東京オリンピック・パラリンピックの開催について、大会組織委員会幹部の米村敏朗氏はFNNの取材に対し、「コロナ対策を徹底し、アスリートの競技をやり抜きたい」と話した。

米村氏は警視総監や内閣危機管理監などを経て、現在は組織委員会の警備部門トップのCSO=チーフ・セキュリティー・オフィサーを務めている。

大会組織委 米村敏朗cso(左)
大会組織委 米村敏朗cso(左)
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 以下がインタビューの詳細

アスリートの競技をやり抜くという点で「開催可能」

--コロナ禍でのオリンピック開催について

結論から申し上げると、アスリートの競技をやり抜くという点について言えばそれは可能だという風に思っている。

私は、内村航平さんに「できるかできないかではなくて、どうやったらオリンピックをできるか考えて欲しい」と言われた時に、まさに分かる、私も同じだと。どうやったらオリンピックができるかということ。そうすると、どうやったらオリンピックができるかというのは、どこまでオリンピックをやるのかという問題と一緒。

だから、オリンピックの中で一番重要なもの、いわばエッセンス、本質はアスリートの競技。そういう意味ではアスリートの競技をなんとかやり抜く。オリンピックは色んなことが入っている訳で、でもそれは残念ながら切らざるを得ないと。その上でアスリートの競技をなんとかやり抜く、そのためにはどうしたらいいかを考える。

大会組織委 米村敏朗cso
大会組織委 米村敏朗cso

--観客について

かなりセンシティブな問題だと思う。私はアスリートの競技がなぜ必要なのか、オリンピックをここで、というのは、オリンピックパラリンピックでアスリートが生む感動というものは一番大事だと思っている。感動と希望。それをなんとか世界に発信していきたいということ。観客の皆さんもそういう意味では、当たり前だがやっぱりアスリートの生む感動と一体の部分がある。だからなんとか観客に入って欲しいなとは思う。これは正直申し上げて感染状況次第だと思う。

-- 現在の感染状況が収束しない場合は 

アスリートの競技をやり抜くという状態であれば、なんとかできるのではないかと私は思う。ただそれでいいのかという声があるのかもしれない。

--その場合の大会のイメージは

オリンピックは33競技339種目ある。元々世界トップレベルのアスリートが集まる競技であっても、1つだけだということであれば、そんなに大きな問題はない。このコロナ禍の中でもできるだろうなと。ただ33競技339種目を短い期間にいっぺんにやる訳だから、コロナ対策を徹底してやらないといけないということ。それは膨大な作業になることは間違いない。

色んなサイドイベントがある、それはできればそぎ落としてしまって、残念だけど、その上で競技を言ってみれば淡々とやっていく、ということになるかと思う。

こんな素晴らしい会場見たことない

--大会開催に今一番必要なことは

現在の準備状況を見ると、競技会場は、今でもテストイベントで海外から色んな人が来ているが、みんなびっくりしている、私も。こんな素晴らしい会場は見たことないなと言うくらい素晴らしい会場。そういった意味でのハード面の準備状況は十分整っている。

それから今テストイベントをやっているが、ここでのコロナ対策を含めて基本的には順調に進んでいる。ただ本番とは話が違うということなので、コロナ禍の中でのオリンピックというのは初めて、新感染症の中のオリンピックというのは。これは準備状況がどうかというのはまだまだで肉付けをしていかなければならないし、更に検証をしながら、最後までいろいろな手立てをチェックしながらやっていかないといけない。

感動と希望を伝えたい

--世論調査では大会の中止や延期を求める声も多いが

そういう意見があることはよく分かる。コロナ対策というのは、言ってみればスポーツイベントとしては、ある意味では真逆の対策かも分からない。

スポーツイベントの醍醐味は観客とアスリートが一体となって盛り上げるもの。そこが中々そうはならない。また過去のオリンピックから言えば、それこそアスリートの競技のみならず色んなイベントを通じて一体感や喜びや希望や感動を共有していこうということ。それができないのにというのはよくわかる。

だったらいっそのこと中止してできる段階でやったらどうかというのは、なるほどそうだなという面もある。ただ私はなんでこの段階で、そこまでしてオリンピックをやるんですかと言われた時に、私もリオでオリンピックを見たが、やっぱりあそこで、オリンピック・パラリンピックでアスリートが生む感動は素晴らしい。その感動は言ってみれば希望にも通じる。そういったものを今こそ世界中の人に伝える、そういう必要性が大切なことなのではないかと思う。

正直申し上げて、これはとても無理だというのであればそれは諦める。しかしなんとかこのレベル、この範囲ならできるんだと、それを通して今申し上げたような感動と希望を伝えられるのであればそれは実現したい。色々とご意見があるだろうが、これの大前提がコロナ対策をあくまでもしっかりとやっていくこと。

