このコロナ禍で、誰もが何度も耳にした言葉「ステイホーム」。

SNSには「おうち時間」のハッシュタグが溢れ、自粛期間を家で過ごすためのグッズなどが注目を集めた。その一方でコロナ禍の影響により仕事を失くし、家賃を払えず「ホーム」を失った人がいる。「ステイホーム」したくても、家が無い人がいた。

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全国でもっとも家賃の水準が高い東京では、もとより安定した住まいを維持できずネットカフェで寝泊りする人々が多い。その数は、2016年11月から2017年1月に行われた都の調査によると、1日あたりで約4000人。

2020年4月の緊急事態宣言ではネットカフェにも休業要請が出たため、そこに拠点を置く人々も一斉に行き場を失った。

このような人々に、まず何より「安心して暮らせる住まい」を確保しようと活動する団体がある。「一般社団法人つくろい東京ファンド」だ。なぜ、住まいの支援が最優先なのか?代表理事の稲葉剛さんに話を聞いた。

安定した住まいが生活再建の礎に

路上やネットカフェで生活する人々に、無条件で個室の住まいを確保する支援は「ハウジングファースト」と呼ばれる。

1990年代にアメリカで始まり、今や欧米のホームレス支援の現場で一般的になりつつある方式。しかし、日本が従来から採用するのは「ステップアップ方式」と呼ばれる支援方法だ。

「一般社団法人つくろい東京ファンド」代表理事、稲葉剛さん

「従来の方法では、まずホームレスの人に集団生活の施設で生活訓練をしてもらい、そこで大丈夫だとみなされた場合のみ個室のアパートに行き着く仕組みです。ですが、ホームレスの中には精神疾患や知的障害、発達障害等を持っている方もおり、相部屋の集団生活になじめずドロップアウトして、結局路上生活に戻ってしまうことが大半です」

生活困難者が一時的に暮らす施設は、大人数が狭小な一室で共同生活をするなど、その環境の悪さが以前より問題視されてきた。さらに、コロナ禍での集団生活には感染リスクの問題もある。

住まいの確保は、貧困にある人が生活を再建していく上でも重要だ。「まず住所を持たないと、企業が雇ってくれないことが多いため仕事探しが難しくなります」と、稲葉さん。

「また、住まいを失ったご本人は、ホームレス状態を恥ずかしく思って自ら人間関係を断ち切ってしまう方も多い。すると社会的な孤立に拍車がかかって、精神的にうつ状態となる方もいる。そうしてますます生活再建が難しくなってしまいます」

地域の空室を借り上げてシェルターに

つくろい東京ファンドの個室シェルターの一室(提供:つくろい東京ファンド)

つくろい東京ファンドが拠点を置くビルの同フロアには、6室の個室シェルターがあり、住宅支援事業を展開している。各部屋にはクラウドファンディングで購入した最低限の家電製品が置かれ、ここが生活困窮者の一時的な拠点となる。加えて、同団体では地域のアパートの空室を独自で借りて提供する。

「昨今、東京でも賃貸の空室が増えているという問題に着目し、それらを自分たちで借り上げて困っている方の一時的なシェルターとして提供しています。以前は都内の中野区、豊島区を中心に25部屋ありましたが、昨年の春からコロナの影響で住まいを失う方が急増しており、数を一気に増やして現在は59部屋です。今、そこに下は10代から上は70代くらいまでの人たちを受け入れています」

シェルターの滞在期間は通常、約3カ月間だ。その間に収入のない人は生活保護を申請し、不安定ながらも仕事が続いている人はシェルターに泊まることでお金をためて再び自分で家を借りる。生活保護を受ける場合は、家を借りる初期費用やその後の家賃が支給される住宅扶助を利用する。

スマホ=「社会的なID」も、無償貸与

滞在開始より1~2カ月経った段階で同団体のサポートのもと家探しを始めるが、そこで多くの人が「スマホがない」という壁にぶち当たる。

「生活困窮者の多くはスマホを持たないか、端末はあっても電話を止められてしまっています。過去にいろいろ滞納を繰り返したことで新たにスマホを持つことが難しいケースも」と、稲葉さん。もともと、支援を求めるSOSもコンビニのフリーWi-Fiを使ってなんとか連絡をとってきた人ばかりだった。

