
11月15日、オンラインで開かれた米中首脳会談でバイデン米大統領は、習近平国家主席に「米中の指導者として両国間の競争が意図的かどうかに関わらず、衝突に発展しないようにする責任が私たちにはある」と話しかけた。
これに対し、習国家主席は「世界の2大経済国そして国連安保理常任理事国として、米中関係は意思疎通と協力を強化する必要がある」と応じた。

これで米中の対立は軽減され、緊張状態は緩和されるのだろうか。
中国にとっての南シナ海と海南島の戦略的意味
2021年7月、中国が核心的利益と主張する南シナ海の北部に位置する海南島を撮影した民間衛星の画像には、島の南の桟橋に複数の潜水艦が映っていた。

敵国の軍艦や潜水艦を仕留める商級(093型)攻撃型原潜1隻、そして、それを遙かに上回る大きさの潜水艦が3隻。

4月に撮影された衛星画像には同型の潜水艦の背中の巨大な蓋が開き、桟橋までレールのようなものが敷かれているのが見られた。

巨大な蓋の下には、JL-2潜水艦発射戦略核ミサイル(SLBM)が搭載される。

この潜水艦は晋級(094型)戦略ミサイル原潜といい、1隻あたり、巨大な蓋が12枚並んでいる。
つまり、JL-2戦略核ミサイルを最大12発搭載できることになり、7月の撮影時には桟橋に最大36発の戦略核ミサイルが並んでいたのかもしれない。

潜航中の094型ミサイル原潜から発射可能なJL-2ミサイルは、3段式の固体推進剤を使用するミサイルで射程7400km以上、核弾頭を1~3個搭載する。
この射程では物理的には、南シナ海の中央部から米本土には届かないが、日本全域、豪州全域が射程内となる。

米国も物理的には中国に届く戦略核兵器を保有している。
米中の首脳会談はこうした状況下で開かれたのであり、日本の安全保障と無関係とは言い難い状況であった。
米中首脳会談後の中露軍の日本周辺での動き
そして11月19日、中国のH-6K爆撃機2機とロシアのTu-95MSベアH爆撃機2機が東シナ海、日本海、及び太平洋を飛行した。

今回の10時間以上に及んだ中露の爆撃機の飛行について,ロシアのショイグ国防相は「ロシアと中国の爆撃機がアジア太平洋地域の日本海と東シナ海を巡る合同空中パトロールを首尾よく実施した、とプーチン大統領に報告した」(TASS通信11/19)という。

そして、クレムリンのスポークスマンは、「合同パトロールは、国際法の規範を厳格に遵守して実施された。外国の領空の侵害はなかった」と強調。また、ロシア国防省はこの中露爆撃機による「合同空中パトロールは第三国を狙ったものではない」「飛行中に日本の航空自衛隊の戦闘機にエスコートされた」という(同上、TASS通信)。

防衛省が発表した画像を見る限り、4機とも主翼の下にミサイルや爆弾などの武装は見られなかったが、中国のH-6K爆撃機は戦闘行動半径3500kmで核弾頭搭載可能な射程1500~2000kmのDH-10巡航ミサイルを主翼の下に少なくとも2発搭載できる。

また、Tu-95MSベアH爆撃機のうちTu-95MS16という機種の場合、射程2500km以上のKh-102核巡航ミサイルを最大16発搭載出来る。

もし、このような巡航ミサイルが搭載されれば、物理的には、日本の少なくないエリアがその射程内になりかねない。
今回の飛行コースから想起されるこれらの爆撃機の核搭載能力も無視できるモノではないだろう。
では、どのような対応の選択肢があり得るのか。
日本以外の国はどのような対応をとろうとしているのだろうか。
前述の通り、中国は、晋級(094型)戦略ミサイル原潜を6隻保有し、1隻あたり12発搭載するJL-2弾道ミサイルは、日本全域と豪州全域が物理的には射程内となり得る。

そのことと関係があるかどうかは不明だが、2021年9月16日、米英豪の3カ国は「豪海軍が原子力潜水艦を取得するのを支援」する事などを要旨とするAUKUSという安全保障パートナーシップを創設した。
豪海軍が原子力潜水艦を保有するという事で注目されたが、モリソン豪首相はAUKUS署名後の記者会見の冒頭,豪海軍のホバート級イージス駆逐艦にトマホーク巡航ミサイル(射程1600km以上)を装備することを言明。

さらに今後、延命工事が行われるコリンズ級潜水艦にもトマホーク巡航ミサイルを装備する可能性を示唆した(2021/9/16)。

中国ミサイル原潜の基地がある海南島から1600kmなら、南シナ海の外にあるフィリピン海もそれにあたる。地理上は、逆も成立しうる。
豪州はANZUS条約によって米国の拡大核抑止に依存しているとの見方もあるが、物理的には、少しでも自国に対する“戦略核基地”になりかねない場所に睨みを効かせられる能力を持とうとしているのかもしれない。
【執筆:フジテレビ 上席解説委員 能勢伸之】