進学をきっかけに新たな挑戦を始めた全盲の中学生が、愛媛・松山市にいる。
始めたのは陸上競技。
愛媛のトップアスリートのサポートを受けながら、二人三脚で記録に挑む姿を追った。
石丸翔さん：
走りよって、自分が気持ちいいなって思える。
(Q.風は切れてる？)
はい。切れてますね
「風を切って走るのが楽しい」全盲の中学生
松山市の障がい者陸上クラブで100メートル走に挑戦している全盲の少年。
松山盲学校に通う石丸翔さん(13)だ。
小学5年生の時に学校の先生に勧められ、100メートル走を始めた。
石丸翔さん：
みんなと競争というか、思いっきり走れることが楽しかった。風を切るのがね、楽しいというのはあって
自分の力で風を切る楽しさを知った翔さん。
中学進学を機に、100メートル走に本格的に取り組むことを決めた。
視覚障がいがある選手にとって欠かせないのが伴走者。
翔さんのためにクラブが新たな伴走者を選んでくれた。
三段跳びが専門の平岡宥人さん。
平岡さんは、社会人の陸上クラブに所属する愛媛県内トップクラスのアスリート。
選手を続けながら、後進の育成にもあたっている。
石丸翔さん：
初めてのガイドさんということで緊張してたんですけど、話していけれて、いいですね
平岡宥人さん：
いい感じ？ありがと
平岡さんにとっても、伴走は初めての経験。
一つ一つ、動きを翔さんと確認しながら練習を進めていく。
練習を始めて2時間、2人の呼吸も合ってきたようだ。
石丸翔さん：
初めてにしてはめっちゃ息が合ってて、いい感じだなあって、走りやすかったです
平岡宥人さん：
ガイドは初めてなので、本当に翔君に教えてもらいながらの感じなんですけど、意外と息ぴったりやし、楽しいですね
音を頼りに助走し…「走り幅跳び」への挑戦
平岡さんとペアを組んで5カ月。
順調に練習が進む100メートル走に加え、翔さんは新たな種目にも取り組み始めていた。
走り幅跳びだ。
石丸翔さん：
立ち幅跳びがスポーツテストの中では、結構いけてた方だと思うので、それで意外といけるんかなぁと思ったりして
視覚障がいがある選手は、ガイドが出す音を頼りに1人で助走して踏み切る。
練習を重ねて、少しづつ伸ばしてきた翔さんの助走は現在7歩。
しかし、なかなか真っすぐ前に踏み切ることができない。
ガイドは選手が踏み切る直前にレーンを外れるが、翔さんはその音に反応してしまい、タイミングが合わないのだ。
さらに、翔さんを悩ませていることもあった。
石丸翔さん：
走るのと違って、怖さがあるというか。怖いと思って最初走ってて、途中で失速しようとしたら、余計に曲がって
恐怖心を克服するには、練習を重ねて助走に慣れるしかない。
走り幅跳びのデビューを飾るのは、2週間後に迫った記録会。限られた時間の中で、練習を重ねた。
選手と伴走者“初”の記録会 新たな目標を胸に
そして、迎えた記録会。
平岡宥人さん：
よっしゃ、行くぞ
石丸翔さん：
押忍！
初めての試合を両親も見守る。
1本目は真っすぐ助走できたものの、踏み切れずにファウル。
記録なしで迎えた2本目。初記録は2m90cm。
この結果に、平岡さんは策を練る。
平岡宥人さん：
次はさっきよりもちょっと前から助走して、踏み切り板ぴったりで跳ぶ。さっき、踏み切り板より手前だったんよ。実質は3メートルぐらい跳んどるはずやけん
「3メートルは跳べるはず」
平岡さんのアドバイスを受け、最後の跳躍に入る。
しかし、今回も踏み切り板の手前でジャンプ。
自己記録を伸ばすものの、2m92cmと、3メートルにわずかに届かなかった。
石丸翔さん：
3（メートル）いきたかったー
悔しさをにじませる翔さん。
走り幅跳びのデビューはほろ苦い結果となったが、100メートル走では自己ベストの14秒8と、目標としていた14秒台を達成。小学生の時の記録を2秒も縮めることができた。
ペアを組んで半年。2人にとって、今回は自分たちの現状を知るいい機会になったようだ。
平岡宥人さん：
レーンをはみ出したらいかんとか、僕がちょっとリードしすぎたらいかんとか、細かいルールを実戦で経験できたので、それは良かったかなぁと。（伴走は）難しいですね、やっぱり。でも、それが楽しいんで
石丸翔さん：
（陸上は）記録を伸ばすという個人競技の楽しさがあって。100メートルに関しては14秒前半を目指して頑張りたい。走り幅跳びはまだ始めたばかりなので、とりあえず3メートルを超えるっていう目標でいきたいです
新たな目標を胸に刻んだ2人の挑戦は、まだ始まったばかり。
さらなる進化を目指し走り続ける。
（テレビ愛媛）
