夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の“姓”を称することを認める「選択的夫婦別姓(別氏)制度」。

今年は6月に最高裁大法廷で「夫婦同氏制度は憲法に違反していない」と判断する決定を下したことに加え、10月の衆議院選挙では、この制度の導入を公約に掲げた政党もあり、関心が高くなっているのではないだろうか?

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実際、内閣府の「家族の法制に関する世論調査(平成29年度)」では、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と回答した人が42.5%で、前回調査(平成24年度)の35.5%から増加。一方で「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を 名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」と回答した人は29.3%で前回の36.4%から減少しているのだ。

(出典:平成29年度家族の法制に関する世論調査)

2010年に準備された改正法案の骨子は?

「選択的夫婦別姓制度」について理解が広がってきたように思えるが、この問題については、約20年前から検討が続けられている。

法務省では、1991年から法制審議会民法部会で婚姻制度等の見直し審議を行い、1996年に法制審議会が「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申し、同要綱で選択的夫婦別氏制度の導入が提言された。この答申を受けて法務省は、1996年と2010年にそれぞれ改正法案を準備したが、国民各層に様々な意見があることなどからいずれも国会に提出するには至っていない。

 

なお、以下が2010年に準備された改正法案(氏に関する部分)の骨子の一部となる。

民法
第1 夫婦の氏
(現行法)
第750条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
(改正法案)
第750条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称する。
2 夫婦が各自の婚姻前の氏を称する旨の定めをするときは、夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻の氏を子が称すべき氏として定めなければならない。

第2 子の氏
(現行法)
第790条 嫡出である子は、父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称する。
(改正法案)
第790条 嫡出である子は、父母の氏(子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏)又は第750条第2項の子が称すべき氏を称する。

導入に対する賛成意見や反対意見

改正法案の骨子はわかったが、法案提出はどういった問題があって進まないのだろうか?まずは法務省がHPで紹介する「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」のQ&Aを紹介し、基本的な部分をおさらいしたい。
※民法等の法律では、「姓」や「名字」を「氏」と呼んでいることから、法務省では「選択的夫婦別氏制度」としている。


――選択的夫婦別氏制度とは、何ですか?

現在は、男女が結婚するときは、全ての夫婦は必ず同じ氏(「姓」や「名字」のことを法律上は「氏」と呼んでいます。以下同じ。)を名乗らなければならないことになっています。選択的夫婦別氏制度とは、このような夫婦は同じ氏を名乗るという現在の制度に加えて、希望する夫婦が結婚後にそれぞれの結婚前の氏を名乗ることも認めるというものです。

もちろん、選択的な制度ですから、全ての夫婦が別々の氏を名乗らなければならないわけではありません。これまでどおり夫婦が同じ氏を名乗りたい場合には同じ氏を名乗ることもできますし、夫婦が別々の氏を名乗ることを希望した場合には別々の氏を名乗ることもできるようにしようという制度です。

――選択的夫婦別氏制度の導入に対する賛成意見や反対意見は、どのようなことを理由とするものでしょうか?

選択的夫婦別氏制度の導入に賛成する意見には、例えば(1)氏を変更することによって生じる現実の不利益があること、(2)氏を含む氏名が,個人のアイデンティティに関わるものであること、(3)夫婦同氏を強制することが、婚姻の障害となっている可能性があることなどを理由とするものがあります。

他方で、選択的夫婦別氏制度の導入に反対する意見には、例えば(1)夫婦同氏が日本社会に定着した制度であること、(2)氏は個人の自由の問題ではなく、公的制度の問題であること、(3)家族が同氏となることで夫婦・家族の一体感が生まれ,子の利益にも資することなどを理由とするものがあります。

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――別氏夫婦は、婚姻届を出していない事実上の夫婦とは違うのですか?

