岩手・釜石市で“奇跡”と呼ばれた避難行動を体験し、これまで語り部を務めてきた女性。
彼女は5月、新たな一歩を踏み出した。
その胸に秘める思いとは…

「悲しみを繰り返したくない」その一心で語り部に

菊池のどかさん:
一瞬、津波だってわからなかったんですよね。家が家に当たって、どんどん壊れていくんですけど、白い煙みたいなのがバーッと上がった

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釜石市の津波伝承施設で、2019年から語り部を務めてきた菊池のどかさん(25)。東日本大震災当時は、中学3年生だった。

菊池のどかさん:
小学生と中学生が手をつないで逃げたけど、中学生も怖いんですよね。津波にまかれるんじゃないかと思ったし

のどかさんが通っていた釜石東中学校と隣の鵜住居小学校の児童生徒約600人は、震災当日、一斉に高台に避難。
その行動は当初、“奇跡”と称された。

その一方、この地域では、627人もの命が失われている。
のどかさんが語り部を始めたのは、その悲しみを繰り返したくないとの一心からだった。

菊池のどかさん

菊池のどかさん:
二度と津波で亡くなる方がいなくなるように、一生懸命に誠実に伝えることしかできないと思うので

地域の防災力向上に…転職を決断

震災から10年、のどかさんはある決断をした。

阪神淡路大震災の被災地・神戸出身の若者が立ち上げた会社へと転職したのだ。
代表を務める久保力也さん(27)は、高校から防災の専門学科で学んでいる。

2013年撮影

震災直後からボランティアで岩手に通い続ける中で、のどかさんと出会った。
大学卒業後は、フリーランスとして企業の防災研修などを請け負ってきたが、2020年8月 釜石に移住、会社を設立した。

「8kurasu」代表取締役・久保力也さん:
災害時に何ができるのか、災害前に何ができるのか。命を守るというところをしっかり目指して、事業を進めていきたい

菊池のどかさん:
高校生の時からずっと知っていて、震災直後から。こうやって釜石に移住してくれて、一緒にやってくれる仲間がいて、すごく力強い

早速この会社では、防災の要素を取り入れた中学校用の各教科の教材開発を進めている。
さらに、学習塾の運営や、地域の産業支援といった分野にも取り組む。

これまで、体験の伝承が活動の中心だったのどかさん。
転職を決めたのは、「地域」との関わりを強め、防災力の向上につなげたいと考えたからだった。

菊池のどかさん

菊池のどかさん:
今までは、震災当時の話をするのみだったけど、今からは“だからどうなのか”という部分。だからこそ、具体的な話をできるように、自分自身、勉強していきたい

会社のウェブサイト用の写真を撮影することになり、のどかさんの母校があった場所に建つ、ラグビースタジアムを訪れた。

その時、突然の警報音。宮城県沖で地震が発生。釜石では震度5弱を観測した。
一目散に車へと移動。高台へ避難した。

この日 津波は発生しなかったが、のどかさんは10年前、自分の足で走ったのと同じ道を避難した。

菊池のどかさん

菊池のどかさん:
震災の時も同じ場所にいたんですけど、どこにいても高いところに向かって走る習性がついている。人生の節目節目に何かあるタイプの人間なので

「より多くの人が語れる場を作ること必要」

新会社に初めての来客。被災地ツアーを扱っている盛岡市の旅行会社が、今後に向け意見交換したいと訪れたのだ。

みちのりトラベル東北・宮城和朋さん:
三陸を、防災を学ぶ場としてどうブランディングしていけるか。語り部が話して、あとは自分たちで持ち帰って何とかしてくださいみたいな感じで、それがゴールになってしまうと、本当に学びの種を配ってあげられているのか

「8kurasu」代表取締役・久保力也さん

「8kurasu」代表取締役・久保力也さん:
(語り部のあとに)1時間なり2時間なり、研修のようなものができれば、「どう思った」というところから、“自分の地域”に置き換える。そこで、いかに落とし込めるかが勝負どころ

のどかさんは、より多くの人が語れる場を作ることも必要と考えている。

菊池のどかさん:
今、語り部自体が、認証制ではないけど、“オフィシャルな人”しか話してはいけない雰囲気が強い。これから話したいという人も増えていくのではないか

今後、より良いプログラム作りを目指し、連携していくことになった。

みちのりトラベル東北・宮城和朋さん:
客観的な視点で、この地域の今の課題を変えてもらえるなら、こんな頼もしいことはない

菊池のどかさん:
すごくワクワクした気持ちもありますし、私自身も、もっと研修を受け入れる技量を磨いていかないといけないと感じます

のどかさんはこれまで、町内の慰霊碑に通い続け、祈りをささげてきた。
活動の場を広げようと考えたのも、犠牲者への思いからだった。

菊池のどかさん

菊池のどかさん:
絶対、繰り返してはいけないことだし、ちゃんとやらないといけない。みんなが安全に生きられるような、そういうのをどうやったら残せるのか。答えはまだわからないけど、ずっと考えるって大事かなと

お年寄りなど、いわゆる災害弱者をサポートできる仕組みづくりに取り組めたら、と語るのどかさん。
悲しみを繰り返さぬため、一歩ずつ歩みを進めようとしている。

(岩手めんこいテレビ)