“無症状感染者”の脅威…中国政府も対応強化か
「無症状感染者は伝染性がないのか、病気は変化するのか、科学的な予防治療計画を出す必要がある。本当のことを報告し、社会の懸念に随時対応する必要がある」
3月26日、李克強首相が会議で指示を出した。中国は他人に感染させる確率が低いなどとして無症状感染者を感染者にカウントせず、公表もしてこなかったが、その脅威を深刻に捉え始めたようだ。
香港メディアは、新型コロナウイルスの陽性反応が出ながら症状がない人は、中国には4万3000人以上いると伝えた。事実とすれば、この4万3000人が自覚なく感染を広げる怖さがある。
湖北省政府は「一定の感染リスクはあるが、主要な感染源にはならない。過度に心配する必要はない」としているが、市民は見えない感染者への恐怖を急速に意識し始めている。
各地で確認相次ぐ無症状感染者からの感染
調査報道で知られる中国のメディア・財新は、無症状感染者は現在の感染対策で「重要で難しい問題」と指摘する。国内では感染者が省をまたいで移動するケースもあり、隠れた感染者を素早く見つける手段を確立することが今後の鍵になるとしている。
財新の取材に対し、中国の疾病予防管理センターの専門家は、隠れた感染者は武漢の状況を判断する最大の懸念だとし、「現在、毎日十数例の無症状感染者が確認されている。武漢での感染の広がりが食い止められたか、まだ判断出来ない」と語った。また、センターの別のスタッフも「今のところ隠れた感染者への有効な対応策はなく、個人が感染の機会を減らし、自分で身を守るのが最良の方法だ」と話すなど、対応の難しさを明かしている。
実際にさまざまな感染例が出始めている。
【ケース(1)】
河南省で3月28日に感染が発表された女性は、21日に別の都市に行き、知人の医師の男性と墓参りに出かけて3度食事をした。3日後から頭痛や発熱の症状が出て感染確認。一方、知人の男性も所属先の健康診断で陽性判定が出た。男性は無症状で、1週間前に一緒に食事した別の同僚の男性医師2人も無症状で陽性だった。この2人のうち1人に武漢滞在歴があった。無症状感染者から感染が広がった一例だ。女性は中国メディアに「普段はマスクをしているが、男性と2人で車に乗った時だけ外していた」と話した。
【ケース(2)】
3月26日、北京で伝染病予防妨害罪で逮捕された男性は武漢出身。1月に妻と共に北京に来て、母親の家に滞在。武漢から来たことを隠してスーパーや薬局など公共の場所をうろつき、2月になり母親が感染、接触した20人が隔離された。男性は無症状感染者だった。
【ケース(3)】
湖南省でも2月、武漢への旅行歴があった女性が家族9人に感染させた。女性も感染していたが無症状だった。(このケースでは、家族が家の商売への影響を恐れ、女性の武漢滞在例を隠していたのだが)
また、財新によると、武漢の病院の29歳の消化内科の医師の感染が分かったが、5日前に診察した患者の1人が無症状感染者だったという。
「無症状感染者は最大のリスク。対策を急がないとコミュニティで爆発する」
中国政府が国内以上に警戒を強めるのは、海外からの入国者に含まれる無症状感染者だ。
「上海では100を超える海外からの感染流入例が出ているが、無症状感染者がだんだん増えている」
中国メディアによると、上海の専門家チームの医師は27日、研究会でそう指摘した。
さらには、「海外からの“輸入性”の感染リスクの中で、最大のリスクは無症状感染者だ。早く診断することが極めて重要だ。そうしなければ大量の感染者が住宅街に滞留し、感染爆発が起きる」と、海外から入国した無症状感染者が感染爆発の引き金になると警告したのだ。
欧米の感染拡大により、留学や仕事で海外にいる中国人が大量に帰国し、感染者も相次いで見つかっている。この中にいる無症状感染者が中国各地に散らばり、無自覚に感染を広げる懸念がある。
2ヶ月以上に渡って封鎖が続いていた湖北省では、3月25日に封鎖が解かれ、4月8日には武漢の封鎖も解かれて今後、人の流れが戻る。すでに各地で湖北省から移動してきた人に無症状感染者が見つかっている。
中国のネットでは、無症状感染者について「時限爆弾を撒くようなもの」「まだマスクを外せない」「国内に第2波が来ている。まだ祝えない」と、人の移動が戻り感染が再拡大する不安が高まっている。
症状が比較的軽いとされる子供の“無症状”にも警戒が必要?
子供は感染しても比較的症状が軽いとされるが、知らない間に感染を広げる不安がある。
上海交通大学医学部小児科のチームが、1月16日から2月8日までに受診した確定731人と疑い例1412人の子供、計2143人(平均7歳、1歳未満379人)を調査した結果、患者は「無症状4.4%、軽度50.9%」で半分以上は無症状が軽度で、重い症状は出なかった。
また「子どもの重症・重症患者の割合は5.9%で、大人の18.5%よりも低い」としている。
その上で「乳幼児・児童はトイレ訓練を受けていない、自分を守る意識が比較的低い、鼻水や糞便などの要素を考慮すると、幼稚園や学校、家庭での集団感染の引き金になる可能性がある」と警告する。
中国は、3月後半から省ごとに少しずつ学校が再開し始めた。まず高校や中学の3年生から始めて、低学年や幼稚園は後にする慎重な対応だ。上海や北京の予定はまだ出ていない。ただ、急遽開始の予定を遅らせる地域も出てきている。日本は、感染爆発懸念の中、このまま学校を新学期から再開できるのか。
上海では、再開していた東方明珠塔などの観光地が再び閉鎖されると発表され、全国では徐々に再開されていた映画館も再休館となった。
安心感が広がり始めていた中での対応再強化で、ネットには「入国者と無症状感染者の増加への警戒だ」「また感染が広がり始めているのか」との声もあがる。
習近平国家主席が浙江省を視察して経済活動の復旧をアピールする一方で、第2の戦いに備え始めたのかもしれない。
日本では、どこで感染したか分からない感染者が増えてきている。すでに無症状・無自覚の“見えない感染者”が街に溢れ、感染が広がっているのかもしれない。事態を深刻に捉えない人もいるが、無自覚の感染拡大を避けるため、自分が無症状感染者かもしれないと考えて行動するしかない。