岩手・二戸市の酒蔵「南部美人」が、8月18日から酒米など原材料を全て県産品で作ったジンとウォッカを発売する。

120年近い歴史の中で初めて挑戦する「洋酒づくり」。
その背景には、新型コロナウイルスによる苦境を、世界に打って出るチャンスと捉える社長の思いがあった。

日本酒の酒蔵が洋酒作り 「酒米の有効活用」に挑戦

井上智晶アナウンサー:
南部美人の酒蔵の一角で、クラフトジンとウォッカの製造が行われています

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岩手・二戸市の酒蔵・南部美人では、2020年11月から職人が手作りするクラフトジンとクラフトウォッカの製造を始めた。
日本酒と全く違うジャンルの洋酒づくりは、120年近い歴史を誇る南部美人で初めての挑戦。

その背景には、新型コロナウイルスの影響があった。
飲食店や酒販店などでの需要が減り、2020年は売上が約2割減少。
このままでは、県内の農家と契約している酒米を余らせてしまう可能性があるため、その有効活用策として、酒米を主な原料にしたジンとウォッカを製造することになった。

南部美人 久慈浩介社長:
ジンやウォッカは、世界の人がみんな知っている。説明がいらない。非常に世界と戦いやすい

原材料は「オール岩手」に

ジンとウォッカの製造には、2020年4月から医療従事者のために作り始めた消毒用アルコールの技術が応用できた。
また、世界に打って出るために、原材料をすべて県産品「オール岩手」とすることを決めた。

南部美人 久慈浩介社長:
原材料が県北のものを使っていることから、県北の素晴らしさを日本中に、世界中に発信をしていければうれしい

ウォッカは、蒸留酒を白樺の炭でろ過したお酒。
31万本以上が自生する、生息本数日本一の平庭高原の白樺が、今回のウォッカには使われている。

炭を作るのは、100年以上前から木炭づくりをしている久慈市の谷地林業。
燃えてすぐなくなる白樺は燃料には不向きなため、これまで需要はなかったが、今回初めてウォッカ専用の炭を作ることになった。

谷地林業 木炭アンバサダー 渡部雅裕さん:
炭の吸着する力にクローズアップしていただいて、それをわれわれの白樺の炭でやっていただけるということで、非常に面白い商品になると思う

長年の経験に裏打ちされた確かな技術は高品質な炭を生み出し、この炭によって、ろ過されたウォッカはクリアで上質な味わいがする。

「岩手らしい香り」…選んだのは“漆”を使ったジン

一方、ジンづくりは、針葉樹の果実・ジュニパーベリーが必ず入るが、それ以外は何を入れても自由。その中で「岩手らしさ」を表現するためにこだわったのは「香り」。
出荷量日本一で、2020年 ユネスコの無形文化遺産に登録されている二戸市の浄法寺漆を香りづけに使うことになった。

これまで、採取が終わった漆の木は使い道がほとんどなかったが、ジンの材料として使われることで「浄法寺漆」の新たな活用策として期待されている。

同じ材料を使う漆器の作家も、新たなクラフトジンに期待している。

滴生舎 今村有希さん:
器の漆と一緒になることで、相乗効果でどんな楽しみが生まれるか期待している

これまで、特産のゆずやリンゴをブレンドするなど、様々な試行錯誤をしてきた。
その結果、漆の香りを生かすためには、漆だけを使うのがベストという結論に至った。

南部美人 久慈浩介社長:
木の香りは、なかなか表現しづらい。木を焼いて焦がしてやると、ウッディな香りとスモーキーな香りとスパイシーな香りが出るだろうということで、あぶって使っている

井上智晶アナウンサー:
今、まさに蒸留されたクラフトジンが流れ出てきています。においをかいでみると、アルコールの中に爽やかな木の香りがします

完成した南部美人のクラフトジンは、ジン独特のすっきりとした味わいに、スモーキーな木の香りが後に残るのが特徴だという。

南部美人 久慈浩介社長:
日本一の南部杜氏、日本一の漆、日本一の炭。この日本一を3つ使って作る、岩手でしか作れない、岩手だからこそ作れる、岩手になければいけないクラフトジンとクラフトウォッカなんだと思っています

「オール岩手」の酒を世界へ。
コロナ禍の逆風をチャンスに変え、南部美人の新たな挑戦が本格的に始まる。

(岩手めんこいテレビ)

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