熱帯夜で眠れない、十分な睡眠がとれないと悩んでいる人は少なくないのではないだろうか。パナソニックが発表した睡眠に関する調査結果にも、「暑さ」が睡眠を妨げている実情があらわれている。
調査は6月21日、全国の20歳以上の男女548人を対象に実施。睡眠の満足度に関する質問には、66%と7割近くが「全く満足度していない」「あまり満足していない」と答えたのだ。
原因について、4割超が「暑さ」と回答し、6月下旬と夏本番前の調査だったのにもかかわらず、暑さで寝苦しさを感じ始めていることが明らかになった。
一方、暑さが原因で眠れていないにもかかわらず、睡眠時にエアコンを“一晩中つけっぱなし”にしている人は3割以下で、つけっぱなしにしない理由として半数が「直接風が当たり冷えすぎるのが嫌だから」と回答した。
また、コロナ禍の感染不安や外出自粛によるストレスでの睡眠の満足度の低下に関する調査では、6.6%が「頻繫にあった」、28.8%が「時々あった」と回答しており、合わせると3割以上の人が影響を受けていたことも分かった。
この結果について、睡眠評価研究機構の代表、白川修一郎さんは「強い心理的ストレスにさらされた場合、短期的には入眠困難や中途覚醒を生じ、不眠に陥り睡眠時間が短縮することが多い。ストレスにより、脳・自律神経系とホルモン系に変異が生じ、睡眠が阻害されると推定されている」と分析している。
熱帯夜でも快眠できる8つのコツ
では、どのようにして睡眠の質を改善したら良いのだろうか?
パナソニックの睡眠改善インストラクター、菊地真由美さんによると、「熱帯夜で寝苦しいときは、エアコンを上手く活用することで眠りやすくなる」という。そのうえで、熱帯夜でも快眠できるコツを8つ示している。
1つめは「エアコンは寝室に入る30分前にON、上に向けて風をあてておく」。
一般的には、室温26~28℃が心地よく眠れる環境だといわれていますが、温度同様に重要なのはエアコンを運転させるタイミング。
ついやりがちな間違いが、布団に入ったタイミングでスイッチを入れること。日中に室内に溜め込んだ熱が、夜になっても天井や壁にこもっているため寝るタイミングでエアコンをつけても、室温が下がるまでに時間がかかることがあります。
寝室に入る30分前にエアコンをONにし、上に向けて風をあてておくのが、効率よく良い睡眠環境を作るコツです。
2つめは「タイマーは設定せず、設定温度は26~28℃に」。
快適な寝室環境を保つには、冷房モードで設定温度を26~28℃にするか、除湿モードに。特に熱帯夜は途中で運転を停止する設定にはせずに、冷えすぎない温度で朝までつけっぱなしにしましょう。
途中で運転を停止してしまうと、その後室温が上がると共に寝苦しくなり途中で目覚めてしまう原因になります。理想は、就寝中も寝室の温度をコントロールすること。
就寝前は少し温度を下げることで深部体温を下げ、就寝中は温度を下げすぎず、目覚めに向けて少しずつ温度を上げることです。そうすることで、快適に就寝でき、さらに目覚めがよくなります。
3つめは「湿度は60%以下に保つ」。
夏場は湿度が高くなりやすく、寝苦しくなりがちです。湿度が高すぎると、途中で目覚めてしまう原因にもなります。夏場は、寝室の温度だけでなく湿度にも注意しましょう。
寝室の湿度は60%以下に保つことが重要です。湿度が高い時はエアコンの温度を下げる、または、エアコンを除湿運転する、といった対応をおすすめします。
4つめは「扇風機との併用使いのすすめ」。
調査結果で、エアコンを一晩中つけっぱなしにしない理由として、半数が「直接風が当たり冷えすぎるのが嫌だから」と答えたように、エアコンの風が苦手という人も多くいるかもしれません。
そういった方は温度を下げすぎてしまっていることも考えられます。エアコンの温度設定は下げすぎず、ただ、どうしても室温が高くて寝入りが悪いという方は、扇風機を併用することもお勧めです。
その際は、表面に太い血管の通っている足首あたりに風を当てると深部体温が下がりやすく寝入りが良くなります。ただし、風を長時間体に当てないでください。健康を害することがあります。
バスタブで入浴、『入眠儀式』を意識
5つめは「寝る1時間前までにバスタブで入浴、温度は夏でも38~40℃」。
深部体温をスムーズに下げるためには、反動を利用するのがコツ。意外と大切なのがバスタブに浸かって入浴することです。夏でも38~40℃のお風呂に、10~20分ほどつかるのがおすすめ。
