東京・立川市で、授業中の小学校の教室に男2人が侵入し、教員を殴るなどする暴行事件が発生した。学校の安全対策はどこまで進んでいるのか、子どもの安全は守られているのか。自治体の取り組みなどを取材した。

8日午前11時頃、校舎2階にある小学2年生の教室に40代と20代の男2人が侵入し、制止しようとした担任と教員を殴るなど暴行した。さらに1階の職員室入り口の窓ガラスを割り、教員に取り押さえられた男2人は駆けつけた警察官に暴行の現行犯で逮捕された。

面談結果を聞いて…無施錠の門から侵入

この日、午前中に子どもの間のトラブルをめぐって担任と面談した母親が、その後、男2人と学校に戻ってきたという。防犯カメラの映像から学校の正門から入ったことが確認されたが、門は施錠されていなかった。男2人は酒瓶を持っていて、被害にあった教員は「瓶が割れる音がして侵入に気づいた。2人は叫んでいた」と話している。2人は学校に来る前に駅前で酒を飲んでいて、母親から面談結果の連絡を受けて、タクシーで学校に来ていたことが分かった。

事件が起きた東京都の立川市立第三小学校
事件が起きた東京都の立川市立第三小学校
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この事件で担任や校長ら教職員5人が軽傷を負い、男2人が侵入した教室には30人以上の児童がいたが、担任の指示で体育館に避難してけがなどはなかった。またほかの教室では机で入り口にバリケードを作るなどして不審者が入れないようにしたという。学校では去年8月に不審者の対応訓練を行っていて、今年も行う予定だった。

立川市教育委員会の会見(8日)
立川市教育委員会の会見(8日)

立川市教育委員会によると、この学校では正門などは施錠されておらず、電子錠もなく、遅れてくる児童や保護者、業者の出入りがあるため、常時施錠をすることは難しいという。また市内には公立小19校、公立中9校があるが、防犯カメラは設置されているが、警備員の配置はないという。今後は来校者の名札の装着や声かけなどを徹底していきたいとしている。

また児童の目の前で教員への暴行が行われていて、市教委ではスクールカウンセラーや心理士を追加で派遣して、子どもたちの心のサポートにあたっていくことにしている。

「池田小事件」子どもたちが次々に襲われる

2001年には大阪府の大阪教育大附属池田小学校で、包丁2本を持った男が開いていた通用門から侵入し、1、2年生の4つの教室で児童や教員を刺し、児童8人が死亡、児童13人と教員2人が重軽傷を負う事件が発生した。

児童8人が死亡する事件が起きた大阪教育大附属池田小学校(2001年6月8日)
児童8人が死亡する事件が起きた大阪教育大附属池田小学校(2001年6月8日)

男は教員が警察に通報するため不在となった教室で子どもたちを次々に襲い、犯行は取り押さえられるまで約10分間に及んだ。死亡した児童は現場に20分前後放置され、即死ではなく、救命が遅れたことによる失血死だったという。

事件発生時、子どもたちへ危険を知らせることや避難の呼びかけなどが行われず(2001年6月8日)
事件発生時、子どもたちへ危険を知らせることや避難の呼びかけなどが行われず(2001年6月8日)

事件が起きたとき、子どもたちに危険を知らせることや、避難の呼びかけなどが行われておらず、学校ではその後、状況の把握が遅れ、組織的な避難誘導や救命活動ができず、保護者への連絡も遅れたことを報告書にまとめた。

毎年行われている追悼の集い(2024年6月8日)
毎年行われている追悼の集い(2024年6月8日)

事件があった日には毎年、追悼の集いが開かれ、安全への取り組みや事件を風化させないことを誓っている。

しかし、その後も不審者の学校への侵入事件は全国で相次いでいる。

全国の小中高や幼稚園などの不審者対策の調査結果
全国の小中高や幼稚園などの不審者対策の調査結果

文部科学省によると全国の小中高、幼稚園などの不審者対策(23年度)は、防犯カメラやインターホンの設置は6割、警備員配置は1割を切っている。

安全対策…私立と公立、地域でも違い

学校の安全対策をめぐっては予算が潤沢な一部の私立校では常駐警備や警報ブザー、防犯カメラを各所に設置するなどしているが、公立校でも地域によって警備態勢には違いがある。

渋谷区教育委員会によると渋谷区の公立小18校では正門に警備会社に委託した警備員が常駐していて、そのほかの門は、通学時間帯以外は施錠している。また公立中8校では夜間や休日も警備員が校内を巡回している。

保護者は来校する際は事前に配布されているプレートをつけることになっていて、業者などは受付で入校手続きをとるという。

「子どもが安全の中で学ぶのが学校。それを損なう行為は許されない」と述べる小池都知事(9日)
「子どもが安全の中で学ぶのが学校。それを損なう行為は許されない」と述べる小池都知事(9日)

東京都の小池百合子知事は9日、定例の記者会見で事件について、「子どもが安全の中で学ぶのが学校。それを損なう行為は許されない」と述べ、都の教育委員会は保護者の教職員への過度な要求への対応を議論する有識者の初会合を開いた。

都教委では8日、区市町村の教育委などに不審者対策の徹底を呼びかける通知をだしたが、このほか安全対策のための補助金交付や、心理士や精神科医の資格を持つスクールカウンセラーを都内の約2000校の公立小中学校や都立高校に派遣している。週に1回、子どもたちの人間関係や学業の悩みなどの相談にあたり、不登校の子どもとは授業中に面談するなどしている。いじめの相談では学校と連携して、保護者や教員の相談にも対応しているという。

 

また毎年、「安全教育プログラム」を策定していて、事件や事故からの生活安全、交通安全、災害安全の3領域での対策をあげている。「○○の放送が流れたら不審者が学校に入ってきた合図です。近くの大人がいる教室に入りましょう」など幼稚園、小学校、中学校、高校それぞれで教員が子どもたちに声をかける「一声事例」をあげ、対策を促している。

いじめや保護者トラブルが明らかにならないことも

警察庁で捜査一課や被害者対策にあたった安田貴彦元警察大学校校長は、「学校では閉鎖性からいじめのほかにも、保護者のクレームがエスカレートして大きなトラブルになっても明らかにならないことがあります。危機管理の専門家が客観的評価をするなど外部の目も必要だと思います」と話し、

安田貴彦元警察大学校校長
安田貴彦元警察大学校校長

「そもそも人の出入りを完全に止めることは難しいので、学校は常に安全でなく、危険なことも起こりえるという前提で、事件を教訓に危険を減らす対策を積み重ねることが求められています」と指摘している。 

(執筆:フジテレビ上席解説委員 青木良樹)                                        

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局上席解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。