毎日の生活に欠かせなくなったマスク。定番は白と黒のようだが、この「黒マスク」にはどんなイメージがあるだろうか。
ネット上には「かっこいい」「クール」といった意見のほか、「ちょっとダサい」「いかついイメージ」との声もあり、まさに賛否両論といったところだ。そんな中、新型コロナウイルスの流行前(2018年)とコロナ禍(2020年)の夏とでは、黒マスクへの否定的な印象が減っていることが研究で分かっている。
実験を行ったのは、北海道大学大学院文学研究院の河原純一郎教授らの研究グループ。
黒マスクの着用者について、北海道大学の学生98人に調査を実施。男性の顔の「魅力」「健康さ」「ファッション性」「イメージの良さ」の4つについて、それぞれ選択式で回答してもらった。
2018年の調査では「黒マスクを着けることで魅力が増加するか否か」については、「増加する」が24%、「どちらでもない」が20%、「低下する」が56%という結果に。
これが2020年(7月1日~9月17日実施)になると「増加する」が39%、「どちらでもない」が41%、「低下する」が20%と、2年間で“黒マスクで魅力減”と思う人が減っていたのだ。
さらに、2018年は黒マスクを「健康的」と思う人がわずか2%、反対に「不健康」と思う人は71%と圧倒的だったものが、2020年には「健康的」は8%に増加し、「不健康」は34%に低下。
このほか、ファッション性については「おしゃれ」と思う人が26%から51%に増加し、「野暮ったい」と感じる人は54%から30%に低下していた。
「イメージの良さ」については「良い」が4%から6%に、「悪い」が71%から60%に変化しており、他の3つの項目と比べると大きな変化は無いように感じるが、4つ全ての項目で“プラス”の方向へ黒マスクの評価が動いている。
マスクそのものへのネガティブイメージが減
これは、新型コロナの流行前に比べて“黒マスク肯定派”が増えているということなのだろうか。河原教授にお話を伺った。
――「黒マスク」にマイナスなイメージが多かったのはなぜ?
黒色はもともとネガティブイメージと結びついているという研究がかなり前から複数あります。宗教画では悪魔が黒、神様や天使は白で描かれます。(これはわたくしの推測ですが)人間も主として昼間に行動するので、暗闇を避けてきたせいかもしれません。
結婚式は白、葬式は黒というように、われわれの文化の中では喜ばしいものは白で表現し、忌むべきものは黒という割り当てが広く根付いているため、COVID-19流行で多少黒マスクが流行ったとしても、こうした長い歴史をもつ白・黒に対する傾向が簡単に逆転することはいまのところないのだと思います。
――では、そんな黒マスクのイメージがアップしているのはなぜ?
「黒マスクのイメージが向上した」という明確な証拠があるようには思えません。むしろ、マスク一般に対してネガティブな意味との結びつきが弱まったのだと思います。「疫病対策としてマスクはするものだ」という社会的な規範が一般化したためかもしれません。
黒色マスク着用者が増加したことによる単純接触効果などの可能性のほかに、黒という色に関係なく、マスクそのものへのマイナスイメージが減っていることが要因と考えられます。
――黒マスクは今後、白マスクと同程度のポジティブなイメージを持つことができると思う?
急には変化しないと思います。マスクは黒が若干増えることはあったとしても、相変わらず結婚式が白、葬式が黒というように、これまでの文化でのほとんどの白黒の組み合わせは変化していないからです。
この状態がずっと続けば、徐々に受容されてゆくかもしれません。ただ、スペイン風邪の頃は黒マスクのものを記事ではよく見ます。製品としてそれだけしか出ていなかったのかもしれません。なぜそれがそのまま定着しなかったのかはわたくしにはわかりません。
なお河原教授は、同様の調査を「白マスク」でも行っており、2015年の調査時は「健康的」のイメージが7%だったのに対し、2020年では16%と9ポイントアップ。「魅力」については「増加する」が44%だったところが2020年には69%と、25ポイントアップになっている。
コロナ流行の前後で、黒マスクの「健康的」が6ポイント、「魅力」が15ポイントとあがっていることとあわせて考えると、黒・白マスクともにイメージがアップしている。これは黒マスクが特別“イメージアップ”したわけではなく、マスクそのものを社会が受け入れる体制が整った、とみることができそうだ。
マスクを装着すると魅力アップ?
ちなみに、河原教授らの研究グループは、福山大学の宮崎由樹准教授と共同で「マスクの装着が魅力に及ぼす効果」についても検証している。
コロナ禍の2021年に行われたこの実験は、白または黒色のマスクを付けた20~30歳代の女性66人の顔画像をコンピュータ画面上に1枚ずつ提示し、18歳以上の男女合計59人が、画像1枚ごとに感じる「外見的魅力」や「健康さ」を1~100の範囲で評定するというもの。
すると、事前にマスクなしで測定した“もともとの魅力”が高い人の場合は、マスクを着けることで魅力はダウン。一方で、もともとの魅力が低い場合は、マスクを着けることで魅力がアップしたというのだ。
何ともはや…という結果だが、白・黒どちらの色のマスクを着けた場合でも同様になったという。
――今後、マスクを着けることはよりポジティブなイメージになる?意識はどう変化していくと思う?
どうでしょうね。こういう生活に慣れてゆけば、マスクと不健康さとの意味的な連合は切り離されるかもしれません。ただ、表情がわかりにくい・個人が同定できない(誰かわからない)という点が回避できませんので、わたくしはマスク生活は1日でも早く終わりたいです。
表情がわからない場合は、相手とのコミュニケーションの妨げになるだけでなく、発達面で人間関係の作り方を学んでゆくはずの乳幼児にもよくない影響が生じる可能性が指摘されています。
マスク装着が日常となり、マスクへのイメージは変化した。ただ、河原教授が語るように、マスク装着の弊害が今後出てくる可能性もあるので、一日も早くマスクなしの生活が訪れることを願いたい。