別氏夫婦も、同氏夫婦と同じように婚姻届を出している法律上の夫婦であって、婚姻届を出していない事実上の夫婦とは違います。

現在の夫婦同氏制度の下では、夫婦は必ず同じ氏を名乗らなければなりませんので、夫婦で別々の氏を名乗りたい場合には、婚姻届を出して法律上の夫婦となることができません。

しかし、選択的夫婦別氏制度が導入された場合には、法律上夫婦が別々の氏を名乗ることも認められますから、別々の氏を名乗りたい夫婦も婚姻届を出して法律上の夫婦(別氏夫婦)となることができるようになります。

答申では「子どもが複数いるときは全員同じ“氏”」

――別氏夫婦を認めたときの子どもの氏は、どうなるのですか?

いろいろな考え方がありますが、平成8年(1996年)の法制審議会の答申では、結婚の際に、あらかじめ子どもが名乗るべき氏を決めておくという考え方が採用されており、子どもが複数いるときは、子どもは全員同じ氏を名乗ることとされています。

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――旧姓の通称使用に関する取組は、どこまで進められていますか?

政府としては、女性活躍の推進等の観点から、旧姓の通称としての使用拡大に向けて取り組んできたところであり、令和元年(2019年)からは、マイナンバーカードや運転免許等において旧姓併記が可能となっております。

なお、女性の活躍促進に取り組んでいる内閣府では、各種国家資格、免許等における旧姓使用の現状等について調査しています。


――司法の判断の現状を教えて。

現在の民法のもとでは、結婚に際して、男性又は女性のいずれか一方が,必ず氏を改めなければなりません(この制度を夫婦同氏制度と呼んでいます。)が、夫婦同氏制度が憲法に違反しているのではないかが争われた裁判で、最高裁判所大法廷は、平成27年(判決)と令和3年(決定)の2度にわたり、夫婦同氏制度は憲法に違反していないと判断しました。

もっとも、これらの最高裁判所大法廷の判断は、いずれも選択的夫婦別氏制度に合理性がないとまで判断したものではなく、夫婦の氏に関する制度の在り方は、「国会で論ぜられ,判断されるべき事柄にほかならないというべきである」と判示しているものです。

議論の動向を踏まえ政府として検討・判断

それでは「選択的夫婦別姓制度」について、以前より国民的な関心が高まっている中、今後はどのように考えているのだろうか? 法務省民事局の担当者に聞いた。

――国民の関心が以前より高まり、衆院選で公約に掲げる政党もあった。現在は新たに検討などを進めているの?

政府としての方針となりますが、夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方に関しては国民の意見や国会の議論の動向を注視しながら司法の判断も踏まえて、さらなる検討を進めるということが、昨年12月に第5次男女共同参画基本計画で閣議決定されています。

基本的にはこのスタンスとなり、まさに国民各層の意見、国会動向に注視しながら検討しています。特に現段階ですぐに審議会を開くなどは予定していませんが、法務省としては、国民の皆様に情報を提供していくことが、このような議論を喚起する上での役割だと考えています。その活動の一環として、現在はできるだけ的確な情報をHPなどで速やかに掲載するよう努めています。


――「子どもの“氏”に関する議論が足りない」という声もあるが、今後はこれらの細部についてはどうなる?

「子どもの氏」に関してはいろいろな考え方がありますが、平成8年の審議会の答申では、「結婚の際にあらかじめ子どもが名乗るべき氏を決めておき、子どもが複数いるときは子どもは全員同じ氏を名乗る」としました。

もちろん、例えば「子どもが生まれるたびに夫婦のどちらかの氏にするかを決める」という考え方もあり得ます。法務省としては、審議会に答申された内容を基本的に尊重する立場にあり、この考え方が現在も維持されています。

しかし、これを必ず推し進めていくということではなく、やはり国民的な議論が必要な問題ですので、今後の国民各層や国会の議論の動向を踏まえながら、どのようなルールが望ましいかということを政府として検討・判断していくことになります。

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法務省のQ&Aにもあるように、選択的夫婦別姓制度には賛成意見と反対意見がある。2010年以降は改正法案の準備がされていないというが、夫婦のカタチが変化していく中、議論は進むのか注視していきたい。