大阪・ミナミの一角に、いつのまにか若者が集まるようになった場所がある。ミナミのシンボル「道頓堀グリコサイン」の下にある、「グリ下」だ。

グリ下に集まる若者ら:
1歳の時に出て行った父親!養育費払えよおい

グリ下に集まる若者ら:
アル中の父親、私に缶ビール投げるのやめろ

グリ下に集まる若者ら:
私、ガチでちゃんとしたいねん

グリ下を「居場所」と感じる子供たち。そこにある複雑な思いを取材した。

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若者が集まる「グリ下」…2021年6月以降に急増

大阪・ミナミ。2022年の始まりは、戎橋の上にも下にも人が溢れかえっていた。
年が明けてすぐの1月4日。いつも通り、たくさんの人が行き交う橋の下に若者たちが集まっていた。

記者リポート:
今少し風も吹いていて寒いんですけれども、20人ほどの若者が1時間前からずっとこの場所で喋っています

ミナミのシンボル「道頓堀グリコサイン」の下は、いつからか「グリ下」と呼ばれるようになった。そこに集まる若者たちが、2021年の6月以降、急増している。

(Q.「グリ下」って聞いたことありますか?)
ミナミによく来る女性(20):

あります。友達がグリ下だけど、普通に溜まって遊んでいるだけらしい

グリ下と交流が深い路上パフォーマー・ケン太郎さん(24):
橋の下にいる印象だったので、上に上がってくるってこと全くない、身をとどめている感じ

グリ下に集まる若者…「家にいたくない」語られる事情

午後9時ごろ、グリ下に7、8人ほどの若者が集まっていた。

(Q.みなさん何歳ですか?)
グリ下に集まる若者:

16歳

グリ下に集まる若者:
17歳

グリ下に集まる若者:
さっき21歳って言ってたけど、中3です

実は、記者が話しかけに行く少し前、中学3年生の少年に橋の上でインタビューをしていた。
しかし、その時はミナミでアルバイトをする21歳と名乗られ、「グリ下には行ったことがない」と言われてしまっていた。警戒されていたのだ。

(Q.なんで集まるのかなと思って)
グリ下に集まる若者:

何でもよくないですか? 何でもいいじゃないですか
(Q.何でもいいかもしれないけど、それを知りたいです)

そんなやりとりをしていると、詰め寄ってくる若者たち。どんどん人数が増え、記者はいつの間にか囲まれてしまった。
始めは警戒されていたものの、話を続けると快く取材に応じてくれた。

(Q.みんな今日はどうして集まったんですか?)
グリ下に集まる若者:

友達がいるから

グリ下に集まる若者:
友達を増やすため

グリ下に集まる若者:
Tik Tok撮りに来た

(Q.元々みんなは友達ですか?)
グリ下に集まる若者:

全然初対面から仲良くなった、今日初対面じゃない人もいるし、今日初対面の人もいる

グリ下に集まる若者:
インスタつながりとか

グリ下に集まる若者:
インスタのストーリーズ、こんな感じです。これでみんな行くってなったら、これで募集して「はい」を押した人と会う

この日集まっていたのは、中高生ばかり。「毎日のようにグリ下に集まっている」と話す。

グリ下に集まる若者:
家にいたくないから

グリ下に集まる若者:
家庭ってもんは色々あるやん

家庭の事情の話になった途端、彼らは口々に思いをカメラにぶつけ始めた。

グリ下に集まる若者:
1歳の時に出て行った父親、養育費払えよ

グリ下に集まる若者:
アル中の父親、私に缶ビール投げるのやめろ

グリ下に集まる若者:
これ親に見せてあげて。こういう悩みがあって来てる

中には、家出中に捜索願を出されて警察に保護され、児童相談所に入っていた高校生も。

グリ下に集まる若者:
私、児相を出てから、ここに来始めたかも

グリ下に集まる若者:
私は同じ家出経験の子に会えたらいいなと思った

グリ下に集まる若者:
同じ”毒親”悩みの関連でつながる

出てくる言葉、ひとつひとつが悲痛な響きを抱えていた。彼らの多くは、不登校で家出を繰り返し、ビジネスホテルなどで寝泊まりをしているという。

グリ下に集まる若者:
2人部屋を借りて、20人とか15人入ったりする。ギュウギュウでも全然暖かい

彼らは陽の当たる上には行かず、自らの意思で下に来ていると言う。

グリ下に集まる若者:
(戎橋の)上に行ったらナンパされるから面倒くさい。下に行ったらみんないるし、守られている

グリ下に集まる若者:
マジで第2の家みたいな

グリ下に集まる若者:
ここにいる時だけは嫌なことを忘れられる

様々な人と文化が入り乱れるミナミ。その中で一番陰に埋もれた「グリ下」が、彼らにとって守るべき場所であり、心の拠り所になっているのだと取材して感じた。
しかし、そのつながりはSNSで生まれた希薄なもの。アカウント名で呼び合い、本名を知らないなんてこともある。