昨今、賃貸住宅を借りる場合にはほぼ家賃保証会社との契約が必要だ。契約には必ず事前審査があるが、そこでスマホがなければ審査も通らないことも多い。スマホは安定した仕事探しにおいても必須に近い。今やスマホは生活を営む上での「社会的なID」ともいえる存在だ。

つながる電話プロジェクト

そこで、2020年7月より同団体などが共同企画で始めた「つながる電話プロジェクト」。独自で開発した通話アプリ搭載のスマートフォンを最大2年間無償で貸与し、部屋探しや仕事探しのツールとして活用してもらう。使用期間の通話料もかからないという。

コロナ禍で届いた、「中間層」からのSOS

長引くコロナ禍で、つくろい東京ファンドに支援を求める人々の属性にも変化が起きている。昨年春の1回目の緊急事態宣言の際は、主にネットカフェ等で生活していた不安定就労者が中心だった。しかし季節が進み秋ごろになると、いわゆる「中間層」とされる人々からもSOSが届き始める。

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「仕事が激減したフリーランスや自営業の方、あと正社員だったものの仕事を失くしてしまった方が賃貸住宅を維持できなくなってホームレス化してしまうという相談が増えました」

同団体と連携する「NPO法人 TENOHASI(てのはし)」の炊き出し会場に集う人数も、確実に増えてきたという。コロナ以前は160人程度だったが、昨年春以降は毎回200人以上に。今年に入ってからは常に300人を超える人々が食料配布の列に並ぶ。

「7月下旬に開催した際は、約400人が集まったと聞いています。来る人たちも、以前は中高年の単身男性がほとんどでしたが、今年に入ってからは10代、20代の若者が訪れるのが当たり前になりました。女性も訪れます。お子さん連れで炊き出し会場に来るのも珍しくない状況です」

自己責任であってもなくても、関係ない

この状況下では、誰もが貧困に陥る可能性があると言っても過言ではない。しかし、日本では貧困にある人々に「努力しなかった本人のせいだ」という自己責任論が根強くある。そのことを尋ねると「そもそも、自己責任かどうかを問うことに意味があるのでしょうか」という答えが返ってきた。

「例えば路上生活になっている方がいて、その人が自己責任だったら、じゃあ助けなくていいのか、ということですよね。自己責任であろうがなかろうが、その人がどういう要因で路上生活になったとしても、やり直しができる社会のほうが、誰もが生きやすい社会ではないでしょうか」

「私たちのもとにこられた方の中には、30代ですでに生活保護を20回以上受けてこられたという人もいました。それだけを聞くと、それこそ自己責任じゃないの、と思われるかもしれない。ですが、幼少期から虐待を受けてきたことで精神疾患を持っていたり、知的な障害があったりする。

そういう人が働けない状態で生活保護を申請すると、相部屋の施設に入れられます。すると集団生活でいじめられたり、酷い場合はお金をたかられたりして、耐えられなくなってまた飛び出してしまう。こうやって施設と路上を20回以上繰り返している方もいらっしゃいました」

しかし、そういった人も同団体のシェルターに入って、その後アパートに移ることができた。

「移ってからもいろいろトラブルはありますが、私たちはアパートに入った後も継続してサポートしますので。精神科のクリニックや精神科専門の訪問看護ステーションなどと連携して、地域で支えていきます。そうするうちに、その方も安定していくのです」

同団体をはじめ、都内7団体が結成した「ハウジングファースト東京プロジェクト」でチームを組んで彼ら彼女らを支えていく。

「これまで、福祉の行政職員や関係者には、『役所としては住む施設をちゃんと用意しているんだから、出ていくのは出ていく方の問題だよね』と思われていたように感じています。路上で困っているんだったら、相部屋だったとしても屋根はあるんだから、個室は贅沢だ、という考えが福祉関係者の間にも、一般の人たちの間にもあったと思うんですね。だけど、それだと結局うまくいきません」

実際に、稲葉さんは施設ではうまく生活を再建できなかった人がアパートというプライベートな空間ならば自分を立て直すことができたというケースをいくつも目にしてきた。

社会的なコストの面でも、実は従来の方式よりもハウジングファーストのほうが安くつくということが欧米で実証されているという。「贅沢どころか、合理的な方式だと思っています」と稲葉さんは強調する。

行政自体がハウジングファースト方式に転換すれば、日本の福祉のあり方が大きく変わる可能性もある。今後の動きに引き続き注目していきたい。

稲葉剛
1969年、広島県生まれ。一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。

取材・文=高木さおり(sand)