瓶入りの牛乳に欠かせない、紙製のふたが注目を集めている。老舗乳業メーカーが工夫をして商品化したところ、異例のヒットを記録しているのだ。

それが、1919年創業の山村乳業(三重・伊勢市)が販売する「牛乳瓶ノ蓋」。簡単に言うと“ふたのガチャ”で、牛乳やプリンなど現在の瓶入り乳製品に付けている11種類と、1960年代の瓶入り乳製品に使われた4種類の計15種類から、ランダムに選んだ5種類をカプセルに詰めたものだ。

こちらが「牛乳瓶ノ蓋」。ふたのガチャだ
こちらが「牛乳瓶ノ蓋」。ふたのガチャだ
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このガチャを2021年12月から直営店に置いたところ、月間で1000回も回されるなど大盛況。2022年2月7日からは企業サイトでのネット販売も行うようになり、既に1000個以上を売り上げているという。価格は店頭でのガチャが1回100円、ネットでの注文販売はカプセル1個が120円。※ネット販売は最低注文数が5個から。送料は別料金。

商品イメージ。レトロな雰囲気
商品イメージ。レトロな雰囲気

瓶を「過去のものにしたくない」

昔はふたを「めんこ」にして遊ぶこともあったと思うが、現在ではすぐに捨てられてもおかしくはない。それをなぜ販売し、どんな反響があるのだろうか。

山村乳業の担当者に聞いた。


――牛乳瓶のふたの販売を始めた、経緯を教えて。

瓶入り乳製品を過去のものにしたくなかったためです。紙パック容器の誕生以降、瓶容器の需要は低下していて、2021年には他の大手メーカーが瓶入り容器から撤退もしました。そうした中、弊社直営店で10代~20代の方がふたを「かわいい」と言っているのを耳にしました。私はふたが機能的な役割ではなく、愛着を抱く存在に変化していることに大変驚きました。

そんな思いを感じていたところ、弊社倉庫で1960年代の乳製品の紙栓(ふた)が見つかり、撤退や終売が相次ぐ瓶入り乳製品を持続性あるものにしようと、見つかったものと現行品のふたを販売することを思いつきました。ガチャガチャにしたのはわくわく感を持っていただき、瓶に触れたことがない人、飲んでいたけど時間が空いていた人との接点にもなれればと思ったためです。

直営店に設置したガチャ
直営店に設置したガチャ

――15種類のふたはどんなもの?当たりはあるの?

弊社の現行品に付けている11種類と倉庫で見つかった1960年代の4種類があります。実際に瓶に使うためのもので、ガチャガチャのためにプリントしたものではございません。1960年代の4種類は当たりとして、少数を封入しています。実際に当時使用したもので、販売以外で世の中に出回ることはございません。外見はもとの紙の色から日焼けしており、黄色くなっています。


――購入した人からどんな反応が寄せられている?

10代~20代の若年層は「かわいい」「レトロ」「エモい」など。それ以上の40代~60代は「懐かしい」とおっしゃっていましたね。小さなお子様連れだと「昔の牛乳は瓶だったんだよ」と言いながらご購入いただく方もいました。10代~20代は瓶牛乳を飲んだことがない方もいるので、一歩引いたところから形容したり、純粋にシルエットを見て感じられたのだと思います。

1960年代の紙栓(ふた)。色が年代を感じさせる
1960年代の紙栓(ふた)。色が年代を感じさせる

――購入したふたはどのように楽しんでほしい?

申し訳ないのですが、お勧めの方法は特にございません。ご購入いただいた皆さんが思いつく限りで結構ですので、お楽しみいただけますと幸いです。ネットでは記念に残したり、キーホルダーのようにする光景も見られました。

需要低下に高コストでも…瓶にこだわり

――瓶入り乳製品の需要が低下しているのはなぜ?

需要(お客様)と供給(乳業メーカー)の側面から申し上げます。需要側ですが、紙パックと比較して瓶は扱いづらい部分があります。例えば、重い・割れるなど。毎日の暮らしには相性が悪く、紙パックの登場以来、瞬く間に日常使いの頻度は減りました。

供給側だと、瓶は紙パックよりも供給コストが割高となる点があります。製造機器は老朽化しているものが多く、故障も頻発します。事業者数の減少に伴い、新たな機器の供給もままならず、メンテナンス費がかさんでしまうのです。弊社も修復を繰り返しております。加えて、瓶の仕入れ価格は紙と比較して高価で、 配送コストやリユースする際の洗浄コストも高くつきます。

こうしたコストを売値に転嫁できず、行き詰ってしまいます。上記のように、需要と供給どちらも課題が残るのが瓶容器であると考えます。


――それではなぜ、瓶容器での販売にこだわるの?

瓶容器は牛乳を“手軽に飲む”のではなく“おいしく飲む”上では、紙パックに勝ると考えます。五感を最大限活かしながら牛乳を味わえるためです。

視覚:瓶容器のシルエットから感じる懐かしい過去の思い出や、思い出がたとえなかったとしても漂う昭和レトロ
聴覚:瓶と瓶がぶつかる音から、早朝の牛乳配達を思い出させる懐かしさ
触覚:手や唇に伝わる瓶容器のひんやりとした感覚
嗅覚:紙栓と牛乳の液面との間に凝縮された芳醇な香り
味覚:紙パックと比較し他の食品のにおいが移らないなど、混じり気のない味わい

このように五感をフル活用して飲むシーンは特別かつ非日常がぴったりだと考えます。例えば銭湯や温泉でのお風呂上りの代名詞がそうであったり、最近であればサウナ上りであったり。観光地で見かけるとついつい飲みたくなりますよね。

瓶容器へのこだわりがあった
瓶容器へのこだわりがあった

――企業として思う、瓶容器の魅力を教えて。

牛乳を“おいしく飲む”という意味では、瓶容器に勝るものはないと考えます。加えて、日常を特別なものに変える一つの手段としても価値があると考えます。コロナ禍でのおうち時間の充実もそうですね。昨今ではSDGsへの関心もあり、瓶容器がご注目いただく機会も増えてきました。供給コストの問題をクリアし、社会的責任を果たしつつ事業継続していくことが大切であり、課題であると考えます。


――最後に試みが注目されたことの受け止めを。

ご関心いただき大変感謝しております。今回の「牛乳瓶ノ蓋」は弊社が販売しましたが、瓶容器とふたは、乳業メーカーやふたの製造メーカーが知恵を絞り考え、形にしてきたものです。ご参考いただけるものならばご活用いただき、業界発展の一助となれば幸いに存じます。

牛乳やコーヒー牛乳、プリンなど現在の乳製品のふた
牛乳やコーヒー牛乳、プリンなど現在の乳製品のふた

ふたの商品化は瓶容器への愛情から生まれたアイデアだった。捨てられてもおかしくないものに価値を見いだすという、こうした試みが増えていいのかもしれない。

(画像提供:山村乳業)

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。