12月23日から始まる全日本フィギュア選手権。来年の北京オリンピックの代表最終選考会となるこの大会では、男女ともに3枠の代表の座をかけた激戦が予想される。

そんな中、絶対王者・羽生結弦がこの数年挑み続ける「4回転アクセル」に注目した。羽生はなぜ“世界初”となるこのジャンプに挑戦し続けるのか。そして体操界のレジェンド・内村航平が「羽生くんしか超えられない」と驚いた「4回転アクセル」に必要なものに迫った。

「人類が作ってきた“壁”を超えたい」

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オリンピック連覇を始め、フィギュアスケート史上で数々の偉業を成し遂げてきた絶対王者・羽生結弦。平昌オリンピック後の2018–2019シーズンから取り組んでいるのが、これまで誰も成功したことがない「4回転アクセル」だ。

アクセルジャンプは、フィギュアスケートの他のジャンプとは違って、唯一前向きに踏み切るジャンプであり、前方に飛ぶことの恐怖心を克服すること、そして他のジャンプよりも半回転多く飛ぶことが求められる、難易度の高いジャンプである。

羽生の構成表には4Aの文字が(2018-19年シーズン)

成功すれば世界初となる「4回転アクセル」。その成功こそがオリンピック連覇を成し遂げた羽生を突き動かす原動力となってきた。

「限界突破、ある意味今まで人類が作ってきた“壁”みたいなものが4回転半っていうものだったと思うんですよ。僕自身も作っているし…、それを超えたい。それがたぶん僕らフィギュアスケーターの限界の壁だと思うし、その限界を超える『章』にしたいと思います」

こう語る羽生結弦は、「4回転アクセル」の難しさをこれまで何度も話している。

「走り幅跳びの状態で、回転をつけながら跳んでいく感じ」
「4回転アクセルの時の軌道と3回転アクセルの軌道は全く違うものなので…」
「イメージはできるんですよ、しっかり…夢で(成功して)降りてるんですよ」
「まだ(成功して)降りられていないっていう悔しさみたいなものとか、絶望感みたいなものを日々味わってはいたんですけど…」

羽生結弦をしても、この3年間で超えられなかった“壁”とは、どんなものなのか。
3人のスペシャリストに話を聞いた。

4回転アクセルに挑戦した無良崇人

1人目はプロフィギュアスケーターの無良崇人。自身も過去に「4回転アクセル」に挑戦して、その難しさは熟知している。

「やってみて最初にわかったことは、空中感覚が今までの4回転ジャンプとか3回転アクセルとは別格に長く感じるし、きつく感じるんですよね。結局まずは回転に負けないだけの体を作らなければいけない」

絶対条件は、「ベースとなる肉体の強化」と話す無良は、1年前の全日本フィギュアでの羽生の様子をこう語った。

「ジャンプの上がるタッチ。普通にスーってゆっくり滑ってきてポンって上がって、4回転跳んじゃったりもしていたし、トレーニングを変えて体を作り直してきたら、一気にまた一段変わったんですよ。
スピードがあってもなくても、どちらでも力が出せるようになっている。『すごい』って思って…。多分4回転アクセルに最終的に通じる形になっている」

無良は、このとき羽生の進化を感じていたのだ。

ジャンプの角度は走り幅跳びの世界記録と同じ

2人目は、桐蔭横浜大学大学院でスポーツ科学を研究する桜井智野風教授だ。桜井教授は羽生に関する興味深い『データの一致』を見つけたという。

櫻井教授は羽生のジャンプを分析

ジャンプの高さ、距離、着氷速度を計測するシステム「I-Scope(アイスコープ)」のデータから、桜井が導き出したのは、ジャンプの踏み切り角度だった。

「羽生選手の3回転アクセルは、22度から23度の角度で跳び上がっている。そして、驚いたのは、この角度は走り幅跳びの世界記録と大体同じ角度なんですね。だから、飛距離を出すには最高の角度で踏み切っていると思います」

上:M.パウエルの走り幅跳び、下:羽生の3回転アクセル

桜井教授によれば、アメリカのが1991年に記録した世界記録8m95cmの跳躍と、羽生の3回転アクセルの踏み切り角度は、ほぼ一致しているという。

実は羽生自身もすでに理想のジャンプをイメージしており、かつて「4回転アクセル」成功への理想の数値を、こう話していた。

「(高さは)0.8m以上はないとダメですし、距離的にも4m以上はないとダメかなと思っていて…」

桜井教授もこの数値には納得の表情でこう付け加えた。

「(自分が出したデータと)ほとんど同じ角度になりますから、もうバッチリ合うデータですね。この角度で、いかに強い踏み切りで遠くに跳べるかということを考えた方がいいのかと思います」

レジェンド・内村航平「人間がやる技じゃない」

そして最後は羽生自身も憧れるアスリート、体操界のレジェンド・内村航平。

内村は、羽生の「4回転アクセル」への挑戦に興味深々だった。

「体操選手の視点から見たらどういうふうに見えるのかなと、(4回転アクセルへの挑戦を)興味本位で見だしたらめちゃくちゃハマっちゃって…。まあ、人間がやる技じゃないんじゃないなというのは、最初に見て思いました」

内村をして、人間がやる技ではないという超高難度のジャンプ。

この技をどう攻略するかを聞いてみると、「フィギュアのことわからないので、おこがましいですが」と前置きした上で、羽生の動画を見ながら「もっとひねれたら」と解説した。

「やっぱり最大到達点までにもっとひねれたら…。体操だとめちゃくちゃ早くひねりをかけるという技術なんですけど」

体操とフィギュア、同じ「ひねり」でも身体の使い方は異なるようで、羽生の「ひねり」は上半身と下半身がシンクロしながら「ひねり」始めることに着目して、こう続けた。

「体操の場合だと上半身きっかけなんですよ。下半身はあとで持ってくるというやり方なんですけど。上半身を先にもうちょっとひねれたら、下半身がブーンってついてくると思うんですよね」

「やっぱり高さがないとひねれないですけど、それかもうちょっと遠く跳ばせたら、より飛距離が伸びてくるので、その分ひねれるかなというのもあるんです」

この課題において、羽生自身も高さと飛距離の両立が難しいと話していることを伝えると、「めっちゃわかります、やったことないけどわかります」と大きく頷いた。

そして、内村は最後にこんな言葉で締めくくった。

「人は超えられないです。羽生くんしか超えられないです」

身体能力の進化、走り幅跳びの世界記録と一致する踏み切り角度、そして、世界屈指のアスリートが話す「ひねり」の重要性。

「走り幅跳びの状態で、回転をつけながら跳んでいく感じ」

こう話していた羽生の「4回転アクセル」成功への現在地は、果たしてー。

シーズン初戦を迎えるディフェンディングチャンピオン・羽生結弦は今年も、全日本の舞台に立つ。注目の男子ショートプログラムは24日、フリーは26日に行われる。

北京五輪代表最終選考会
全日本フィギュアスケート選手権2021

フジテレビ系列で12月23日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/