宮古諸島下地島の海底洞窟から発見されたゴカイが、遺伝学的・形態学的解析の結果、新属新種として発表された。沖縄県立芸術大学やコペンハーゲン大学(デンマーク)の研究者らによる共同研究で判明した。

新属「ニッポンウサミミゴカイ属」の新種「イラブドウクツウサミミゴカイ」と提唱し、この“ウサミミ”という和名は、特徴的な副感触⼿が“ウサギの⽿”を連想させることに由来する。

新種のゴカイは、体長約0.5ミリ前後の小型種で、体節が9節あり、長い感触手と副感触手を持ち、雌雄異体であることなどが特徴としてあるという。

光学顕微鏡写真(藤田喜久らの研究グループ提供)
光学顕微鏡写真(藤田喜久らの研究グループ提供)
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ゴカイ類は海から陸までさまざまな環境に生息し、世界で1万種以上、日本でも1200種以上が知られているという。

今回新たな種として発見された「イラブドウクツウサミミゴカイ」は可愛らしい姿をしているが、どんな生態なのか? 名前の由来である“ウサミミ”のような副感触手の役割とは何なのか? 沖縄県立芸術大学の藤田喜久教授に聞いてみた。

「暗所環境に適応的なのかも」

ーーどのような場所で採集したの?

今回は、2018年10月にデンマークコペンハーゲン大学の研究者(Katrine Worsaae博士)が来沖した際に共同で研究を行いました。

今回の新種は、宮古諸島下地島の海底洞窟内で採集しました。この海底洞窟は水深35メートル付近に洞窟の入口があり、奥行きは110メートルほどです。入口から40メートルほど進むと完全な暗闇になります。今回の調査では、入口から40メートル付近の場所から最奥部までの暗闇の部分で採集を行いました。また調査場所は、淡水の影響を受けて塩分が低くなっていて、「アンキアライン」と言われる特殊な環境になっています。

今回の調査では、体の大きさがとても小さい生物(ほとんど肉眼視できない)であるメイオベントスを対象にしていましたので、洞窟内の海底や壁の隙間に溜まった泥や砂を「吸引機」で吸い取ってプランクトンネット(目の細かい網)でこし取るような方法を用いました。従来の研究では、砂や泥を標本瓶に詰めて持ち帰ったり、プランクトンネットを水中で振り回すなどの方法が用いられてきたのですが、「吸引機」で吸い取る方法を確立したことにより、飛躍的に調査効率(生物採集成果)があがりました。

吸引機での採集の様子(藤田喜久らの研究グループ提供)
吸引機での採集の様子(藤田喜久らの研究グループ提供)

ーーどういった部分で新種だと判断したの?

体の各部の形態的特徴やプロポーションなどを近縁種と比較することになるのですが、体節が9節からなり、体長に対して長い感触手と副感触手を持つこと、雌雄異体であることなどの特徴の組み合わせが他種とは異なります。また、遺伝子解析の結果からも支持されます。これらの違いは、「種」だけでなく「属」としても認められたため、新属を設立しました。


ーーその部分がどうして進化(もしくは退化)したのかの要因は分かる?

新種と判断した部分の進化系統的な意味づけは今後さらに検討する必要がありますが、近縁種も洞窟や地下水環境などに生息しています。例えば、眼がないとか、長い副感触手(しかもそこに多数の細かな毛=繊毛が生えている)などの特徴は、暗所環境に適応的なのかもしれません。

赤い丸で印をつけた部分が副感触手
赤い丸で印をつけた部分が副感触手

ーー新種であると分かった時、どう思った?

生物の採集自体は、「海中で直接見えない(ほど小さい)」ので、「なんか面白い種が採れていないかな」という程度なのです。その後、顕微鏡下でソーティング(仕分け)をする中で、色々な生物を見るのは楽しいですし、興奮します。

これまでの私(たち)の研究で、海底洞窟では数多くの新種が見つかっていますので、「新種」ということ自体に心踊るということはあまりないですが(まぁ何かしらの新種が見つかるだろうとも思っていますので)、ゴカイのグループはこれまで研究してこなかったので、その点は嬉しいです。また、今回の新種以外にも、2019年にも同様の研究チームで調査をして、かなりたくさんの種の動物が見つかっていますので、これからも一つ一つ研究を進めなくてはいけないなという使命感のようなものはあります。

