北海道函館市にある小さな食堂がコロナ禍を乗り越え、仰天の記録を打ち立てた。観光客が減って苦しむマチで、地域に愛される店が伝える逆境に負けないヒントとは?

コロナ禍で観光客が激減した函館市。
しかし、ベイエリア近くの定食屋から聞こえてくるのは元気な笑い声。

たつみ食堂 店主 山田 征勝さん:
がははははっ

地域の人がこよなく愛する「たつみ食堂」。ある大記録の達成が迫っていた。

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たつみ食堂 店主 山田 征勝さん:
休まず1万日、27年4か月頑張りました

休まず店を開け続けてなんと27年、連続1万日。

マチに津波が押し寄せた日も、ブラックアウトの日も店を開け続けてきた。
そしてコロナ禍。それでも休まない。

その姿は、コロナ禍で傷ついたマチの光になっていた。

27年間、休まずに営業を続けてきた函館市の定食屋「たつみ食堂」。
前人未踏の大記録、連続営業1万日目の朝を迎えた2021年12月12日。店主の山田征勝さん(80)は、毎朝手を合わせる神棚に報告した。

たつみ食堂 店主 山田 征勝さん:
1万日、達成することができました。ありがとうございます

無休営業を始めたのは、村山内閣が誕生した1994年。腰を痛め半年間休業した時、客が離れた苦い経験がきっかけだった。

心に決めた「無休営業」

たつみ食堂 店主 山田 征勝さん(2005年当時):
(休むと)当然お客さんはいなくなりますよね。人並のことやったんじゃ勝てない。とにかく「たつみ」の名前を売ろうということで、無休営業をスタートしました

地域の若者の成長を見守り、旅行客をもてなす。そんな1日1日を積み重ねてきた。
2011年の山田さん。東日本大震災があった日も店を開けた。
そして迎える1万日。

たつみ食堂 店主 山田 征勝さん:
感無量どころの騒ぎじゃないよ。涙が出てきている。あれ、ティッシュなかったかな(笑)

午前10時30分、開店と同時に3組の客が来店した。

1万日目…開店と同時になじみの客が

――きょうどちらから?

客:
地元です。市内の栄町でライダーハウス経営してます。昔からここのお父さんにお世話になっています。うちの宿でも、ここの料理安くておいしいと紹介しています。持ちつ持たれつでやってきました

地域とのつながりが無休営業の原動力だ。

観光都市でもある函館市はコロナ禍で大きく傷ついた。2021年上期の観光客は、2020年同時期から9%ほど増えたものの、回復にはほど遠い状況だ。閉店を余儀なくされる店も相次いでいる。

そうした中、無休営業を続けたたつみ食堂は、一筋の光になっている。

「地域とのつながり」も原動力に

函館市の複合商業施設「シエスタ ハコダテ」。2021年4月には北海道内で初めて、無印良品が手掛ける食料品専門売り場が誕生。さらに移動販売車を使い集会所で食品を販売するなど、地域密着がテーマだ。

シエスタ ハコダテ統括責任者 岡本 啓吾さん:
たつみ食堂さんもそうですよね。地域の人と関わりながら続けていった1万日は代えがたいもの

さらに、こんな店も。12月1日にオープンした六花亭漁火通店。

地元客:
なかなかこういう景色を見ながら食べるってことはないので、気分転換になる

2階の喫茶室は、地域の人が海を見ながらゆったりできるスポットとして人気だ。地元のファンを増やし、逆境に負けない取り組みが函館市の各地で続く。

1日2回コメをとぐ山田さん。なんだかつらそうだ。

たつみ食堂 店主 山田 征勝さん:
腰に負担がかかる。かがまないといけないから

直面していた「休業の危機」

実は2021年10月、仕込み中に腰の骨を折り、3週間ほど入院した。

この休業のピンチを救ったのは山田さんの3人の娘。長女の後藤匡里子さん、次女の表野匡沙子さん、三女の野村拓美さん。

「からあげ一つ」

女性陣:
はーい

家族・従業員みんなでつないだ「無休営業」

そして、ベテラン従業員の水嶋妙子さんが交代で勤務し、無休営業を続けた。

たつみ食堂 従業員 水嶋 妙子さん:
気さくなお客さんばかりで、楽しくやってこれた。それがやっぱり自分を奮い立たせてくれました

――とんでもない店に勤めてしまった?

たつみ食堂 従業員 水嶋 妙子さん:
そうなんです、実際はそうなんです(笑)

山田さんの長女の娘と水嶋さんの娘も手伝いに入り、大忙しの昼時を乗り越えた。結婚式の日にも働いていた父親に娘は…

山田さんの三女 野村 拓美さん:
休んでもらいたかったです。結婚式出て、店出てって感じ。子どもが結婚するたびにやってたので…客がこうして来てくれるのは、結果として父の良さだったりします

「無休営業1万日」に感無量

たつみ食堂 店主 山田 征勝さん:
肩の荷がおりましたね。緊張に緊張を重ねてきたからね。あすからいつ休んでもいい、本当に。感謝、感激、雨、あられ

続けることの難しさ、大切さ。笑顔の山田さんが教えてくれることが、コロナ下の道しるべになっている。

たつみ食堂の連続無休営業は1万日を区切りにし、今後は週1回休むということだが、店主の山田さんは「やれるところまで店は続ける」と話している。

(北海道文化放送)

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