東京都町田市立小学校に通っていた6年生の女児が去年11月、複数の児童からのいじめを訴える遺書を残して自死していたことがわかった。女児の両親によると、女児は情報端末のチャット機能で悪口を書かれるなどの被害を受けていたという。こうした「ネットいじめ」が後を絶たない中、子どもが被害を受けないようにするために学校や保護者はどうすればいいのか。専門家に聞いた。

両親らが会見で示した「問題点と要望」から「事件の概要」部分抜粋
両親らが会見で示した「問題点と要望」から「事件の概要」部分抜粋
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加害児童はチャット機能を使って悪口を

両親が女児の同級生に行った聞き取り調査によると、いじめは女児が4年生の頃に始まり、加害児童は学校が児童に配布した情報端末のチャット機能を使って、「うざい」「きもい」「死んで」などの悪口を書いていたという。両親は「同じようにSNS のいじめで苦しんでいる子もいると思うと、安全性を担保して端末を配ってほしい」と訴え、いじめ防止対策の再点検などを求めた。

これをうけ萩生田文科相は14日の閣議後会見で、「学校現場でタブレットを通じていじめが起きていたことは極めて残念」と述べ、東京都と町田市の教育委員会に対し速やかに事実確認を行うことを明らかにした。

萩生田文科相「市教委に対し速やかに事実確認を行う」
萩生田文科相「市教委に対し速やかに事実確認を行う」

ネットが無くてもいじめは起きる

これまで学校・企業などで2千回以上の講演実績がある、ネットリテラシー専門家の小木曽健さんは「ネットいじめだけを解決しようとしたら絶対に解決しない」と語る。

「もし仮に今日この世からネットが完全に消え去っても、明日そのネットいじめは別の形で続くでしょう。やっているのはネットでなく人間だからです。つまりネットが無くてもいじめは起きるということを前提にしないといけません」

そして小木曽氏は、まず学校だけでなく社会全体でいじめ問題を考えるべきだと訴える。

「まず世の中全体で、加害児童と被害児童のどちらを優先するのか考えるべきです。いじめで亡くなってしまうのは被害児童です。本気で命を守ることを優先するなら、加害児童は登校させないなどの仕組みづくりを、学校に押し付けず社会全体で考えるべきです」

小木曽健氏「いじめ問題は学校だけでなく社会全体で考えるべき」
小木曽健氏「いじめ問題は学校だけでなく社会全体で考えるべき」

ネットいじめは「家の中までついてくる」

会見で両親はネットいじめについて、「家の中までいじめがついてくる」と嘆いた。小木曽さんもこれに同意する。

「ネットを使ったいじめは被害者に逃げ場を与えません。リアルのいじめであれば自宅が緊急避難場所となって、帰宅すれば一時的にでも休息できるでしょう。しかしネットは時間と場所を選びません。スマホに通知が来れば『いやがらせメッセージが届いた?』と怯え、通知が来なければ『無視されている?』『知らぬ間に何か書かれている?』とストレスを感じ続ける。だから自宅というオアシスにまで侵入してくるネットいじめは、本当に悪質なのです」

ネット上の誹謗中傷については、「だったらネットを見なければいいだろう」という意見がある。芸能人が「ネットを見ないようにしている」と語ることもあるが、子どもにそれを求めるのは難しいだろう。

女児の両親「ネットいじめは家の中までついてくる」
女児の両親「ネットいじめは家の中までついてくる」

誰でも他人のIDを使ってログインできた

今年度から全国の学校で1人1台端末が整備され、ネットは子どもたちにより身近になっている。しかし児童が通っていた学校では、端末のIDは出席番号、パスワードは全員同じで、誰でも他人のIDを使ってログインすることができた。また女児が通っていた学校では、授業中児童がいじめを含むチャットやゲームを行っていたのに、担任教員は把握できていなかったという。

小木曽氏は学校に対して「集団にはいじめ発生リスクが必ず存在する。そこにネット環境が導入されれば、ネットを使った逃げ場のない、より深刻ないじめが起きやすくなることを前提に準備すべきだ」と語る。

「まずIDやパスワードは個人に紐づいたものを。これは児童たちに向けて『誰が何を書いて、どこに投稿したのか確認できますからね。自治体のネットパトロールも見ていますよ』と伝えるためです」

保護者もネットへの意識を変えるべき

では学校による児童のログデータ取得はどこまで可能なのか?小木曽氏は続ける。

「実際に学校がそれをするには厳密な手順や承諾が必要ですし、それで取得できるデータだって限られます。また個人情報保護の観点でも問題になる可能性が高いのですが、これは児童に伝えるだけで効果があります。また万一事件や事故が起きれば、当然ながら当局が手続きを踏んでログを調べるのですから、あながち嘘とも言えないでしょう」

そして保護者もネットに対する意識を変える必要があると小木曽氏は強調する。

「子どもがネットにアクセスするということは、子どもが1人で家から飛び出して街に行くのと同じです。その街には大人や子ども、いい人も犯罪者もいます。しかもそこでは何をやっても叱ってくれる人がいない。そういう世界に子どもがアクセスするのだという認識が必要です。だから保護者は、街に子どもが飛び出していく前に知るべき集団生活のルールや、大抵のいじめが犯罪であり我々には守るべき法律があるのだということを教えなければなりません」

小木曽氏「保護者もネットに対する意識を変える必要がある」
小木曽氏「保護者もネットに対する意識を変える必要がある」

いまネットいじめに苦しむ子のために

ではいまもネットいじめに苦しんでいる子どもたちをどう守ればいいのか?小木曽氏はネットを使ってできることがあるという。

「実はネットでいじめ被害者を勇気づける使い方があります。匿名で構わないので、SNSを使って『私はあなたのこと嫌いじゃないよ』『俺は味方だ』というメッセージを、いじめられている子どもに送って欲しいのです。それだけで『全員、敵かもしれない』と苦しんでいる被害者が少し安心できます。いじめの傍観者にもやれることがあるのです」

ネットは人を傷つけ、殺す道具ではない。使い方次第で人を救うのだ。

ネットいじめに苦しんでいる子どもをどう守ればいいのか?
ネットいじめに苦しんでいる子どもをどう守ればいいのか?

(関連記事:「炎上は世間の大多数からの攻撃ではない」ネットリテラシーの専門家に聞くネットのルール )

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。