入浴することで深部体温は約0.2~0.3℃上がるといわれており、一度上がった深部体温は反動で下げようとする体の性質があり、この落差が寝入りやすさにつながります。上がった深部体温は約1時間かけて徐々に下がり、この時に眠気が高まるのでタイミングを逃さず、布団に入れるように、入浴時間を調整してみましょう。
また、深部体温を下げるために入浴前から寝室とリビングをエアコンで快適な温湿度にしておくこともポイントです。
夏場はシャワーだけという場合でも、足首・手首・首の後ろなど太い血管が通っている部分に合計5分ほど、少し熱めのシャワーを当てることで、効率よく深部体温を上げることができます。夏はシャワーしか浴びない、という人はお湯を当てる位置と時間を意識してみましょう。
6つめは「リビングや浴室の照度は控えめに」。
夜間は目から入る光の量が減るほど、睡眠ホルモンであるメラトニンが分泌されやすくなります。入浴前に、リビングの照明をリラックスできるオレンジ色などにしておきましょう。
また、浴室内は天井も低く、照明器具が目に近いところにあるため、入浴時に浴室の電気が明るい場合は照明を消して、脱衣所の灯りだけにするか、浴室用の防水間接照明を利用するのも効果的です。ただし、照度を落とす場合は十分に周りに気をつけてください。
7つめは「パジャマはゆったりとした長袖・長ズボンが理想的」。
質の良い睡眠のためにパジャマは大きな役割を果たします。
睡眠中には、コップ一杯の汗をかくといわれています。大量の汗をかくことで、背中と敷き布団の間の湿度が高くなり寝苦しさを感じるため、しっかり汗を吸ってくれる綿やシルク製のパジャマの着用がおすすめ。
夏には「半袖・半ズボン」という人も多いですが、寝具から出た手首や足首に直接冷気が当たり体を冷やし過ぎてしまい、快眠が妨げられてしまうことがあります。また、全身にかく汗を吸収するためにも、夏でもゆったりとした長袖・長ズボンが理想的です。
8つめは「在宅勤務の人は『入眠儀式』を意識すべし」。
寝入りを良くしてぐっすり眠るためには、『入眠儀式(ルーティン)』というものも大切です。寝る前に習慣的に同じことをすることによって、脳が『これから寝るんだ』というモードに入り、より眠りやすくなります。
例えば、部屋着と寝間着が同じでそのままベットや布団に入るという人は、寝間着を別に用意しておくのがおすすめ。部屋着から寝間着に着替えるという『儀式』を行うことで、脳のスイッチを切り替えるきっかけにしましょう。
最近では、在宅勤務の方も増えているため、部屋着のまま仕事をしたり、部屋で過ごし、そのまま寝ている人もいるかもしれません。そうなると、脳のスイッチが切り替わらずにいつまでも寝られない、ということが起きてしまいます。
「在宅勤務になってから寝付きが悪くなった…」など、睡眠に関する不調を感じる方は、この『入眠儀式』をつくってみると良いかもしれません。
コツに関する2つの疑問への答え
熱帯夜でも快眠できる8つのコツはすぐにでも実践したいのだが、気になることが2つある。
1つめのコツには「寝室に入る30分前にエアコンをONにし、上に向けて風をあてておく」とあるが、上に向けて風をあてておくと、どのような効果があるのか?
また、2つめとして「タイマーは設定せず、設定温度は26度~28度に」とあるが、設定温度を26~28℃を勧めるのにはどのような理由があるのか?
パナソニックのエアコンのプロ、エアマイスターの福田風子さんに、この2つの疑問をぶつけてみた。
――上に向けて風をあてておくと、どのような効果がある?
冷気は重たいので下に下がってきます。できるだけ高い位置に吹き出す方が、効率的に室内全体を冷やせます。
また、熱は天井や壁などの輻射熱で、天井や壁面にこもった状態になります。そのため、天井や壁面を冷やすことも効果的です。以上のことから、風向きは一番上の天井面に向けることをおすすめしています。
――「設定温度26~28℃」がよい理由は?
睡眠評価研究機構の代表・白川修一郎さん、および、東北福祉大学の教授・水野康さんなど、睡眠研究の権威によりますと、高温多湿(35℃、75%)の環境になると、徐波睡眠(ノンレム睡眠の中でも深いステージ)とレム睡眠が減少し、覚醒が増加することが明らかになっています。
寝具を使用する場合、快適に眠れる寝室の温度は一般の方で26℃、高齢者の方で28℃と言われているため、この設定温度を推奨しています。
今は暑さが一段落しているが、まだまだ暑い日が続くとみられる8月。熱帯夜でも快眠できる8つのコツを実践し、快適で十分な睡眠をとってほしい。
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