ネット上での“炎上”という言葉を目にしない日はないくらいだが、では「炎上って何ですか」と聞かれて答えられる人は少ないのではないか。

「13歳からの『ネットのルール』」の著者で、これまで学校・企業などで2千回以上の講演実績があるネットリテラシー専門家の小木曽健さんに話を聞いた。

ネットリテラシー専門家の小木曽健さん
ネットリテラシー専門家の小木曽健さん
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炎上は世間の大多数からの攻撃ではない

――つい最近も知人のブログの記事が“炎上”したのですが、そもそも炎上というのがどの程度の人が関わっているのか、よくわかっていませんね。

小木曽さん:
炎上と聞くと世間の大多数から攻撃を受けているように思われがちですが、実際は一部の人たち、限られた属性の意見であることが殆どです。実はある女性タレントで、些細な失言がきっかけで何年もネットで中傷されている方のご依頼で掲示板の投稿者を調べてみたのですが、たった数人による書き込みだったこともありました。

世の中の大多数は「どっちでも良い」「別にいいだろ」と感じたら、わざわざネットにコメントしません。ネットは書かない人は見えないので、もし炎上してもご本人に非がなければ気にしないことも重要です。

――炎上はどのくらいの期間続くものですか?

小木曽氏:
普通は2カ月、長くて3カ月だと思います。過去の炎上事例を見ても、たいていのケースで2、3カ月後に世間の関心がほぼゼロになっています。その頃には関心が次の話題に移っているのでしょうね。

炎上を煽る人は自分の存在と正義を確認したい

――ネット上で炎上を煽る人たちがいますね。

小木曽氏:
そうした人たちは、忙しくない人、時間のある人なんだろうなと思います。忙しい人はたいてい、周囲から頼られたり感謝されたりしていることも多く、ネットで誰かを攻撃しようと思う動機も生まれにくい。炎上を煽って自分の存在、正義を確認したいという感情は、「自分は本来もっと活躍できるはずなのに」という感情の裏返しなのだと思います。だから名や顔出しが多いFacebookは比較的炎上が少ないのです。

――匿名だと何でもOKだと思っているのですね?

小木曽氏:
度を超えた中傷に対する裁判、犯罪予告に対する捜査を見ればわかるとおり匿名なんてただの幻想です。然るべき事情があれば、個人も警察も法的な手続きを経て個人を特定できます。ネット炎上においても個人を特定されるケースは多いですから、ネットに匿名性なんてないと思います。「私は身バレしたことがない」という人は、その人を個人特定してやろうという熱意を持った人がたまたまいないだけの話です。

情報発信すれば必ず反応・反響はある

――攻撃をされた知人には「コメントは気にしないように」といいましたが、本人としてはやはり気になりますよね。

小木曽さん:
ネットに限らず情報を発信すれば、必ず反応・反響はあります。ネットにはそれが見えやすいという特性があり、そこには賛同意見もあれば、反対意見も批判も罵声もあります。必ずしもそれらにいちいち向き合う必要はありませんが、少なくともそれが存在することは認めなければいけない。

なぜなら自分が自由に情報発信した以上、相手も同じ権利を持っているからです。意見や批判の存在は認める、ただしすべてを受け入れる必要はないし、ご本人の判断で受け流すのも自由です。

もちろん殺害予告のような投稿、受忍限度を超えた誹謗中傷や個人攻撃、実害を伴うデマなどを流された場合は、法的措置で反撃をするべきだと思いますね。

――ではコメントは読まないで放っておけばいいのですか?

小木曽氏:
それは自由だと思います。その時の気持ちやコンディション次第で「他人の意見を聞いてみよう」「読みたくない」と自由に決めればいいのです。嫌だなと思ったらそこでやめてもいいし、気になったらまた見ればいい。とにかくその程度のものだと思いますね。

ネットは日常のマナーや常識を忘れてしまう

――「消せ」とか「謝罪しろ」とコメントがくるケースもありますね。

小木曽氏:
「謝罪しろ」というのは「発言を取り消せ」とほぼ同義です。投稿やコメントに違法性や反社会性がなく、単なる意見の相違なら謝罪や削除の必要はありません。「消せ」=「黙れ!」という意味ですから、「お前こそ黙れ」と言い返されたら、何も言えなくなってしまうでしょう。自らの首を絞める行為です。意見、感想は自由ですが、気に入らないからと言って執拗な攻撃をしたり削除要求をするのはダメです。

――こうした攻撃はSNSのダイレクトメッセージでくるケースもあります。

小木曽氏:
無視していいと思います。「なぜ返信しないのか」と怒る人がいますが、街中で初対面の相手に急に罵声を浴びせたり、高圧的な態度で話しかけたら、相手にされなかったと文句を言っているようなものです。なぜ皆ネットの中に入ると、日常のマナーや常識を忘れてしまうのでしょうか。

「表現の自由」は「表現の責任」も負っている

――攻撃されて炎上した場合、投稿や記事を削除するというのは正しい対応ですか?

小木曽氏:
ケースバイケースですが、基本的には削除しないほうがいいと思います。炎上した場合は、同じ場所に説明や補足、おわびを投稿することで、多くの人に見てもらうことが出来ます。しかし投稿を消してしまうと、自分が本当に言いたかったことやお詫びの投稿に最も適した場所をなくしてしまうことになります。

そもそもネット上で消そうとしても消すことはできません。きっと誰かが保存しているし、「消せば増える」のはネットの基本ですから、かえって拡散されてしまうでしょう。

――小木曽さんは多くの学校でネットリテラシーの授業をされていますが、子どもたちにはどんなことを教えているのですか?

小木曽氏:
最近は学校から「誹謗中傷について話してほしい」という依頼が多いので、子どもたちには「何を書いてもいいよ。自由だよ。でも何を書いても許されるわけじゃないからね」と伝えています。

「何を書いてもいい」という自由の行使は、同時にその自由に対する責任も負っているのです。「表現の自由」という言い方は「表現の責任」に変えた方がいいと思いますね。

――ありがとうございました。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。