自民党総裁選に向け去就が注目されている石破茂元幹事長。総裁選に出馬となれば果たしてどのような政策を繰り出すのか。コロナ、貧困対策からLGBT、入管制度まで聞いた。

医師の適切な配置は現行法で可能

――コロナ対策について伺いたい。病床と医療スタッフの確保が喫緊の課題だが、どう確保するべきか。

石破氏:
世界一の人口当たり病床数を持っているのに、医療のひっ迫や崩壊が起こるというのは、体制に問題があるからだ。医療の機動性や弾力性を確保して、重症化しない、死に至らないための体制を作ることが大事だ。これは去年2月から言っているが、最近やっと正面から取り上げられるようになった。医療法のなかに地域協議会が医療機関の医師、患者の適切な配置、分担を行うと書かれている部分を活用するなどして、まずはある程度広域の地域において、コロナ重症者対応、重症を脱した療養対応、一般の患者や救急対応、といった適正配分を医療機関同士の話し合いで実現すべきだ。これに法改正は必要ない。

――コロナ患者を受け入れない病院に対する要請や受け入れる病院への支援は?

石破氏:
病院がコロナ患者を受け入れるためには施設の改修なども必要になる。なぜ病院や医師がコロナ患者を受け入れないのか?受け入れるためには何が必要なのか?総理が医師会長などと会談し、どうすれば患者の適正な入院先の確保、医師や看護師の適正な配置ができるのかを率直に議論し、必要であれば今の補助金制度を見直すなど考えていくべきではないか。

総理が医師会長と率直に議論するべきだ
総理が医師会長と率直に議論するべきだ
この記事の画像(6枚)

オリパラは終わった、良かったでは済まされない

――ロックダウンを望む声にはどうこたえる?

石破氏:
ロックダウンのみに解決法を見出すのは正しくないと考えている。ロックダウンは社会経済を犠牲にすることで人流を極端に制限し、感染拡大を防止する策だが、経済のみならず国民を著しく疲弊させ、短期的な効果はあっても、長期的には持続しえない。やはり医療の体制を整備することと、業種・業態ごとに精緻な感染対策の基準を設け、それをクリアした店舗などには制限を緩めていくなど、社会生活に戻る基準を示すことが必要だ。

――今回東京オリパラ開催をどう見たか?

石破氏:
まず、日本政府として世界のアスリートに約束を果たすことができた。次に、テロが起こることもなく安全に開催できた。三つめに、オリパラに直接的に起因するパンデミックは起きなかった。この3点において合格点を付けられたと思う。もちろん、今後検証が必要な点もある。「最もお金のかからないオリパラにする」という点は、実際にはどうだったのか?日本の最も暑い時期に開催して、選手に過大な負担をかけなかったか?そしてあれだけ報道された経済効果についてもそうだ。終わった、よかったで済ませてはいけない。

オリパラは終わった、よかったでは済まされない
オリパラは終わった、よかったでは済まされない

教育と子育てに貧富の差があってはならない

――今回高市議員はアベノミクスの継承を打ち出した。経済対策についてどう考えるか。

石破氏:
どんなに株価が上がっても、人々の所得が上がらなくては意味がない。トリクルダウンはまず大企業の収益があってその果実を分配するということだが、いまそうなっていないことは誰が見てもわかる。海外の株主や一部の経営者が豊かになっても、一般の労働者は豊かにならずむしろ格差は広がっている。このようなシステムのままでは、たとえ経済全体が成長しても国民を幸せにしないのではないか。私は1人1人が豊かになることが結果として経済を成長させるという形をめざすべきで、その逆ではないと考えている。

