ヨロヨロ会見と酸素ボンベ

7月4日(日曜)夜に「都議選で自公過半数取れず」のニュースを聞いた時、あまり驚かなかった。自民党の議員から「東京選出の国会議員のカネのトラブルが相次いだので、今回も厳しい選挙だ」という「現場」の感触を聞いていたのだ。ただ結果は自民党の予想を上回る厳しさだった。

今回は選挙用語で言うところの「アンダードッグ効果」だった。日本語だと「判官びいき」。事前調査に基づくメディアの予測と結果が逆に出ることで、強いと見られていた人を有権者が勝たせたくなかった、あるいは弱いと見られていた人を負けさせたくなかった、という投票行動だ。

この「判官びいき」のきっかけになったのが小池百合子東京都知事が投票2日前に職務に復帰して行った「ヨロヨロ会見」だと思われる。小池さんは病み上がりで本当につらそうに見えた。そして翌日は街頭演説こそしなかったものの、都民ファーストの候補の事務所を車に酸素ボンベを積んで回って激励した。この小池さんの動きが選挙戦の流れを土壇場で変えたのではないか。

退院後初の会見で息苦しそうに話す小池都知事(7月2日)
退院後初の会見で息苦しそうに話す小池都知事(7月2日)
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小池劇場の幕は再び開いたか

2016年に都知事選で勝ち、その勢いで2017年の都議選でも圧勝、さらに希望の党を結成して民進党と合流したが「排除」発言で失速し首相の座を逃す、という目まぐるしい展開で国民を驚かせた「小池劇場」。今回の都議選は小池劇場再開とまではいかなくても「小池小劇場」くらいのインパクトはあった。

「希望の党」結党大会(2017年9月)
「希望の党」結党大会(2017年9月)

都議選の結果を受けて自民党内には「菅首相では衆院選は戦えない」という声が出ているそうだ。どれだけ他人頼みなんだよ!とも思うが、弱い候補者にとっては嫌な展開だ。

今後政治はどう動くのかと考える時、前回の小池劇場が参考になると思う。あの時、小池さんは都民ファーストと民進党を合体させて天下を取りに行った。当時、民進党の幹部が「200議席取れる」と言っていたのを覚えている。つまり第1党になり、公明を引き込めば(すでに都議選では組んでいた)過半数が取れる計算だった。

すでに解散を表明していた安倍政権は慌てて「やっぱり解散やめようか」と悩んだほどだったが、その後、小池さんの排除発言で立憲民主党が立ち上がり、小池新党が分裂してしまったことによって自民に漁夫の利を与え、勝負は決まった。

百合子は再び天下を取りに行くか

今回、今のまま総選挙が行われたとしたら、立憲民主を中心とする野党連合が過半数を取って政権を奪う可能性は低いだろう。都議選という地方選挙と政権選択選挙は違うのだ。ただ小池さんが出れば状況は混とんとしてくる。小池新党は保守系無党派層を自民からごっそり奪う可能性がある。あるいは維新や国民民主などと組むという手もある。

だったらいっそ自民に取り込んでしまえという考え方もある。そこのラインを押さえている二階幹事長はセンスいい。ただ二階さんが菅さんをおろして小池さんを立てようとしたらたぶん安倍さんが再び出てくる。そこに麻生さんも乗るので二階さんは軽々に小池さんを担げない。

二階さんは軽々に小池さんを担げない
二階さんは軽々に小池さんを担げない

このように小池さんをめぐるジグソーパズルは複雑で解くのは難しい。小池さんは国政復帰を否定したが、総裁選に出たこともあり、首相になりたいという気持ちは強いはずだ。健康面に不安がないのならいずれかの形で出てくるのではないか。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。