現代人の生活必需品といっても過言ではない、スマートフォン。SNSやアプリなど楽しいコンテンツが多く、時間が過ぎるのもあっという間だ。

その一方で、スマホの持ち方を意識したことはあるだろうか。やりがちなのが、スマホを縦に持ち、片手の小指で支える方法。片手で操作できるし落としにくくもあるのだが、ネットでは「小指が痛くなった」などの反応を見ることもある。

小指で支えると楽ではあるのだが…(画像は筆者撮影)
小指で支えると楽ではあるのだが…(画像は筆者撮影)
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このほか、画面操作のしすぎで「親指の付け根が痛い」などの意見も。持ち方や操作の仕方が、手指の健康に影響する可能性はあるのだろうか。

負担になりにくい持ち方があるなら、知っておきたいところだ。手指の治療を専門とする病院「柏Handクリニック」(千葉・柏市)の院長、整形外科医の田中利和さんにお話を伺った。

田中利和医師(提供:田中医師)
田中利和医師(提供:田中医師)

症状を悪化させる要因にはなる

ーースマホを長時間使用すると手指に健康被害が出る可能性はある?

長時間使用を続けると、母指(親指)の「母指CM関節症」「ドケルバン腱鞘炎」「ばね指」、示指(人差し指)や小指の「変形性指関節症」を悪化させる可能性が考えられます。

・母指CM関節症(親指の付け根付近に痛みが出る)
・ドケルバン腱鞘炎(物を持ったり、絞ったり、手を着いた際、手首の親指側に痛みが出る)
・ばね指(指を曲げた後に伸びなくなったり、伸ばそうとするとバネのように急に伸びる)
・変形性指関節症(指の関節に痛みが出たり、腫れて変形する)

変形性指関節症の一種、へバーデン結節(田中医師の公式ウェブサイトより)
変形性指関節症の一種、へバーデン結節(田中医師の公式ウェブサイトより)

ーースマホが原因で発症した事例はあるの?

私のクリニックの場合、スマホを理由として来院される方はほぼいません。ですが、患者さんにお話を伺うと「スマホをいじりすぎたかも」とおっしゃる方はいるので、発症の直接的な原因ではありませんが、症状を悪化させる要因にはなると思います。


ーー影響としてどんな要因が考えられる?

親指の付け根は可動域が広く、その分だけ軟骨が削がれやすいです。スマホの画面操作を親指でする方は多いと思いますが、酷使は母指CM関節症を悪化させる要因となります。ドケルバン腱鞘炎は出産後、ママさん世代の女性に多く見られる症状ですが、こちらも親指を上下に繰り返し動かすと痛みを抱えやすいです。

母指CM関節症の要因(田中医師の公式ウェブサイトより)
母指CM関節症の要因(田中医師の公式ウェブサイトより)

ばね指も画面操作の際、曲げた指が引っかかって伸びなくなることが起きたりします。変形性指関節症の要因はさまざまですが、指の使い過ぎもその一つとされます。

小指は物を握ると力がかかりやすい

ーー手指を痛めやすい持ち方、画面操作の仕方は?

スマホの重さを小指で支え、片手操作をする持ち方でしょうか。小指は構造が他の指よりも小さいのですが、物を握るときにはかなりの力がかかります。例えば、テニスのラケットや野球のバットを持つときは小指や薬指の使い方が大事だと言われるほどです。小指で支え、親指だけで操作する持ち方が習慣化するのは、好ましくはありません。

片手だけの操作は負担となりやすい(提供:田中医師)
片手だけの操作は負担となりやすい(提供:田中医師)

ーー手指を痛めにくい持ち方や工夫はある?

スマホに手帳型のカバーを付けるなどして、片方の手でカバー部分を持ち、もう一つの手で操作するのは賢明だと思います。重さが分散されるので負担がかかりにくいです。指を通せるバンカーリング、滑らないシリコンカバーを付けても良いと思います。スマホは良い製品ですが、高価で表面はツルツルしています。落としたくない、滑ってはいけないという意識があると、握る力も強くなって負担となりやすいです。

両手持ちやカバー着用が望ましい(提供:田中医師)
両手持ちやカバー着用が望ましい(提供:田中医師)

ーー画面を横にして持つのはどう?

画面を横型にして両手で持つ方もいますね。両手の小指で支える形となりますが、こちらは重さの負担は半分程度になるので、片手だけの操作より負担は減ると思います。


ーースマホを持つ姿勢は影響する?

身体全体の姿勢だと、画面を下に寝かせてみるよりも、垂直(目線の高さ)にして見るほうが望ましいと思います。ただ、(取材を機会に)電車内での人々のスマホの持ち方を観察したところ、片手持ちで画面を垂直に立てようとするとどうしても、小指で支える持ち方が多くなるんですね。画面を寝かせて見ている方はそうではありませんでした。恐らく、首の位置と見やすさも関係しているのでしょう。片手操作にならざるを得ないときもあると思います。

手指だけではなく身体全体の姿勢も大切(画像はイメージ)
手指だけではなく身体全体の姿勢も大切(画像はイメージ)

「屈筋腱」のストレッチで予防しよう

ーー手指を痛めないための予防法はある?

一定時間使用したら、休憩を入れること。そして肘を伸ばして手首と指全体を反らせるストレッチがお勧めです。手指を曲げる「屈筋腱」をゆっくりと伸ばすことができ、関節自体への負担も和らげてくれます。また、長時間の同一姿勢は頸(くび)、肩周囲の筋緊張、血流のうっ滞を起こします。肩甲骨、頸のストレッチをしても良いでしょう。指を鳴らす人がいますがこちらは関節に負担がかかりますので、お薦め出来ません。


ーー屈筋腱のストレッチはいつ行えばいい?

疲れたと感じたときなど、身体の要求で動かしてあげた方がいいと思います。同一姿勢の作業を続けると筋肉は持続的に収縮して、血流が悪くなる「うっ血」状態になります。それは屈伸運動などで改善するのですが、そんなイメージを持っていただければと思います。数字的な目安を出すとすれば、1時間に1回程度でしょうか。

屈筋腱のストレッチはこんな感じ(提供:田中医師)
屈筋腱のストレッチはこんな感じ(提供:田中医師)

ーー異常や痛みを感じたら、どうすればいい?

基本的には休息が一番だと思います。しかし、やむを得ない場合は、局所のテーピングや装具の着用などをお薦めします。手外科専門医は全国にいるので、何かあれば是非ご相談いただければと思います。


田中医師によると、手指に負荷がかかる持ち方が習慣化すると、若い頃は大丈夫でも中高年で痛みが出る可能性もあり、注意してほしいという。何気なく使いがちなスマホだが、持ち方や画面操作の仕方を今一度、確認してみてもいいだろう。

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プライムオンライン編集部
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