若い世代にものづくりの“見えない部分”発信へ

EkiLabを設立した斎藤さんは、三条市にある金属のプレス加工を得意とする会社の3代目。ものづくりの拠点として知られる燕三条地域でEkiLabを設立した背景には、斎藤さんのこんな思いがあった。

EkiLab 斎藤和也さん:
燕三条の工場には、高齢化で後継者がいないところも。例えば包丁を作っているところは“包丁です”と言えるけど、うちは何を作っているか分かりにくい。そうしたなかで、若い世代に(ものづくりの魅力を)伝えるため、ものづくりの見えない部分を発信したい
異業種メンバーが知恵を出し合い、アイデアの商品化へ

この日、EkiLabで商品化に向け検討を行っていたのは『EkiLabものづくりAWARD』で表彰されたアイデアの一つ。
EkiLab 斎藤和也さん:
新幹線で席を仕切るパーティションを、一般の方が応募してくれた

コンテストで出たアイデアを、実際に商品化することが目標のEkiLab。新幹線の車内で覗き見を防止しながらパソコンを使えるようにする、パーティションの開発を進めていた。
EkiLab 斎藤和也さん:
燕三条のスペシャリストに加工を依頼。部品を調達して試作品を組み立てた。

EkiLabの大きな魅力は、燕三条地域を中心に様々な企業から集まる、ものづくりに興味を持つ頭脳。
EkiLabメンバー:
色んな業種の人と話をすることによって、思いがけないアイデアが出てくる
パーティションの商品化に向け、JR東日本に協力してもらい、実際の車両で使用実験を行うなど、本業以外の分野であってもメンバーの完成を目指す情熱は本物だ。
普段は印刷会社で働くEkiLabメンバー…社外活動を社長も後押し

EkiLabメンバー 藤田務さん:
自分の仕事だけでは世界が狭まってしまう。EkiLabは新しい可能性を見つけられる場所
こう話すEkiLabのメンバー、藤田務さんは三条市にある印刷会社で働いている。

藤田さんが会社以外でものづくりの事業に参加することを、会社側も前向きに捉えているようで…
プログラフ 岩橋泰夫 社長:
異業種の人と将来を考え、ビジネスチャンスにつなげる機会は少ない。将来の飛躍につながると思っている
試作品から大きく変化したパーティション “固定概念を破り”商品化!

新幹線で使うパーティションは、EkiLabで検討を繰り返した結果、劇的な変化を生んだ。
金属とプラスチックで試作されていたパーティションは、コンセプトだけが残り、「紙製」に。これが利益にとらわれない、純粋にものづくりを楽しむEkiLabの魅力であり醍醐味だ。
EkiLab 斎藤和也さん:
自分だけなら鉄で作って、そこで行き止まりだった

EkiLabメンバー:
固定概念を破る仲間は必要だと、商品開発で思った

藤田さんが勤める会社で印刷・完成したパーテーションはJR東日本に納品され、東北新幹線の新しい働き方を提案する取り組み“新幹線オフィス車両”でのレンタルが始まった。こうして得た利益は、EkiLabでの新たな商品の開発に充てられる。
EkiLab 斎藤和也さん:
ものづくりは簡単なようで難しいので、それをどう提供できるか考え、発信していく。そして、この地域が潤うといい

いくつものレールが集まるEkiLab。
EkiLab 斎藤和也さん:
(EkiLabは)ものづくりの始発駅。ここに来れば、新しいものづくりへの切符が手に入る

次の停車駅ではどんな商品が生まれるのか?
ものづくりの情熱と技術を乗せ、線路はどこまでも続いていく。
(NST新潟総合テレビ)