プーチンは核ミサイルを撃つのか

プーチンがウクライナ危機でもしかしたら核兵器を使用するのではないかと心配する人は、特に陸続きの欧州では多いのではなかろうか。この原稿を書いている時点(3/2朝)でロシア、ウクライナ両国は断続的に停戦協議を行っているが、近いうちに何らかの形で停戦合意を結ぶことになるだろう。

ロシアの弾道ミサイル発射演習
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ロシアの武力侵攻は東部だけでなく首都キエフなどウクライナ全土に及んだことに世界は驚いたが、軍事力で圧倒しているはずのロシアが現時点でキエフをまだ制圧できないなど、ウクライナ側の抵抗の強さも予想外だった。

約64kmの車列 ロシア軍がキエフ包囲網

ウクライナの「善戦」と欧米や日本などの経済制裁の厳しさに苛立ったプーチンは核カードを切った。市民が銃を取り軍事大国に立ち向かうウクライナは立派だが、市民の犠牲も増えている。停戦交渉ではウクライナ側の譲歩は避けられないだろう。

キエフが陥落すればゼレンスキー大統領がこのままの地位にとどまることは難しいだろうし、ロシアによる傀儡政権が現実的になる。つまりこの戦争はプーチンの勝ちなのかもしれない。一時的には。

ウクライナのゼレンスキー大統領(キエフ・27日)

プーチンの勝ちは長く続かない

ただ傀儡政権というのはその国の国民の士気が高い場合、長くもたせることは困難だ。また経済制裁は万能ではないがロシア経済をひどく痛めつけることは間違いない。ウクライナに対する世界の共感はものすごいうねりになっているし、ロシア国民の厭戦気分も強い。

プーチンおよびロシア国民はこのあらゆるネガティブな圧力に耐えられるのか。世界中のまともな人達すべてを敵に回し続けられるのか。確かに今はプーチンは勝つのかもしれない。だが5年後にもう一度「プーチンは勝ったか?」と聞くと答えは違ったものになるだろう。

ロシア・プーチン大統領

今回のウクライナ危機で「そもそもゼレンスキーがプーチンを挑発したのが悪い」と言う人がいるが、そういった主張は「民主主義のルール違反」の肯定につながるのでやめた方がいい。ただ世界にはプーチンのようにルールを守らない権力者がたくさんいるというのもまた事実だ。

日本の近くでも北朝鮮の金正恩がそうだし、韓国の文在寅だってルールや約束は守らない。だが日本にとって一番怖いのは中国の習近平だ。中国はこれまで南シナ海や沖縄の尖閣諸島で「力による現状変更」を目指してきた。

中国・習近平国家主席

ウクライナで盟友(?)のプーチンがいとも簡単に「力による現状変更」をしたのを見て、「ウチも台湾でやろうかな」と習近平は思うかもしれない。こういう非常に厳しい国際情勢で、いま日本は何をすべきなのか。フジテレビの「日曜報道」に出演した安倍晋三元首相がそのヒントを2つ指摘した。

「日曜報道 THE PRIME」に出演した安倍晋三元首相

安倍さんが示した日本の進路

1つ目は日本もドイツなどのように国内に米軍が配備する核を共同運用する「核共有」について議論すべきだとの考えを示した。日本も間接的に核を持て、ということだ。

岸田首相は翌日これを即座に否定したが、日本は「非核三原則」の国だから別に岸田氏が「ヘタレ」なわけではない。それより維新、国民民主、そして自民からも「議論すべき」との声が上がったのは良かった。この国会で議論してほしい。

岸田首相「被爆国として…」ロシア“核使用”示唆非難

加えて岸田政権は国家安全保障戦略など安保関連の3つの文書を今年末までに策定する方針だが、日米の防衛協力のガイドラインも台湾有事を想定したものに早く見直しをする必要がある。同盟国との連携を強めながら自分の国は自分で守るということを政治がきちんと主導してほしい。これが1つ。

もう1つの安倍氏の指摘は、原発の小型モジュール炉の導入だ。武力侵攻のプーチンの動機は「ロシアの復活」だろうが、背中を押したのは「脱炭素の行き過ぎによるエネルギー危機」だろう。石油や天然ガスの価格がこれだけ上がればプーチンは何でもできる。

メルケルが原発をやめてロシアの天然ガスに頼ったのも、バイデンがシェールガスを目の敵にしたのもはっきり言って「やり過ぎ」だった。EUはすでに原発との併存にかじを切っているがウクライナ危機でこうした「揺り戻し」の動きは強くなるだろう。

小型モジュール炉の必要性は高市政調会長が自民党総裁選で提起し、岸田首相も同調した。ただ岸田氏は原発の新増設には口をつぐんでいる。岸田さんは核管理や分配にはリベラルだがエネルギー政策は保守だと思う。ここは是非原発の新増設容認に踏み込んでほしい。

ウクライナの人達の無事を祈るが、危機はいつ自分達の所に来るかわからない。今できることはたくさんある。冷静に備えることが必要だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫


フジテレビ報道局上席解説委員。2020年4月から立命館大学客員教授。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。

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