自民党総裁選は決選投票にもつれ込んだものの、下馬評通り岸田文雄氏が勝利した。世論調査でトップを独走していた河野氏はなぜ敗れたのか。河野氏を支持してきた小泉進次郎環境相が総裁選を振り返り語った。

「完敗に近い。負けは負けです」

「全力で河野さんを応援して負けました。完敗に近い。負けは負けです。ルールの中でやって負けたんです」

総裁選終了後小泉氏は、記者団から総裁選の結果をどう受け止めたか聞かれるとこう答えた。

小泉氏は終了後、河野氏に一言、「お疲れ様でした」と声をかけたという。

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そして河野総裁を目標にやってきた総裁選を振り返って、小泉氏は悔しさを滲ませた。

「今日ご本人が『河野太郎を支えることは大変なことだ』と言っていましたけど、支えるのは大変な方でしたが支えがいがありました。河野さんが総裁になったら間違いなく今日みたいな何年間変わってないかわからないこの総裁選の開票作業の長さとか、総裁選のあり方を変えてくれる。私はそういう姿を想像していましたから、河野さんを勝たせたかったですね」

総合力で河野氏を勝った岸田氏陣営

さらに敗因について小泉氏は「分析が必要だと思いますが、なかなか国民の皆さんからはわからない票の動きがあったと思います」と語った。そして岸田陣営についてこう続けた。

「やはり地道な活動って大事だと思います。日頃からの議員の皆さんとの関係構築も、国民や党員の皆さんとの地道な繋がりと同様、非常に大切なことだと思います。全体からいえば活動の中で岸田陣営は総合力を発揮されたと思います」

岸田陣営のある議員は、投票会場に向かう際「うちは1回目で1位とれそうですよ」と自信たっぷりに語った。1回目の投票で河野氏は、当初議員票で100票弱は取れるとみられていたが、86という数字が発表されると記者の間からどよめきが起こった。そして岸田陣営の予想通り、一回目の投票で1票差ながら岸田氏が1位となった。まさに岸田陣営の票読みの力があらわれたかたちだ。

厳しい表情で決戦投票の結果を待つ小泉氏
厳しい表情で決戦投票の結果を待つ小泉氏

小石河連合は派閥の力学に機能しなかった

河野氏は世論調査でぶっちぎりの人気を誇り、さらに当初人気の2,3位であった石破茂氏、小泉氏と“小石河連合”を組んだことで総裁の椅子に最も近くにいたはずだ。しかしその効果は果たしてあったのか?こう質問されると小泉氏はこう語気を強めた。

「選挙の常識は応援する方を拒否しないというのは当然のこと。それにもかかわらず、あの人とくっつくからマイナスだとか、あの人とくっつくならやらないとか、それはすべてやらないための言い訳だと思います」

そして派閥の力が結果に影響したか聞かれると小泉氏は「やはりありますね」と認めたうえでこう語った。

「そこは政治の現実として、自民党内の現実として重く受け止めなければ、この教訓を次に活かされないと思います。全力でやって、壁は厚く高く完敗に近い。戦わなければ見えてこないものが多く見えました。そして立場を鮮明にして戦わなければ得られない友も仲間もできました。今回の学びや教訓を活かして次に向けて進んでいけるよう、より一層努力をしたいと思います」

投票に向かう二階氏
投票に向かう二階氏

再エネ暗闘の余波が河野氏への攻撃に

今回の総裁選で注目されたのが、これまで河野氏が反対してきた原発だ。河野氏の主張は、他候補から一貫して攻撃され、産業界からの反発も大きかった。これについて小泉氏はこう語った。

「再生可能エネルギー最優先の原則をエネルギー基本計画に位置づける戦いは、凄まじい暗闘でしたよ。今だって河野さんを攻撃する側は、あの暗闘の余波というか、そういったものもいっぱいありますよ。他の分野も河野さんだったら風穴をあけられると思っていました。負けたことは残念ですが、負けは負けですからしっかり受け止めます」

「今のままの自民党でいいという声では無い」

岸田総裁から党役員や閣僚ポストを打診されたら受けるのかと聞かれ小泉氏は「人事権は新総裁が持っていますから、私から申し上げることは何もありません」と答えた。

今回の総裁選は菅総理が立候補を断念したことから始まった。官邸で“退陣も選択肢”だと菅総理に進言し、結果的にその引き金を引いたのは小泉氏だ。しかし議員の中には「最大の功労者は小泉さんですよ。実は皆さん、小泉さんに感謝していると思います。これで衆院選は戦えます」という声もある。

小泉氏は新総裁に対して期待することを聞かれるとこう語った。

「衆議院選挙があります。今回の党員の皆さんの声、今のままの自民党でいいという声では無いと思います。そういった声を体現しながら前に進めて課題を一つ一乗り越えて頂きたいと思います」

今後新総裁・総理のもと党人事と組閣が行われ衆院選に突入する。総裁選の結果の審判を行うのは衆議院選挙であり、国民なのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。