体を温めるだけでなく、気分をリフレッシュさせてくれるなど温泉にゆっくりつかることの魅力はたくさんある。

そんな温泉は「美肌効果」などが経験則として知られているが、山口大学大学院共同獣医学研究科の井中賢吾さんと指導教員の木村透教授が、カピバラによる動物実験を行い、科学的にもその効果を確認した。

湯田温泉の湯につかるカピバラ(提供:山口大学共同獣医学部 木村透教授)
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高温多湿の湿原に生息するカピバラは、日本では気温と湿度の低下により、冬になると皮膚が乾燥して肌荒れになってしまう傾向があるという。

実験では、美肌の湯といわれる山口市の「湯田温泉」に、カピバラ9頭をそれぞれ21日間、毎日15分温泉に入浴させて、皮膚の水分量やメラニン値などを計測。また、入浴時の状態を観察するなどして、皮膚性状、リラクゼーション効果などを調べ、肌荒れ改善を検証した。

結果、カピバラの乾燥して荒れた肌に潤いが戻り、入浴後21日目で健常な皮膚に回復。皮膚の水分量は経過に伴い上昇。一方で、色素沈着を示すメラニン値は減少し美肌効果も示したというのだ。

温泉入浴によるカピバラの皮膚の変化 A:入浴7日後の皮膚とB:入浴21日後の皮膚。(提供:Scientific Reports)

さらに、入浴しているときの様子を観察してリラクゼーション効果を検証。カピバラは、リラックスすると目が細くなり耳が後ろに寝る状態になるが、反対に緊張すると、目を見開き耳が警戒してピンと立つのだとか。

実験では目が細くなり、耳が後ろに寝るといった状態に。心地よく寛いでいたことがわかり、リラクゼーション効果があることも分かった。

温泉入浴前後のカピバラの様子 A:カピバラのくつろぎ状態(リラクゼーション効果)をスコア化したもの B:目の評価 C:耳の評価 どちらも入浴後にリラクゼーション効果が増(提供:Scientific Reports)

なお研究成果は12月9日、英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載。動物で確認された温泉の効果はヒトにも適用できると考えられるとのことで、実験結果は超高齢化社会の日本において、健康維持・増進や今後の長寿社会への貢献も期待できるという。

ガサガサから滑らかな手触りに

ここで気になるのは、なぜ肌荒れ改善や美肌効果が出たのだろうか?また、実験では9頭のカピバラで行ったとのことだが、その効果が出るのには個体差はないのだろうか?

獣医学博士で、山口大学共同獣医学部実験動物学の木村透教授に話を聞いた。


ーー温泉入浴の効果に着目した研究のきっかけを教えて。

カピバラは元来高温多湿の気候に生息し、多くの時間、有機物を豊富に含む水辺で過ごす動物です。カピバラはこの自然環境下に適した体を有する動物ですが、日本の動物園、特に野外で飼育展示する場合、冬期の寒冷・乾燥に十分に対処できません。

そのため、皮膚や被毛が荒れてしまいます。各地でイベントとして冬期にお風呂に入れて催しを行っています。お風呂の湯に効力のあるフレッシュな湯田温泉水を用いることで肌荒れに効力があるのではないかという考えが研究のきっかけです。


ーー9頭のカピバラで実験したとのことだが、個体差はなかった?

性別や年齢よりは、各個体で皮膚の状態に違いがありました。冬の気候を強く受けて肌荒れを明瞭に示す個体がおりました。21日間の温泉浴でこのような個体も健康な皮膚に回復できました。


ーーカピバラの皮膚に触れた変化の様子を教えて。

ガサガサしていた皮膚が、正常な滑らかな手触りとなりました。

カピバラの皮膚の状態を計測する木村教授と井中賢吾さん(提供:山口大学共同獣医学部 木村透教授)

ーー毛にも変化は現れたの?

冬期は被毛が乾燥し、バサバサした状態になりますが、温泉浴で正常な被毛に回復しました。


ーーなぜこういった肌荒れ改善・美肌効果が出たと考えられる?

温泉水の成分の作用もさることながら、湯田温泉の単純アルカリ性泉質および還元力の高い能力が皮膚に直接作用している点です。もう一つはリラクゼーション効果により体内から修復治癒力を高める効果がある点です。


ーー今回の実験結果から、「湯田温泉」以外の温泉でも同じことは言える?

湯田温泉と同様の泉質の温泉では、皮膚への効果は同じようにもたらされると予想します。

“温泉文化”と“温泉の効果”の橋渡し

ーー「動物で確認される温泉の効果はヒトにも適用できる」のはなぜ?

これまで経験的にヒトの皮膚への効果が知られてきました。この作用をカピバラの皮膚を用いて実証することができました。通常、「動物実験で良い効果が得られたとしてもヒトへの効果はどうなのか?」が、常に持ち上がる問題です。例として、新薬の薬効試験で実験動物マウスでは確かにいい結果が得られたが、ヒトでは同じ効果がみられるのか、あるいは悪い作用が生じるのではないかという問題です。

しかし、温泉入浴の場合、長い歴史に裏付けられたヒトへの安全で楽しい温泉文化があります。今回の研究結果は、従来の「温泉文化/温泉の効果」の両者を橋渡しするための動物実験による実証と位置付けて考えています。

湯田温泉の湯につかるカピバラ(提供:山口大学共同獣医学部 木村透教授)

ーー「湯田温泉」に肌荒れ改善/美肌効果があるとの結果をどのように捉えている?

従来から湯田温泉は美肌の湯と謳われており、毎日入浴していますと確かにこの作用は実感します。しかし、この効果を科学的に実証することが一番難しいことです。そのために、この試験では動物の力を借りて、継続した温泉浴が肌荒れを回復してくれることをはっきりと証明することができて良かったと感じています。

日常的に多くの人が知っている現象を科学的に実証することは非常に難しいのですが、国際的に認められている科学雑誌に受け入れてもらえ、大変良かったと感じています。


ーー今後はどのようなことに生かしていく?

本試験の結果は、地元湯田温泉の産業発展(宿泊、観光)に活用していただければと希望しています。美肌効果が実証された温泉に長く逗留して効果を実感していただき、温泉街、ホテル・旅館、動物園に多くの方が訪れて下さることを願っています。温泉と観光が組み合わさった街作りに寄与できればと期待しています。


ーーちなみに、カピバラを温泉に入れるのは大変だった?

カピバラはもともと水中で多くの時間を過ごす動物なので、冬期でも喜んで温泉に浸かってくれます。この特徴も今回の試験でカピバラを用いた理由です。

カピバラの皮膚の状態を計測する木村透教授と井中賢吾さん(提供:山口大学共同獣医学部 木村透教授)

温泉につかって癒やされたい、楽しみたいという人は、“美肌の湯”が科学的に確認された湯田温泉を候補に入れるのはどうだろうか? カピバラの肌荒れを改善したように、つるつるの美肌を手に入れられるかもしれない。