2022年1月末、沖縄市でバイクに乗った高校生が警察官と接触し大けがをした。当時の状況の解明は進んでいるのだろうか。一部の若者が警察署を襲撃するまでにエスカレートとした背景、SNSで拡散された情報をめぐる問題について考える。

バイクに乗った高校生、眼球破裂の大けが

1月27日未明、沖縄市宮里の路上でバイクに乗った17歳の高校生と、暴走行為を警戒するために巡回していた警察官が接触し、高校生は右目の眼球を破裂する大けがをした。この接触をめぐっては双方で認識が食い違っている。

高校生は、救急隊員や親族に「警察官に棒のようなもので右目を殴られた」と訴えている。

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一方、警察官は「オートバイが前から走ってきて手に警棒を持った状態で両手で止めにいこうとしたが、一瞬のことでどこに当たったかわからない」と話し、けがをさせた認識はなかったとしている。

警察官と少年が接触した住宅街の路地、これまでに目撃者や接触した状況がわかる防犯カメラの映像もない。このような中で、真相を究明することはできるのか。

警棒使用の理由・バイクの走行状況も重要

刑事事件に詳しい松尾晋哉弁護士は、互いの認識が異なるケースは少なくないという。

沖縄つばさ法律事務所 松尾晋哉弁護士:
それぞれの立場からの見方というか、一つの事実を二つの立場から評価をして、片方の当事者が自分の認識している事実とは違うことを言っている可能性、それも当然あるのだとは思います。客観的に残されている証拠、状況と整合するかどうかの判断になろうかと思います

今回、警察官が手にしていた警棒。県警では暴走行為への警戒や深夜の徒歩警戒などの際は、原則として警棒を持って行動することとしている。

客観的な証拠の1つとして、高校生の傷は警棒が接触しただけでできるのか。またはそれ以上の力が加わらないとできないのか。バイクが出していたスピードは影響したのかなど、医師や専門家の意見も踏まえながら判断していく必要がある。

その一方で、けがをさせようと警察官が故意に警棒をふるっていたり、バイクの走行状況によっては、事件としての判断が180度変わることがあると松尾弁護士は指摘する。

沖縄つばさ法律事務所 松尾晋哉弁護士:
警察官が少年に対して、暴行を加えたと評価できる対応での警棒の使用方法だとしたらになりますが、特別公務員暴行陵虐罪でけがをされたので、致傷罪の疑いがかかることになるかと思います。警棒の使用が適正だということになれば、適法な行為、正当行為になりますので、警察官には罪が成立しないと。一方でバイクが突っ込んできて公務の執行を妨害したというのであれば、少年側に罪が成立するとていうことも確かにありうる

「今回の事案を非常に重大と認識している」とする県警。

捜査一課の東濱貴大次席は「まだ少年に話を聞けていないので警察官の話だけでは判断できず、事実関係については予断を持って答えられない。もちろん警察官に非がある場合は厳正に対処する。警察官をかばうつもりは一切ない」とコメントしている。

県警は全容解明に向けて警察官の制服や警棒などをDNA鑑定しているほか、高校生からも当時の状況などについて詳しく話を聞くことにしている。

「殴られた」「警察が隠蔽」という投稿が拡散

1月27日の夜、高校生と警察官の接触が発端となって起きたのが沖縄警察署の騒動だった。数百人規模に膨れ上がった今回の騒ぎはどうして起きたのか。

けがをした高校生の友人らがSNSに投稿し、瞬く間に拡散された文章の内容には「高校生が警察官にボコボコに殴られた」という言葉や「警察が隠蔽した」という言葉が含まれていた。

最初に沖縄警察署に集まったのは、抗議を目的とした20人ほどの友人だったが、SNSのライブ配信などを見た高校生とは全く関係の無い人たちも集まったことで、300人規模の騒動に発展した。

ネットリテラシーに詳しい識者は、急速に広がりやすいSNSの特徴として、少年がけがをした画像や「警察が隠蔽している」といったセンセーショナルな情報はより広がりやすく、また感情を揺さぶる内容は、それが確かなものであるかどうかが軽視されやすいという。

モバイルプリンスさん:
情報が曖昧になればなるほど誤情報は広がるし、重大であればあるほど広がる。今回の場合は、少年が眼球破裂という非常にインパクトの残る重大な事件であるとともに、情報がすごくふわふわしていて、不確かな状態のままあのような行動(襲撃)に出てしまった

この騒動で周辺住民に不安をもらたし、地域の治安を脅かした。

翌日の1月28日、沖縄警察署では機動隊が出動して警戒にあたった。次の日も襲撃の動きがあることを知った高校生の友人や家族は「本人のためにならないのでやめてほしい」と訴え、これも急速に拡散されて2度目の発生を食い止めた。

モバイルプリンスさん:
正しいかどうかよりもいろんな人の感情を起伏したり、他の人にも伝えたいという気持ちを喚起させるものが、SNSではいわゆるバズる(一気に話題が広がる)という形で広がっていく

ネットには不確かな情報、根拠のない批判も

一方、SNSをめぐって新たな問題が生じると、モバイルプリンスさんは危機感をつのらせている。

モバイルプリンスさん:
今、騒ぎ自体は沖縄警察署の前ではなくてネット言論空間に移っていると思う。明らかに誹謗中傷とか、少年に対してバッシングするような風潮がある

ネット上には騒動をめぐる不確かな情報が氾濫し、根拠のない批判や差別的な言動が見られている。高校生の親族からは、高校生が回復し誹謗中傷を見た時に傷つくのではないかと不安を寄せる声が聞かれた。

モバイルプリンスさん:
SNSとかスマホとかネットは身近になっていますし、こういったものを見続ける時間も増えていると思いますが、その情報や書き込みの内容をちゃんと考えて判断して、そういう作業をしていかないと。自分が何かにいつか加担する日がくるんじゃないか、という自覚が必要だと思う

2月4日、玉城知事は高校生と警察官の接触を発端とした一連の動きについて言及した。

玉城知事:
SNSなどでは事実関係が明らかでない中、様々な情報が飛び交っております。裏付けがあるものかということも含めて、慎重に見極め行動して頂きたいと思います

玉城知事は、どのような理由があるにせよ投石などの暴力行為は厳に慎んでもらいたいと批判し、また県警に対しては引き続き公正な捜査を進め、早急な全容解明と県民への情報の発信を行ってほしいと話した。

(沖縄テレビ)

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