岸田新総裁が自民党役員と官邸の人事を行った。岸田総裁誕生に貢献した甘利明氏が幹事長、総裁選で争った高市早苗氏が政調会長に就任した。総裁選の争点の一つが、原発とエネルギー政策だ。「小石河連合」小泉進次郎環境相の“最後”の閣議後会見は、新政権の原発・エネルギー政策について質問が集中した。

新総裁として初の記者会見に望む岸田氏
新総裁として初の記者会見に望む岸田氏
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「経産省内閣の復活か」霞が関に衝撃が走る

今回の人事に霞が関には「経産省内閣復活か」と衝撃が走った。

総裁選では原発ゼロを持論としてきた河野氏に対し、ほかの3候補は原発の維持推進を唱えた。党の新役員の顔ぶれを見ると甘利幹事長は元経産相であり、高市政調会長は総裁選の中でエネルギー基本計画案の見直しにも言及した。

幹事長への起用が決まった甘利氏
幹事長への起用が決まった甘利氏
高市氏は政調会長に起用
高市氏は政調会長に起用

小泉氏と二人三脚でカーボンニュートラル実現に向けて尽力した梶山弘志経産相は党に戻り、官邸では元経産省事務次官で東電役員だった嶋田隆氏が首相秘書官に起用された。一方当初は重要閣僚に処遇されると思われた河野太郎行革担当相は、党の広報本部長と「閣僚経験者としては格下」(関係者)に冷遇された。

党の広報本部長への起用となった河野氏
党の広報本部長への起用となった河野氏

「巻き返しは権力闘争の現実だが覆ることはない」

これらの人事について「経産省内閣が復活し、原発や再エネ政策について巻き返しが起こるのではないか」と記者から疑問をぶつけられると、小泉氏は「それなりにあるでしょうね。それが権力闘争の現実ですから」としたうえでこう語った。

「経産省内閣のようなかたちになったら一気に原発に行くのではないかとのお尋ねですが、法律で位置づけたカーボンニュートラルを否定することはないと思います。再生可能エネルギー(以下再エネ)導入最優先は、いまパブリックコメントの真最中ですし、今月末のCOP26に向けてNDC(※)を出さなければいけない。国際公約をひっくり返すことはないと思います」

(※)「国が決定する貢献」温室効果ガスの排出削減目標

そして小泉氏は政府方針が翻るとの疑念に対して、こうけん制した。

「仮にエネルギー基本計画を見直すということがあれば、何を見直すのか明らかにして頂きたいと思います。再エネ最優先の原則、そして原発の依存度の低減をしていく。これは政府のプロセスを経たうえでのパブコメであり、党内の正式なプロセスを得た上でのエネルギー基本計画案の了承ですから、それが大きく覆る、大きな方向性が曲げられるということは、現実として考えられないと思います」

さらに小泉氏はこう続けた。

「岸田新総理がまず向きあう国際会議はG20、その直後にCOP 26があります。その主要議題は気候変動です。そのときに国内の手続きで出すはずだったNDCを提出できず、COPに臨むというのは考えられないと思います。日本の新しい総理が気候変動対策にどのような想いで臨むのか。全世界に日本の方向性は揺るぎないということを発信して頂きたいと思います」

「保守の自民党ほど再エネが似合う政党はない」

総裁選では再エネの高コストが争点となった。これについて問われた小泉氏は反論した。

「コストの見える化が必要です。この総裁選では、いまの化石燃料をベースにした日本の経済・社会の構造を維持すると、毎年10兆円以上海外に支払っていることを言った人はいないと思います。それを言わずに再エネでコストが上がるというのはネガティブキャンペーンとしかいいようがないですね。再エネは純国産エネルギーですから、最終的に国家の自立に繋がるエネルギー安全保障の確立になる。それを考えれば、保守と言っている自民党ほど再エネが似合う政党はないと思っています」

そして安定供給については産業界からも不安の声が上がっていた。これに対して小泉氏は産業界には「ゲームのルールが変わったことに気づいていない人が多い」と批判した。

「亡くなられた経団連の中西会長は、『S+3E』(※)の前に脱炭素だと語りました。完全にゲームのルールが変わったという中で議論しなければ何も始まりませんね。再エネ=安定供給ではないという議論は国際社会から全く理解されない。いかに安定供給させる社会をつくっていくか、前向きに政策を進めていくことが、これから日本の次の雇用や産業を作ることに繋がると思っています」

(※)「S(安全)」+「3E(安定供給、経済性、環境性)」

「激しく戦いを繰り広げたのが石炭と再エネだった」

そしてあらためて原発政策について小泉氏はこう語った。

「安倍政権、菅政権で環境大臣をやってきた立場として、両政権とも原発を可能な限り低減をさせるとしてきました。その中で私は再エネ導入を明確に位置づけることで、結果として原発への依存度を下げていく方向に繋げたいと考えました。エネルギー基本計画案には『もし再エネが想定よりも導入できた場合は、他の電源は減らされる』と書いてあります。これは実はとても重要なことだと思います」

環境相だった2年間を振り返って最も印象に残ったものを、小泉氏は「石炭」と「再エネ」と答えた。

「大臣に就任した当初から、国際社会と日本の大きなギャップの1つが石炭政策でした。しかし石炭輸出の要件の見直しを環境省内でさえできると思っていなかったのです。最も激しく戦いを繰り広げたということで言えば、石炭政策の見直しが象徴的ですね。再エネ再優先の原則がもしも変えられるとしたら、それは間違いなく後退でしょう。再エネ最優先の原則を勝ち取る戦いも自分の中では印象に残っています」

来る衆議院選挙に向けて小泉氏は「様々なところで気候変動対策に取り組む必要性を訴えていきたいと考えています」と語った。

気候変動は異常気象を引き起こし、国民の生命と生活に直結する問題だ。ぜひ来るべき衆議院選挙において与野党で議論を深めるべきである。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。