人工呼吸器やエクモを使う患者には複数の人員が必要

全国でも最悪の感染状況が続く沖縄県。病床はひっ迫し、県の疫学統計・解析委員会は「すでに医療崩壊が生じている」と危機感を示している。

最前線で治療に当たる医療現場、そして感染拡大を抑えようと奮闘する保健所を取材した。

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重点医療機関として患者を受け入れる琉球大学病院。2021年9月1日の時点で、人工心肺装置・ECMO(エクモ)と人工呼吸器が必要な重症患者4人が入院している。

琉球大学病院・梅村武寛医師:
コロナの患者さんになると倍くらい人出がかかる。実際はそこに空いているベットがあっても、人出が足りなくて新たに重症者、新たにエクモを使ったりするのは、非常に困難ということがわかっています

琉大病院は、重症者を受け入れる病床を7床確保した。

人工呼吸器を使用する患者には3人から4人の医師と看護師が必要で、エクモを使用する患者には7人から10人の人員が必要。病床が開いているからといって、すぐに患者を受け入れる余裕はない。

琉球大学病院・梅村武寛医師:
特殊な治療であったり重症管理をする人というのは、明日中に増やせますよといっても絶対増えない。例えば、その訓練や研修、勉強をする。ちょっと病床を増やしたり、ちょっと人を増やしたりしても、焼け石に水状態になっています

梅村医師は病院で重症患者の治療に当たりながら、県の対策本部で医療コーディネーターとして感染者の入院調整などを行っている。

琉球大学病院・梅村武寛医師:
重症者の数が僕たちは一番気になる。沖縄本島内には1~3床しかない。この3床で生き延びるといったらおかしいけど、これを超えた時には、また一つ考えないといけない

爆発的な感染拡大で県内の医療提供体制はひっ迫し、本来であれば入院しての治療が望ましい患者が、自宅やホテルでの療養を余儀なくされている。

重症者が増えれば“命の選別”もやむを得ない

琉球大学病院・梅村武寛医師:
37歳の男性、ホテルに入れようとしていたけど、県の車両で移動している間に嘔吐している。嘔吐してそのあとのサチュレーションがちょっと低いらしいんですよ、93.4ぐらいで。病院の受け入れがダメだったみたいなので一回、入院待機ステーションに行かせることは可能ですか?

容態が急変した男性は、受け入れ可能な病院が見つからず入院待機ステーションに搬送された。

琉球大学病院・梅村武寛医師:
例えば交通事故で死にそうな患者さん、心筋梗塞や脳卒中を起こして今手術に入っている患者さんがいるから、受け入れることができませんということが容易に起こるわけですよ。コロナの患者さんが助かったからといって、非コロナの病気で亡くなる人が増えるんだったら、私は医療を提供する側としては本末転倒だと思います

コロナ病床のひっ迫により、別の病気やケガで入院が必要な人にも対応できない「医療崩壊」。このまま高い水準で新規陽性者数が続き重症者が増えれば、現場で命の選別をせざるを得ないと梅村医師は危機感を募らせる。

琉球大学病院・梅村武寛医師:
同時多発的に重症者が出てきた場合には、私たちの頭の中でこの人が助かりやすい、この人が助かりにくいということを決めざるを得ないわけです。それを私はしたくないですね。本当にしたくないです。したくないですけれども、いざとなった時はしなきゃいけないと私は覚悟は決めています

適切なタイミングで適切な治療が受けられるよう、今一度、感染対策の徹底を呼びかける。

琉球大学病院・梅村武寛医師:
自分がひとたび医療を必要とする時には、私たちの手が足りない状況が起きているということをわかってもらいたいなと思います

沖縄本島中部圏域で感染者急増…保健所業務が滞るケースも

沖縄県内で爆発的に感染が拡大する中、最も多くの感染者が報告されるのが、沖縄本島中部圏域を担当する中部保健所。

沖縄・沖縄市 中部保健所
沖縄・沖縄市 中部保健所

中部保健所・国吉秀樹所長:
デルタ株の影響もありましたけど、中部の方が感染の広がりが早かったんですよね。沖縄県全体が600~700というふうに数字が上がっていく中、約半分近くが中部保健所管内からの届け出ということで…

沖縄県内で2021年6月にデルタ株が初めて確認されて以降、特に中部圏域では置き換わりが急速に進み感染者が急増した。

沖縄県の疫学統計解析委員会が2021年7月26日から8月29日まで、週ごとにまとめた医療圏別の発生状況では、沖縄本島中部が4割を占め最も多くなっている。

中部保健所・国吉秀樹所長:
発生届の数が非常に多くなっています。発生届をいただくと日を置かずにご連絡をするのが原則ですけど、発生届の数が増えますとなかなかそのようにはいきません

保健所の業務は、陽性者への聞き取りを行う疫学調査や重症化のリスクが高い患者への「入院勧告」の説明、さらに隔離や就業制限を解除するための健康観察、クラスターが発生した現地の調査など多岐に渡っている。

連日、多くの感染が確認される中、1人1人に電話で聞き取りを行うため陽性者への連絡が滞るケースが増えている。

中部保健所・国吉秀樹所長:
そういう状況であるということについて非常に心苦しく思っていますし、県民に対して申し訳ないという気持ちもあります。しかし、なんとか所内の体制を強化して、ご連絡を差し上げることを適正な時期にということを目指して頑張っています

中部保健所では、2021年8月から携帯電話会社の協力のもと、陽性者への最初の連絡をスマートフォンや携帯電話のショートメールで送信するシステムを導入した。

電話が繋がらずに何度も掛け直したり、時間をかけて説明していた内容をメッセージに添付されたURLから確認することができ、保健所の職員のみならず電話を受ける患者の負担を軽減することも目的である。

自宅療養中の患者の健康観察などに当たる人員を確保するため、8月下旬からは20人の職員が県から新たに派遣された。いち早く濃厚接触者を特定し感染の広がりを防ぐため、陽性者にも周囲への連絡を促している。

中部保健所・国吉秀樹所長:
陽性者と1メートルあるいは1.5メートルの距離で、マスクをせず15分以上一緒にいた方、あるいは飲食した方とかですね、そういうことがあればご連絡していただいて、健康観察や検査をお勧めして欲しいということを申し上げています

医療ひっ迫の改善には感染者の減少、各人の適切な行動が大事

沖縄県の疫学統計解析委員会は、1人が何人に感染させるかを示す実効再生産数は、2021年8月23日から29日までの値で7週間ぶりに1を下回り、0.9と分析。「流行のピークは越えつつある」としている。

中部保健所・国吉秀樹所長:
この機を逃さず感染者を減らしてくことが、医療がひっ迫する危機的な状況の改善に繋がると見ている。感染が落ち着くかどうか、ちょうど大事な時期なんですよね。状況をよく理解した上で適切な行動を取っていただくということが大事だと思います

厳しい感染状況を改善に向かわせることこができるか。県民1人1人が、その瀬戸際に立たされているという自覚を求められている。

(沖縄テレビ)

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