電⼦顕微鏡写真(藤田喜久らの研究グループ提供)
電⼦顕微鏡写真(藤田喜久らの研究グループ提供)

今回の調査で採集された新種のゴカイは、動物の命名に使用される標本として4個体(雄3個体、雌1個体)と、遺伝子解析用に少なくとも2個体が採集されている。また他にも、破損など完全でない標本などもいくつか採集されているが、沖縄の島々の海底洞窟にはたくさんのゴカイ類が採集されているため、別の種の可能性もあり、詳細は不明だそう。

藤田教授は2013年頃から、本格的に海底洞窟の生物研究を始め、その時々でさまざまな調査研究チームで研究を進めてきたという。これまでに、専門の甲殻類(エビ・カニ類)、そして棘⽪動物(クモヒトデ類)などで新種や日本初記録種、希少種などを数多く見つけてきたという。

“ウサミミ”は遊泳あるいは摂餌に使われているのでは

ーー和名の由来である“ウサミミ”の副感触手は何のためにある?

一般的に、ゴカイ類の副感触手は感覚器官として機能しています。今回の種の場合、副感触手は平べったく細かい毛が生えてウサギの耳のようになっているのですが、現在のところ遊泳あるいは摂餌(餌を食べること)に使われているのではと考えられています。

ちなみに、共同研究者との話の中でこのグループの英名について聞いたのですが、「rabbit ear worm(ウサギの耳のゴカイ)と呼んでるわ」とのことだったので、和名もそのようにしました。「ウサミミ」はちょっとどうかなとは思いましたが、語呂が良いのでそのようにしました。

学名「Nipponerilla irabuensis(ニッポネリラ・イラブエンシス)については、できたら見つかった場所にちなんだ名前にしたいという話になって、採集地の伊良部地域にちなみ今回のようにしました。

平たく細かい毛が生えてウサギの耳のような副感触手(藤田喜久らの研究グループ提供)
平たく細かい毛が生えてウサギの耳のような副感触手(藤田喜久らの研究グループ提供)

ーー今回の新種の発見で分かることは?

琉球列島の海底洞窟における「種の多様性(動物種の多さ)」が想像以上であるということです。

今回の研究結果では、新種ゴカイは、カリブ海周辺およびカナリア諸島の洞窟地下水環境などに分布するグループに近縁であることが分かりました。同じような結果は、これまでの研究で私たちが見つけた海底洞窟や洞窟地下水に生息する甲殻類、棘皮動物、海綿類などでも得られています。生物地理学的、系統進化・適応進化的にも興味深い発見であるということです。


ーーこの新種の発見は、今後どういったことに役立ちそう?

直接的に人間に役立つ可能性は低いと思います。しかし、私たちが生物多様性を理解するため(知を体系化するため)には、こうした生物を記載することが大事だと思います。

今回の種については、ゴカイ類の系統進化や適応進化を考える際に重要になると考えられます。これまで、海底洞窟の生物研究は国外が主となっており、多様性も高いことが知られていましたが、琉球列島の海底洞窟にはそれらに匹敵する高い種多様性が見られることがわかってきたので、今後、さまざまな生物学者にとって重要な場所になるとも思っています。

また、海底洞窟という私たちに身近でない環境にも多くの生物が暮らしており、私たちが見えない(ほどに小さい)生物も数多く存在するということを多くの人に知ってもらうことは、自然環境の保全的観点からも重要だと思います。私たちがイメージできる世界が広がれば、より自然や生物にも配慮できるようになると思います。そのためには、それに気付き、調査研究し、重要性(価値)を見出し、一般化する(普及啓発する)作業が必須ですので、今後もコツコツと頑張りたいです。

吸引機での採集の様子(藤田喜久らの研究グループ提供)
吸引機での採集の様子(藤田喜久らの研究グループ提供)

なお今回の新種記載に用いた標本は、デンマークの自然史博物館に保管されているという。種の基準になるものとなるため、保存され続けるそうだ。

発見された新種のゴカイは、今後また採集することができると、繁殖の仕組みなど新たな研究を進めていくことも可能になるという。また、さらに同じ場所を調査することで新たな種が発見される可能性もあるそう。地球には我々の知らない生き物がまだまだ存在しているのだ。

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