新型コロナウイルスの感染はひとまず沈静化したかに見えるが、第6波の恐れを指摘する専門家も多い。

シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は小児感染症科の専門医で新潟大学大学院の齋藤昭彦教授が、子どもと新型コロナウイルスについて解説。
子どもが感染しにくいといわれる3つの仮説やインフルエンザとの見分け方、さらに、子どもが新型コロナに感染した場合の治療法や後遺症についても解説する。

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3つの仮説

大人と比べて子供は新型コロナウイルスに感染しにくいというのは、デルタ株が流行する前は正しかったと言えます。
日本の人口は、15%ぐらいが15歳未満の子供になりますが、感染者数は数パーセント、人口の割合に比べて子供の感染者が少なかったというのは間違いないです。

それにはいくつかの仮説がありますが、1つは、ウイルスが鼻の中に入ってヒトの細胞に入る際に、「受容体」受け皿があります。
その受け皿の数が大人に比べると子供は少ないことがいくつかのデータで示されています。

同じウイルスをもらってもウイルスが入りにくいのです。

もう1つは、体の中に様々な免疫がありますが、大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」と呼ばれるものがあります。

「自然免疫」は、ウイルスが入ってきた時にそれを体の外に排除しようとする最初の反応です。
これが子供の方が大人よりもより強いです。
よって新型コロナウイルスも外に排出する力は子供の方が強いのではないか、というセオリーが成り立ちます。

「獲得免疫」ですが、子供は常に風邪をひいています。
大人に比べると風邪をひく頻度は圧倒的に高いわけです。

その風邪のウイルスの1つの原因として、季節性のコロナウイルスというのがあります。
これは今のCOVID-19を起こすウイルスと同じカテゴリーに入るのですが、昔からずっとあった季節性の風邪を起こすウイルスに常に暴露されていることによって、その免疫がすでに備わっていて、新型コロナウイルスが来たときに「交差反応」を起こして、同じような種類のウイルスが来たときに子供はより反応しやすいのではないか、というデータもいくつか出ています。

現在のところは以上のような説が言われています。

新型コロナとインフルエンザの見分け方

新型コロナと他の風邪のウイルスの感染症を見分けるのは極めて難しいです。
しかし、新型コロナウイルス以外の風邪を起こすウイルスの中でも、いくつかのウイルスは特徴的な所見を取りますので、そのあたりである程度区別は可能かと思います。

例えば、RSウイルスというウイルスがあります。
乳幼児にとっては重篤になるウイルス感染症ですが、上気道、鼻水や鼻づまりがひどく、それが肺の方に落ちてくると細気管支炎とか肺炎を起こします。

呼吸を吐くときにウーウーウーと音が出て、吐くのが非常に長くなります。
もしそういうものが見られた場合は、新型コロナウイルスよりもそのときの流行状況にもよりますが、RSウイルスを考えましょう。

これからインフルエンザのシーズンに入りますが、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症が同時に流行した場合、それを区別できるかはとても難しいです。

インフルエンザの場合は、高い熱が出て、咽頭痛などが先行し、それから咳とか鼻の呼吸器症状が出てくることが多いです。

あとは流行状況。
家族の中でインフルエンザにかかっている人がいる。
あるいは学校で感染が広がっている場合はインフルエンザを強く疑いましょう。

インフルエンザの今年の流行状況は?

インフルエンザは昨年は全く流行が見られませんでした。
今年どうなるかは非常に注目されるところですが、通常日本には南半球からアジア諸国を経てウイルスが入ってきます。

今年の南半球の流行も極めて限定的で、本当に今年流行するのかどうかはわかりません。

しかしながら予防できる手段であるワクチンがありますので、そのワクチンをしっかり接種して予防の対策を確実にしておくことは重要です。

子供が新型コロナに感染したら

デルタ株の流行後、感染者が増えると当然、相対的に子供の感染者の割合も増えてきているのが現状です。

デルタ株が流行する前の国内のデータを見ると、約半分が症状のない患者さん、感染はしたけど新型コロナウイルス感染症に特徴的な咳、鼻水、喉の痛み、発熱、味覚障害、嗅覚障害など代表的な症状がほとんど出ず、全く症状のない患者さんが半分ぐらいと言われています。

残り半分は風邪の症状が出てきて、咳や鼻、発熱、あとは下痢や嘔吐など消化器の症状が一緒に出ることがあります。

最新の国内の入院した患者さんのデータを見ると、10%、10人に1人しか熱が出ない。
デルタ株が出てきてから症状がどの程度なのか、通常株に比べてどれくらい違うかというデータはまだ十分出ていませんが、臨床の現場で話を聞くと、症状がより出やすいというのがデルタ株の特徴と言えます。

デルタ株に関しても通常株と症状は同じで、発熱、鼻汁、喉の痛み、下痢、嘔吐になります。

子供にも味覚障害、嗅覚障害はある?

味覚障害、嗅覚障害は大人に出ると新型コロナを強く疑う所見として知られていますが、子供においてはデルタ株の前からも5%程度、デルタ株が出たあと頻度が高くなったという報告はありません。

よってこのような症状が出ればより新型コロナを疑うことになりますが、頻度は子供では少ないです。
本当に少ないのか、言えないから少ないのか、その辺りはわかっていません。

どのような治療ができるかというと、一般的に対症療法だけになります。

熱が高い場合は体の中の水分が抜けてしまうので水分補給をしっかりすること。
また、熱が高いとぐったりしてしまうので解熱剤などを使って熱のコントロールをする。

特別の抗ウイルス薬はすでに国内で承認されている薬剤もありますが、国内の小児に使われたというデータはあまり多くなく、その薬を使ったから治療効果があったというデータはまだ集まっていません。

後遺症はいろいろなデータが集められているところですが、話を聞く中では味覚障害、嗅覚障害が出て食べ物を食べてもなかなか味がはっきりしない、匂いがしないと訴えている人がいます。

あとは実際に感染して、子供達は学校を休むなど制約を受けますが、そこから来る抑うつ感や疲労感などを訴えている子供もいます。

齋藤 昭彦
齋藤 昭彦

新潟大学大学院 医歯学総合研究科 小児科学分野 教授 カリフォルニア大学サンディエゴ校 小児感染症科 Associate Professor
国内での小児科研修後に渡米。米国カリフォルニア州で小児科・小児感染症の臨床トレーニングの後に、カルフォルニア大学サンディエゴ校の小児感染症科のスタッフとして、小児感染症領域の臨床、研究に従事し、その成果は米国の診療ガイドラインなどにも反映されている。帰国後、国立成育医療研究センターの感染症科を立ち上げ、日本における小児感染症専門医の地位と専門医制度の確立に貢献してきた。また、日本小児科学会の活動を通じて国内での予防接種制度の改革活動に精力的に取り組んでいる。日本人初の米国小児科学会認定の小児感染症専門医。

主な所属学会
日本小児科学会(理事)、日本小児感染症学会(理事)、日本感染症学会(理事)、日本臨床ウイルス学会(幹事)、日本感染症教育研究会(IDATEN)(元代表世話人)、米国感染症学会 (IDSA) 会員、米国HIV学会(HIV MA) 会員、米国微生物学会(ASM)会員 1s

名医のいる相談室
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