東京オリンピックは17日間の大会を終えて、8月8日に閉幕した。今年5月、オリンピック開幕前にインタビューした大会組織委員会幹部で警備部門トップの米村敏朗CSO(チーフ・セキュリティ・オフィサー)に閉幕後の8月10日あらためて話を聞いた。

(前回のインタビュー記事:「五輪意義の発信が足りない」組織委幹部が政府に苦言 「アスリート競技をやり抜く点で大会は開催可能」

大会組織委幹部 警備部門トップの米村敏朗CSO
大会組織委幹部 警備部門トップの米村敏朗CSO
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オリンピックは東京都などが緊急事態宣言に入った中で始まったが、都内の感染者は連日4千人を超えて、医療現場は逼迫し、全国で感染拡大が続いている。

オリンピック期間中には選手村から選手や関係者が外出し、観光や買い物などをする光景も確認された。

五輪の意義とバブル方式の評価

ーー5月のインタビューではアスリートの感動を伝えたいと話していた

大会組織委 警備部門トップ米村敏朗CSO
アスリートの競技をやり抜くという意味では、1年間延期の段階で、これはアスリートオンリーになるということを思っていた。その時点で無観客だと思ったわけではないが、あれもこれもはできないのであればオリンピックのコアな部分、アスリートの競技をやり抜くしかないと思ってきた。

実際にやってみて思ったのは、オリンピックの意義というのは結局言葉ではないということ。オリンピックという場でアスリートの様々な姿を見て、人々の心の中で何かが動いて何かが生まれる、それがオリンピックの意義だということが分かった。それは決してマイナスのものではなくて、何かが前に進むものだったと思う。そういう意味ではオリンピックの意義をアスリートが体現してくれた。
 

ーー新型コロナ対策のバブル方式の評価は?

バブル方式には2つの側面があり、ひとつはアスリートと関係者をバブルの中に閉じ込めること。これをどう維持するのかはその人たちの行動管理の問題で、自分でしっかり管理してほしいというルールだった。そのルールに違反した行動があったことは事実。絶対的に評価すれば厳しいが、相対的にみれば行動管理は概ね守られていたと思う。

アフリカの陸上選手5人が観光する姿が…
アフリカの陸上選手5人が観光する姿が…

もう一つはバブルの中での感染対策で、アスリート始め、検査の徹底によって感染者が出たら早期発見・早期隔離を行ってきた。陽性率は0.02%で推移し、国内の感染率よりははるかに小さかった。バブルの中で感染が広がることを防ぐという意味では成功だったと思う。(閉幕時点で約60万回の検査中、陽性は138件)
 

ーー 一方で都内をはじめ全国で感染は拡大している

オリンピックのタイミングで感染は選手村の外で広がった。中から火が出てそれがどんどん広がったということではないが、緊急事態宣言の中での開催で、人々の意識や行動に影響を与えたことは否定できない。

オリンピックが感染拡大の原因になったとは思わないし、人流が減ったという見方もあるが、国全体のムードとしてオリンピックが影響したことは率直に受け止めるべきだと思う。
 

ーー無観客の判断について

1964年の東京のオリンピックを見て感動した知人が、陸上のチケットが当たっていてその感動を子どもにも見せてあげたいと言っていた。無観客なのか、何%入れるのかという数の問題だけが議論されてきたが、アスリートの感動を誰に伝えたらいいのかを考えたときに、チケット収入には結びつかないかもしれないが、学校連携などで子どもたちに見せてあげるのはひとつの方法だった。観客数の問題ではなくて、小さなことでもオリンピックの意義を伝えることは、感染対策を整えれば国民に受け入れてもらえたかもしれない。

ライブサイトやパブリックビューイングなどの中止もとにかく人が集まることを減らしたかった。感染への影響は分からないが、競技会場周辺に人が集まり、やめるように呼びかけもしていた。

ーーレガシーは残せたか?

たとえばスケートボードなどのアーバンスポーツで10代の子どもたちの活躍を見て、自分もやりたいと思って始める子どもも多いのではないか。また池江選手のオリンピック出場を見て、自分も頑張ろうと思った病気と闘う人たちもいると思う。こうしたアスリートの姿を見るとやって良かったと思う。
 

残念ながら心に響く説明ではなかった

ーー総理や政府からオリンピックの意義は伝わったか

残念ながら心に響く説明ではなかった。率直に言えば「アスリートの姿を見てください、何かを感じてください。きっと感じるところがあるはずです」というくらいのほうがよっぽど良かったかも分からない。理屈でいうのではなくて、アスリートの姿をみてくださいというアピールの方が心に響いたのではないか。

オリンピックで得た皆の感動は政治的な感動ではない。政治とは別次元の話。もっと人間にとって本質的なナチュラルなものだと思う。

ワクチンに必死になる気持ちが分かるが、100年に1度の感染症との戦いになると思っている。また変異ウイルスが出るかもしれない。検査を徹底してアスリートはもちろん、社会も守らなければならない。ニューノーマルという言葉があるが、トップは新しい日常、社会の在り方を示していくことが必要だと思う。

菅首相
菅首相

ーー感染が収まらない中でパラリンピックを迎える

感染対策は引き続きとても重要で、オリンピックは海外から来た人が国内にウイルスを持ちこむということが懸念されたが、今度はアスリートをウイルスから守るためにもしっかりやるべきだと思っている。

パラリンピックが終われば政府、都、組織委は総括すると思うが、オリンピックもパラリンピックもその意義はアスリートの競技とそれを見た人々の心が動くことがすべてだと思っている。
 

【執筆:フジテレビ報道局 解説委員室室長 青木良樹】                              

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局特別解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。