蚊を媒介して感染するマラリア。現在でも世界で猛威を振るい、SDGsでは2030年までにマラリアの流行を無くすことがあげられている。
このマラリアは、戦前戦後を通して沖縄・八重山住民の多くの命を奪った。八重山のマラリア根絶から2022年で60周年を迎え、この歴史を後世に伝える取り組みが始まっている。

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世界で最も人を殺している動物…“蚊”

私たちの身の回りに生息する蚊。世界で最も人を殺している動物として知られていて,中でもマラリアによる被害が最も多いと言われている。

石垣市の伊野田地域はマラリアを根絶させるための拠点となった。2022年でマラリア根絶から60年となることをうけ、その歴史を称え、石碑と説明板を作るプロジェクトが始まっている。

仲原清正さん:
ぜひですね、後世に先駆者たちの偉業を継いでいければ良いのかなと

八重山地域のマラリアについて研究する、琉球大学大学院医学研究科斉藤美加助教に聞いた。

琉球大学大学院医学研究科 斉藤美加助教:
このコロナの影響で(世界のマラリアの患者が)62万7000人まで増えてしまいました。米軍の統制下という苦しい状況の中でもマラリアを無くしたという経験というものは、やはり世界にとっても教訓になるものが多くあるのだと思います

マラリアを無くすことが開拓への道

八重山の歴史と切っても切り離せないマラリアだが、戦前はマラリアが蚊を媒介して感染する病気であることが分かっていなかったと言う。

琉球大学大学院医学研究科 斉藤美加助教:
蚊によって運ばれているということも分からずに、空気で感染するとか、洗濯物をすると感染するとか、というふうに言われていて、怖がってはいたみたいなんですね。
当時、やはりマラリアというのは多くの人を苦しめて、村ごと廃村になったりというケースがかなりあって、その発展を妨げる最大要因であったというのは戦前から言われていた。
マラリアを無くすことが開拓への道だということは、ずっと言われていました

戦前、住民の1割がマラリアへ感染し続けていた八重山。人々は日々の暮らしの中で、マラリアに感染する場所、有病地がどこなのかを把握していた。
しかし、太平洋戦争末期の1945年、八重山は戦禍に巻き込まれ、戦時中に駐屯した日本軍によって、住民は有病地に強制的に退去させられることになる。

琉球大学大学院医学研究科 斉藤美加助教:
戦前からここが有病地、無病地っていうのは日本軍は知っていたんです。その知っていた有病地に、住民の人たちを強制的に疎開させてしまった。
熱帯熱マラリアを媒介する蚊の住処だったので、それで多くの人が亡くなっていったと思われます。人口の2分の1の1万6000人以上が罹患し、そして3647名の方が亡くなった

根絶に向けて…細かなデータ収集に基づき対策

戦争マラリアと呼ばれる悲劇の最中に、細かなデータを収集していた人物がいた。当時日本の統治下だった台湾で医学を学び、マラリアが蚊を媒介して感染する病気であることを知っていた吉野高善だ。

琉球大学大学院医学研究科 斉藤美加助教:
吉野高善という、台湾医専で勉強されてきたそのお医者さんがデータをとっているんです。戦時中にですね、年齢別であるとか、地域別、そして男女別など事細かなデータ

八重山民政府の知事に任命された吉野は、マラリア根絶に向けて、さらに細かなデータの収集とそれに基づいた対策を打ち出す。

琉球大学大学院医学研究科 斉藤美加助教:
本当に細かな地図を作って、ボウフラの発生状況を事細かに調べた地図というのを作っています。その地図を基にして、有病地・無病地というのを事細かに決めていった。側溝のボウフラを薬を撒いて対策をした

クラウドファンディングで後世に歴史伝える石碑と説明版

徹底した科学データを収集したことが功を奏し、1950年に八重山地域におけるマラリア感染者を0にすることに成功する。
しかし、その後 移民の影響でマラリアが再燃するが、GHQと保健行政、住民が連携して対応し続け、1962年 ついに悲願の根絶を果たす。

この歴史を後世に伝えようと、マラリア根絶まで対策を続けた伊野田地域に、石碑と説明板をつくるためのクラウドファンディングを斉藤助教授と地域住民が始めている。

仲原清正さん:
60年前までは本当に石垣島、八重山というのはヤキヌシマ、マラリアの島と言われて大変に恐れられた島なんですけど、今は誰もが住みやすいような綺麗な開けた八重山になってる。60年経っても一人の患者も出てないということは、皆でお祝いするべきものに匹敵するんじゃないかと

琉球大学大学院医学研究科 斉藤美加助教:
小さな島で非常に科学的な対策が取られていたというのは驚くべきことだなと。マラリアは貧困の原因であり、結果であります。あまりにもこの話が知られていないものですから、まずは伝えていかなければならないと思っています

科学データを基に対策を行うという姿勢は、マラリアだけでなく他の感染症対策にも必要とされていると歴史は問いかける。

(沖縄テレビ)

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