3年半後に迫った大阪・関西万博。会場となる人工島・夢洲では、今、巨大な工事が進んでいる。長らく「負の遺産」と呼ばれ、かつては草が生い茂って手付かずだった場所で進む工事の全貌を取材した。
「負の遺産」夢洲
2025年の大阪・関西万博の会場となる、大阪市此花区の人工島、「夢洲」。
1970年代に、ごみの処分場として使うため埋め立てが始まり、1983年には、この一帯に「国際情報都市」を作る計画が持ち上がったが、バブル崩壊のあおりを受けて頓挫。
さらに2008年のオリンピックを大阪に招致し、夢洲を選手村として使ったあと住宅地にするという計画も立てられたが、招致レースで北京に敗れ、またしても頓挫。
いつしか、「負の遺産」と呼ばれるようになった。
「むき出し」で進められる地下鉄駅の工事
12月、夢洲を訪れると、万博会場の玄関口となる「夢洲駅」の工事が進められていた。
上空から見てみると、工事をしている部分にフタなどはされず、鋼材などが「むき出し」になっているのが分かる。
大阪港湾局計画課 臨港鉄道整備担当課長:小林靖仁さん:
市街地で地下鉄の工事をやる場合は、通常道路の下に作りますので。交通確保しながら地下を掘っていくので、通常はフタをしながら工事をするんですけど。
(Q.街中でむきだしで地下鉄の工事することはない?)
まずないですね。夢洲の現場特有なので、見ていただければ
2024年度の完成を目指し、2020年7月に着工。工程の3割ほどが終わっている段階だ。今回、特別に中に入らせて頂いた。
大阪港湾局計画課 臨港鉄道整備担当課長 小林靖仁さん:
地下2階構造になっていまして、地下1階はコンコース階、改札など。地下2階がホームのある階
(Q.ここはもうコンクリート打ってありますね)
部分的にコンクリートの打設も進めていますね。
(Q.まさに列車が通るところ?)
そうですね。この上に線路を敷いて、列車が通っていく
55階建てビルの建設計画もIR誘致決まらず…
夢洲駅は、地下鉄中央線・コスモスクエア駅の先に建設される。夢咲トンネルはすでに地下鉄が通れる空間ができているため、現在工事されているのは夢洲部分の1キロほどだ。
駅部分は地下2階構造で、幅は約20メートル、深さは17メートルで、全長は400メートルに及ぶ。
大阪メトロは当初、1000億円以上をかけ、55階の高さがあるタワービルの建設を打ち出したが、IRの誘致が決まっていないことなどから計画を見直した。万博開始時に立派な駅ビルが建つことはなくなった。
(Q.いまのペースは順調?急ピッチ?)
大阪港湾局計画課 臨港鉄道整備担当課長 小林靖仁さん:
順調ですけど、急ピッチで進めていかないといけない、という前提。
(Q.休みはありますか?)
ありますよ。ちゃんと作業員さん、休みとらせていただいて。
(Q.工事自体止まる日もある?)
埋立地なので風がきついんですよね。風がきついとクレーン作業は止めないといけないので
テニスボールを落として危険を知らせる? 様々な工夫
万博の開始までに「絶対に間に合わせなければいけない」現場では、様々な工夫が施されていた。
大阪港湾局計画課 臨港鉄道整備担当課長:小林靖仁さん:
地上から掘り下げていくのに鋼材で地盤を支えないといけないが、通常の工事だったらもっと密に入れないといけないが、工夫して5メートルくらいとっているけど、通常なら3メートルくらいの間隔で入れないといけない。
(Q.5メートルの間隔を開けることがなぜ可能?)
大阪港湾局計画課 臨港鉄道整備担当課長 小林靖仁さん:
斜めに梁を出して、力を分散して支えることができる
地盤を支える鋼材は、接地面を増やして力を分散させ、間隔を開けることでクレーンから資材を下ろしやすくしている。
ほかにもこんな意外な工夫も…
新実キャスター:
例えば、突発的な事故とか地震とか災害が起きた時に、もちろん笛を吹いて注意促すんですが、工事の音で聞こえない時にテニスボールを上から落とすという事です。『事故あったんかな』と気付いてもらうためのものなんだそうです。緊張感を持ちながらの作業なんだなとよく分かります
かつては干潟…進む地盤改良
次に向かったのは、土が盛られた広大な土地だ。各国のパビリオンが建設されるスペースだ。会場をぐるりと囲む「大屋根」なども設置される。
五洋建設 大阪支店 西口松男 工事所長:
工事しているのは30ヘクタール。甲子園でいうと8個分。
しかしこの場所は、工事が始まる2年半前までは足を踏み入れられない干潟だったようで…
(Q.造成地のうち、干潟だった割合は?)
五洋建設 大阪支店 西口松男 工事所長:
基本的には30ヘクタール全部干潟だった。入ると(足が)ズボズボと入るところからのスタートでした
夢洲の土は、海や川の底を掘り起こしたいわゆる浚渫土(しゅんせつど)。そのままでは建物が建てられないため、大規模な地盤改良がおこなわれている。
五洋建設 大阪支店 西口松男 工事所長:
ドレーン。排水層を上下に設けて、合成繊維を設置して、その中の水がぬけていくものを設置する。水が抜けることで圧密と呼ぶが、その分 水が抜ける。全部でドレーン17万5000本を設置しています。
ドレーンの上にはすでに盛り土がされ、今後1年ほど放置することで地盤を圧縮し、強固にするそうだ。
過去最悪レベルも想定して「かさ上げ」も
地盤改良以外にも、埋立地の夢洲では高潮や津波への対策が求められる。3年前、大阪を襲った台風21号では、関西空港が一部水没し、埋立地の弱さが露呈。
夢洲でも想定を超える高潮が防波堤を超え、会場の土地が削り取られる被害が出た。
会場となる部分は大阪湾の最低潮位を表す「OP」という基準よりも、11メートルかさ上げされているとのことだが、果たして水害には耐えられるのか?
大阪港湾局 計画整備部 水谷泰裕 担当係長:
高潮は、伊勢湾台風規模の台風が、平成30年の台風21号のコースで通った想定のシミュレーションで、最も高い波でOPプラス7.5メートル。津波は、南海トラフ巨大地震が発生した場合の想定で、最大でOP+5.4メートルなので(夢洲は)それよりも高い
新実キャスター:
なるほど。となると、水がこれを超えることは過去最悪レベルでもないだろうと
最悪のケースを想定し、かさ上げを進めるほか、3年前に被害が出たのり面は全てコンクリートで覆う工事が行われる予定だ。
3年半後の開催に向け、急ピッチで工事が進められている夢洲。世界中の人たちに安心して楽しんでもらうため、現場はきょうも動いている。
(関西テレビ「報道ランナー」2021年12月13日放送)