――コロナ禍によって傷んでいるのがシングルマザーの家庭。子どもの7人に1人が貧困という状況に政治がどう手を差し伸べていくのか、

石破氏:
弱い人を犠牲にする社会はあるべき社会ではない。コロナで女性や若年層の自殺が増えている。これだけでも社会は病んでいるし間違っていると思う。そもそも日本のシングルマザーの所得はOECDで最低といわれている。生活保護の不正受給の割合も、先進国の中で一番低い。人生において、個人でどんなに頑張っても望む結果が得られなかった、ということは誰にでもある。そういうところにある人が再挑戦していくための公助は、国民全体の理解を得られる形でなんの差別もなく受けられるように整備すべきだ。シングル世帯への支援は、現物支給、子ども食堂などの取り組みの支援、親の就労への多面的支援など、重層的に行うべきだ。所得が低い家庭の子どもが大学に行けないなど、貧困の連鎖を断ち切るためにも、教育と子育てに貧富の差がなくなるよう、無償化の方策も含めて考えるべきだ。

弱い人を犠牲にする社会はあるべき社会ではない
弱い人を犠牲にする社会はあるべき社会ではない

社会がLGBTを包摂できるよう議論が必要

――ジェンダーギャップ解消についてのお考えは?クオータ制導入は?

石破氏:
日本の全人口の52%は女性、48%は男性。女性の持つ能力や見識が最大限に発揮されないと、この先の日本社会を維持できない。女性の能力を最大限に生かす仕組みをつくる最初の段階においてクオータ制が必要であるなら、躊躇なく実行すべきだ。

――先の国会ではLGBT法案が自民党の中で先送りとなった。LGBT差別問題についてどのような考えか?

石破氏:
LGBTであれ、その他の理由であれ、差別されることがあってはならないのは憲法で保障されているとおりだ。社会がLGBTを包摂するような方向にさらに進んでいけるよう、政治として何が必要か、今後も積極的に議論し、その上で法制化することは必要だと思う。

ウィシュマさんの遺族には誠実に対応するべき

――名古屋入管でスリランカ人女性が死亡した事案。法務省は遺族に対してすべての映像を見せることや映像を見る際の代理人の同席を拒んでいる。

石破氏:
個別事案を超えて、ウィシュマさんの問題は日本国として外国人の人権をどれだけ重視しているか、という観点から考えなければならない。一体何があったのか、ご遺族にはできるだけ誠実に対応すべきだし、公開できないとすればその理由を明らかにすべきだ。ご遺族に日本の法律知識を持った専門家が同席するのも当然だと思う。

――コロナで日本のデジタル化の遅れが顕在化した。発足したデジタル庁への期待は?

石破氏:
わずか1年で発足したのは菅内閣の大きな功績だった。今後、デジタル庁をつくることで社会がどう良くなるのかを国民に明確に示しつつ加速させていくべきだ。デジタル化でより適切な医療が受けられる、地方にいても都会と同じような質の高い教育が受けられるなど、国民が必要としているものに対して、デジタルの恩恵が早急に行き渡るようにすることが次の課題だ。

ウィシュマさんの映像を公開できないならその理由を明らかにするべきだ
ウィシュマさんの映像を公開できないならその理由を明らかにするべきだ

来週には決断することになるだろう

――外交安保について。米中対立が激しくなる中で日本はどう立ち回るべきか?

石破氏:
米中対立は米ソ冷戦にくらべてはるかに複雑で、日本に対しても直接の影響を及ぼす。日本の国益を実現するためには、ひたすらアメリカに追随だけでは通用しない。米中どちらも覇権を譲ることはないだろうし、アジア太平洋地域で紛争を避けるためには「力の均衡」を保つしかない。そのためには日本の努力はもちろん必要だが、日本だけが力を付けても意味がなく、価値観や国益を同じくする国々とともに、アジア版NATOのような集団安全保障のシステムをつくることを目標とすべきだ。去年の総裁選挙のときには、中国を敵に回すからよくないと批判されたが、私は対中国だけを念頭に置いているわけではない。難しい状況にあるのだから、柔軟な思考が求められる。

――総裁選出馬の判断の時期は?待望論がある。

石破氏:
待望論については、率直にありがたいと思う。河野先生、高市先生、岸田先生と、今のところお三方が立候補を表明されて、それぞれの主張を拝聴した。ずっと私を応援し続けてくれている同士の気持ちもそれぞれにあるし、来週には決断することになるだろう。

――ありがとうございました。

総裁選への対応は来週には決断するだろう
総裁選への対応は来週には決断するだろう

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。