2年ぶりに祭り開催…伝統工芸品“たんころりん”が街道沿いに並ぶ

愛知・豊田市足助町の夏祭り「たんころりんの夕涼み」。
伝統工芸品の行灯“たんころりん”が街道沿いに並び、人々は外に出て夕涼みを楽しむ祭りだ。

各地の夏祭りが中止や規模を縮小する中、2021年のたんころりん祭りは通常の規模で開催された。月の夜、道々を照らすたくさんのたんころりん。コロナ時代の夏祭りには、行灯の明かりに願いを込める人々の姿があった。

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古い町並みを照らす優しい灯りが、豊田市足助町の夏の風物詩”たんころりん”。
約1.5キロの街道沿いに、竹かごと和紙で作られた行灯が並び、風情ある夜の町並みを堪能することができる。

2021年は感染症対策をして、通常規模での開催に踏み切った。

午後6時。店先のたんころりんに明かりが灯されると、祭りの始まりだ。灯りに誘われるように、観光客がやって来る。

豊田市から来た女性:
自治区のお祭りも中止になっちゃったので、コロナで。記念になってよかったです

小牧市から来た男性:
すごく綺麗です、風情があって。去年(2020年)から結局、全然お祭りみたいなのに行けなかったので

2年ぶりの夏祭りだ。

近所付き合いで始めたイベントが町をあげての夏祭りへ…20年前に祭りを立ち上げた男性

この祭りは、足助町出身の河合康男さん(70)が20年前に立ち上げた。

たんころりんの会の河合康男会長:
この田舎で、何か人が集まることがやりたいなって…。住んでいる人が(外で)井戸端会議みたいな雰囲気がとれる町にしようじゃないかと始めました

当初は近所付き合いで始めた小さなイベントだったが、年々住民が集い、町をあげての夏祭りになった。
しかし、2020年はコロナで規模を縮小…。2021年は人が密集する花火大会やアルコール類の販売などをやめて、通常規模での開催に踏み切った。

河合さん:
イベント自体っちゅうのは、1年2年やめちゃうと、あとが進んでいかんくなるじゃんね

モチーフにした和菓子も…たんころりんに込められた住民の思い

祭りの灯で町に活気を…。住民たちの思いも同じだ。

和菓子店の長橋透さん
正直うれしいです。足助の人じゃない人と会話ができたり、知り合いができたりして非常にありがたいです

創業55年の和菓子店を営む長橋透さん(59)は、祭りを盛り上げようとある商品を考案した。祭りのシンボルをモチーフにした和菓子「中馬街道たんころりん」(270円)だ。

長橋さん:
「これなんだ?たんころりん!」ってお客さんから気付いてくれる。喜んでもらえるっていうのは楽しいですよね

町の暗闇をコーヒー味のわらび餅で、灯りをカスタードクリームで表現。冷やして食べると固めのプリンのような食感だ。

「たんころりん祭りと一緒に育ってきた」というこのお菓子は、実物そっくりの見た目で観光客の間で人気商品になった。丹精込めた和菓子でのおもてなし…。

長橋さん:
ふっと、たんころりんの並びを見た時に肩の力が抜ける。日本人の心の中にあるDNAをくすぐってもらえる灯り、なんとなく見たことあるような灯りであってほしいっていう思いは、始めた時から思っています

実物のたんころりんも、住民一人一人が足助産の竹を編み、和紙を張って手作りしている。コロナ収束を願い、アマビエが描かれたものなど、個性豊かなものが並ぶ。

和菓子も、行灯も…。1つ1つに、心が込められている。

夜の町に浮かぶ「鬼滅の刃」…江戸時代の建物と令和のアートのコラボ

中根千代子さん(73)が営む創業86年の書店の店先には、12個の「たんころりん」が並んだ。そこにあしらわれているのは、人気アニメ「鬼滅の刃」のキャラクターだ。

中根さん:
(建物の)前のところは格子になっているんですよ。障子に、(絵を)切り抜いて貼って、奥で光をあてるとこういう風に出てくるんです

切り絵を障子に張り照明を当てると、夜の街に浮かび上がる。江戸時代の建物と令和のアートのコラボに、思わず観光客もうっとり…

中根さん:
この町がにぎわってくれればいいと思って…。ほとんどの人が「すごいきれい」って言ってくれるので嬉しいですね

毎年、製作に2か月かける。2014年には「アナと雪の女王」、2019年には「ラグビーワールドカップ」を題材にした。

流行の「切り絵アート」で、来てくれた人たちをもてなす。

”たんころりん”は孫の成長の証…祭りに参加して20年の洋菓子店女将の思い

午後7時半。すっかり日が暮れると、祭りは佳境を迎える。20周年で初めて、たんころりんの特別ステージを設置。バイオリンやハープなどの音色に、住民も観光客も酔いしれた。

洋菓子店女将の加藤さん:
いっぱいあったシュークリームもプリンも、みんな売り切れちゃった

創業70年の洋菓子店の女将、加藤美子さん(69)。店を休みにした2020年に比べると、2021年はたくさんの人が来てくれて、全く様相が違うと話す。
祭りに参加して20年…。店先には、歴代のたんころりんが並ぶ。この20年間での思い出を聞いた。

加藤さん:
やっぱり孫の成長だね。たんころっていうと(孫が)着物を一番に着て外へ出て。竹灯りをやってて、結構お写真、撮っていただいて…

家族一同が集まる夏祭り。たんころりんに描かれた“じいじ”や“愛猫”の絵。毎年、孫が描いてきたという。

加藤さん:
本当に家宝ですよ。これがあってお祭りがある、大事にしなくちゃね

加藤さんにとって、たんころりんは孫の成長の証だ。

足助の町に灯る600以上の灯り…”たんころりん”に込める願いや思い

2021年は、足助の町に600以上の灯りが灯る。地元愛を込めた“たんころりん”に、子供が手がけた“たんころりん”などがある。

職人の匠の技で作られた“たんころりん”や、おもてなしの心を込めた“たんころりん”も…

工具店を営む女性(72):
観光客の方たちが足助に来るとほっとしますね。大勢の方来てくださるし、それが一番の楽しみですね

観光客の女性(59):
たんころりんも毎年同じものじゃないので、見ていてすごく楽しいですよ

観光客の女性(32):
光があったかいなと思って、すごく心が綺麗になった気がします

午後9時。祭りは終わっても、明かりは灯し続ける。

たんころりんの会の河合康男会長:
何事も続けていかんことには…。維持していくってことが一番難しい。四苦八苦しながら、みんなが喜ぶようなたんころのイベントにしていきたいなと思っています

コロナ時代だからこそ、絶やさぬ祭りの灯…
そこには、”たんころりん”に願いや思いを込める人々の姿があった。

(東海テレビ)

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