樹齢2000年 日本三大桜の一つ「山高神代桜」
山梨県北杜市の実相寺の門をくぐると、満開の時期を迎えた30本の桜の木々が私たちを迎え入れてくれた。

その中でも、圧倒的存在感を誇る1本のエドヒガンザクラがある。
福島県の三春滝桜、岐阜県の淡墨桜とともに、日本三大桜のひとつとされるその桜は、樹齢約2000年、日本最古の桜といわれている「山高神代桜」だ。


1922年、桜として初めて国指定の天然記念物となった神代桜。暖冬の影響もあり、2020年は例年より1週間ほど早く見頃を迎えた。
背景にそびえ立つ南アルプス、境内一面に広がる約8万株の水仙とともに美しいコントラストで訪れた人々の目を楽しませた。

懸命な回復工事
1950年頃、明治大正時代に撮られた写真と比べて、神代桜は明らかに木が小さくなっていることが確認された。

台風で中央の太枝が折れてしまった神代桜を、1922年と2006年で比較したところ、高さが約3メートル、枝張りの距離が10メートル以上にわたり小さくなっていることが判明した。神代桜を思い行った盛り土は、木への酸素供給を妨げ、保護用の屋根も根元を乾燥させ樹勢に悪影響を与えてしまっていたのだ。
そこで2003年、当時の武川村が中心となり、本格的な樹勢回復工事が始まった。

土壌を入れ替え、周辺の道路整備を行うと、早くも翌年には新枝の伸びる量や葉の枚数に明らかな樹勢回復が見られるようになった。

神代桜の種から生まれた「宇宙桜」
2008年JAMSS(有人宇宙システム株式会社)が行った宇宙文化事業の一環で、神代桜の種は、若田光一宇宙飛行士らとともにスペースシャトル・エンデバーに乗り込み宇宙へと旅立った。
8ヶ月の間国際宇宙ステーション「きぼう」に滞在した全国14カ所の桜の種はそのごく一部が発芽し「宇宙桜」と呼ばれるようになった。

帰還から1年後の2010年に発芽した、神代桜から生まれた宇宙桜。
今では約7メートルの高さまで成長し、もこもこした鞠のように花を咲かす神代桜とは少し違った咲き方をしているが、小さく可憐な花を毎年咲かせ、寺を訪れる人々の注目を集めている。
この宇宙桜、少し変わった花を咲かすことがある。

通常桜の花びらは5弁ですが、まれに6弁の花びらを付けた花を咲かせる。実相寺の松永直樹住職の話では「花が咲き始めた当初から6弁の花が見られた」という。

科学的な根拠が証明されているわけではないが、「宇宙を旅した桜だからではないか?」と想像しながら見るのも良いのではないか。
取材後記
圧倒的存在感という言葉がこれほどまでに合う桜と、初めて出会った。
たくさんの添え木に支えられながらも、なぜここまで咲き誇っているのか?と感じさせる神代桜の生命力の強さ。

樹勢回復工事が始まるまでは、枯れ枝が増えてきたり木が欠けたりしたことから、松永住職は「何年か先にはもう枯れてしまうのかな?」と感じることがあったものの、毎年立派な花を咲かせ続けているという。
何とかしたい、強く願った地元の人たちの思いが届き、再び新枝が見られるまでに回復したのではないだろうか。
そして宇宙桜。他の桜に比べると、少し地面に向かって咲く花が多いように感じる。

松永住職は「宇宙を旅してきた桜なので、(空から)地球を見下ろすような感じで花が咲いているのかな?なんて思ったりする」と話していた。
取材した日は6弁の花を比較的短時間で、2つ見つけることができた。住職からは「よく2つも見つけたね」と声をかけて頂いた。6弁の花を咲かせることも、少し下を向いて花をつけることも、科学的な証明がされているわけではない。深く根拠を突き詰めるよりも、「宇宙を旅した桜だからこうなったのだ」と考えながら宇宙桜を見上げる方が、ロマンがあって良いと思った。

悠久の時を越えて咲き誇る神代桜。
これから先も、新たな命とともにその雄大な姿で私たちの目を楽しませてくれるだろう。
取材撮影部 市川敏史
土屋将司