そんな場所には良いことも悪いことも、簡単に入り込んで来る。そうした現状に、警察も警戒を強めている。
彼らが犯罪の被害者にも、加害者にもなるケースが増えているからだ。

グリ下の危険な側面 違法行為・性被害も…

2021年、警察がミナミで子どもを保護したうえで、児童相談所に引き渡した件数は36件。
前年の倍以上になっている。(令和2年:14件)
特に、「グリ下」に若者が定着した9月からは急増している。

そして、違法行為に関与する未成年も一定数いる。

以前グリ下にいたコンセプトカフェ店員(16):
グリ下って、めちゃくちゃヤバいんですよ。小学生くらいでもタバコ吸ったり、お酒飲んだり。急性アルコール中毒になって運ばれたりとか聞きます

グリ下と交流が深い路上パフォーマー・ケン太郎さん(24)
自分の体売ったり、パパ活とかいろいろありますけど、危ないことでお金を貰っている印象がある

犯罪に利用されたり、巻き込まれたりしている子供たちもいる。

グリ下に集まる若者:
児ポ(=児童ポルノ)が多い、何回も被害者になった。ネットで知り合った人と会ってから児ポみたいな。
アニメの女のコスプレしてて。突然変なハゲ散らかしたおっさんがスカートめくってきて、「お前男か、男でもいいわ」と言われて引っ張られて、路地裏行かされた。
葉っぱ(=大麻)やってる子はいる。グリ下の中には、ちらほら葉っぱ売ってる人もいる

半グレと呼ばれる不良グループや売春の斡旋業者が出入りするなど、「グリ下」は想像以上に危険な一面も持ち合わせている。

18歳少女 “虐待”の自宅を出てグリ下に

そんな「グリ下」にいながら複雑な思いを抱く少女がいる。
18歳のあんなさん(仮名)。通信制高校の3年生だが、途中から授業を受けていない。

2021年6月に「グリ下」に居場所を見つけた。

グリ下で知り合った少女:
2万円ほど持ってない?

あんなさん:
なんで?

グリ下で知り合った少女:
3万円にして返すからさ。今日中に2万親に返さないかんからさ

あんなさん:
2000円しか持ってない

グリ下で知り合った少女:
やっぱり無理やんな~、死にたい。めっちゃ鬱やわ

あんなさん:
さっきまでなら1万持ってたんやけどな

グリ下で知り合った少女:
もぉー!

幼い頃から母親に虐待を受けていたというあんなさん。新型コロナの影響で、家で一緒に過ごす時間が増えたことが耐えられなくなり家出をし、「グリ下」に来た。
友人が泊まるホテルを転々として過ごしていたが、半年以上たった今、「グリ下」を”離れたい”という気持ちを口にする。

店員:
グリ下はいつ卒業するの?

あんなさん:
もう卒業気味やで

店員:
最近ガキが多いんやろ?

あんなさん:
そう、最少年齢10歳やからな。グリ下の人、普通じゃないねん、会話つながらん

最近はSNSの投稿を見た若い世代が押し寄せるようになり、相談事をする友達も少なくなったという。

あんなさん:
今は仲いい人いなくなったし、あんまり。別にしゃべることないから。楽しくないもん

抜け出したい理由は「環境」だけではない。
将来の夢はデザイナー。飲食店のアルバイトを続け、去年11月からはケースワーカーの援助のもと、アパートを借りることができた。

(Q.あんなさんもグリ下の一員って言われたら?)
あんなさん:

めっちゃいや!バリ嫌、無理、無理、無理。恥ずかしいもん。ただ害悪と思われるだけだし

あんなさんは“グリ下の中心”にいるような存在だと思っていた記者は、この発言に驚いた。はたから見れば「グリ下」の一員に見える彼女が、「グリ下」を拒んでいるのだ。

「ガチでちゃんとしたい」少女が語った理由と思い

あんなさん:
私、ガチでちゃんとしたいもん。偶然出会った人がただのグリ下なだけで、仲良くしたいからおるだけで、グリ下扱いはされたくない。多分みんなそう思ってる

ある時、急に「ここにいたら自分の価値が下がる、運が悪くなる」と考えが変わったのだそうだ。あんなさんの変化と決意を取材で感じることができた。

グリ下には様々な境遇、思いを持った若者が集まってくる。
暇だから来た人。同じ趣味の友達を作りに来た人。“友達”を食い物にしようとする人。ここにしか居場所がない人。慰め合いに来た人。ここを離れたいと思っている人。

グリ下には感情が複雑に交差している。そんな不安定な場所で彼らは生きている。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年1月6日放送)

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