--これからの課題は

海外から多くの人が入ってくる、この数をなんとか減らしたいと思っている。

今我々がやろうとしているのは、当たり前のことだが、感染していない人からは感染しない。だから海外から来る人が感染していないということをしっかり確認しすることが必要。そのために事前検査なり、直後の検査なり、その後の検査で早め早めに、それを確実にしていく。その中でもし感染者がいたら残念だけど外れてもらう。これが鉄則。そういうことを今具体的にどうやってますかということをちゃんと説明する。

もう1つは、何で、どうしてそこまでやってオリンピックやるのかという東京2020の特別な意義を、これをしっかりとアピールするなり発信する必要がある

僕個人は、オリンピック・パラリンピックでアスリートの生む感動、それは希望にも通じる。それを是非伝えたい、皆さんに知ってもらいたいということだと思う。

またオリンピック・パラリンピックとなると競技以外のところで人が集まる可能性もある。たとえば日韓W杯の時、日本中若者がものすごく興奮して六本木や渋谷でいっぱい集まって夜中も騒いでいる状況があった。

スポーツは見るものに思わぬ興奮を与えるので、そういった事態を果たしてどうするのか。日韓W杯の時もそうだが、スポーツバーなどでみんなビールを飲みながら観戦することは一つの醍醐味。そういうことが積み重なっていくと、何も会場だけの問題ではなくてそれ以外のところでも感染対策をどうするのかというのは、やっぱり考えないといけない。

政府はもっと「熱意」「意義」の発信を

--国会で総理が大会開催やワクチン接種などについて答弁しているが、政府の発信については

僕は失礼ながら足りないと思っている。コロナの問題が出たときに、森前会長にも申し上げたが、今こそ組織委員会、政府、東京都が文字通りワンチームになってやらないとオリンピックはできない。

果たして今どうなのかということについて、もう少ししっかりやってほしいと思う。コロナ禍でオリンピックをやる意義、目的、そしてどういう対策をとってやっていくのかということを、一致団結して、それぞれの立場で国民の皆さんにわかりやすく、そして心に響く言葉で伝えていくということがとても大事だと思っている。

--政府の発信で具体的に何が足りない

熱意、意義。対策について具体的にこれをこうやるから安全ですよというのは当たり前の話。その先にオリンピックがあって、じゃあなぜやるんですかということについて、しっかりとしたメッセージを発信して欲しい

オリンピックはコロナ対策のためにやるわけではない、コロナ対策をしっかりやったその先にオリンピックがあるので、それは一体何なんですかということをしっかり考えて発信して欲しいと思う。やってると言われる方もいるが、僕個人としてはまだまだそれは足りない、もっと言うべきことではないかなと思う。

--ワクチン接種は、大会開催までに国民全員には間に合わない

ある意味では残念。海外からやって来る人がワクチンを打ってくるのは非常に大切だが、海外からやってくる人を受けいれる日本の国民の、国内のワクチン接種はそれ以上に重要。そこが残念ながら進んでいないというのが現状。それがない状態でオリンピックをやるというのは元々覚悟していたことではあるが、さらにコロナ対策をしっかりやらないといけないということだと思う。

--バッハIOC会長の来日が延期になった

いろいろな考え方があると思うが、個人的にいえば、こう言うときだからこそ是非来て頂いて、コロナ対策の先にあるオリンピックを東京で行う、その意義をしっかりと強調してもらいたかったなと。まだそのチャンスがあるから期待している。

--オリンピックまで70日、改めて今必要なことは

コロナ対策に終わりはない。私は危機管理の実務だけをやってきた。その中で危機管理というのは想像と準備だというのはよく分かっている。コロナ対策は最後まで想像と準備、初めてだから。

2009年の時に新感染症の新型インフルエンザがあり、その翌年のバンクーバーオリンピックはやっている。パンデミック宣言の中で。ただあのときの新型インフルと今の新型コロナでは病原性が全然違う。当時日本でも新型インフルが流行した。政府の報告書によれば大体2000万人がかかっていたのではと言われているが、病原性が違う。季節性のインフルよりもずっと高い病原性を持っている新型コロナに対する対策はエンドレス。

私は危機管理において失敗はつきものだと思っている。これをゼロにするのは至難の業。ただそれを早く見つけて修正していく。大会の準備とコロナ対策は別物。
 
--昨年の感染拡大から1年半、ご自身の考えの変化は

本当にあっという間という感じがする。飛行機でいえば、フライトで離陸する時に、いわゆるランディングしながらいくのが理想だが、ところどころで止まってしまった。その最大の要因が新型コロナだった。ここはしっかりと体制を整えて、さっとランディングできるようにしたい。いずれにせよあっと言う間、この後もあっという間。今こそ想像と準備をしっかりと具体的にやっていかないといけないなと思っている。

(インタビュー取材:青木良樹)

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局特別解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。