ミャンマーのクーデター発生から4カ月が経過。アウン・サン・スーチー氏ら与党議員を拘束した国軍は、市民の抗議活動に弾圧を続けている。情勢が悪化の一途をたどる中、ヤンゴン在住の日本人ジャーナリスト北角裕樹氏が2度に渡り治安当局に拘束され、1か月にわたり収監された。
今回の放送では、5月14日に解放され帰国した北角氏をスタジオに迎え、後半は逢沢一郎日本ミャンマー友好議員連盟会長を交えてミャンマーの今に迫った。

その場で容疑についての説明一切なし

この記事の画像(14枚)

新美有加キャスター:
ミャンマーのヤンゴン在住、フリージャーナリストで映像作家の北角さんは、2月1日のクーデター後ヤンゴンを中心に取材活動を行っていました。26日の取材中に1回目の拘束を受け、このときは即日解放されましたが、4月18日に2回目の拘束を受け刑務所に収監。1カ月近く経った先月14日にようやく解放され、日本に帰国されました。2度目の拘束はどのような状況で?

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
夜にドアをノックしてチャイムを鳴らす音が聞こえた。夜の来客は非常に珍しいことで警戒したが、覚悟を決めてドアを開けたところ、ポリスと書いてあるステッカーが見えた。
家宅捜索を受けてパソコンやカメラを押収され、私も連れて行かれた。ミャンマーでよくある秘密裏の連行を恐れ、手を挙げて周囲の住民にアピールしたところ、捕まって1時間もしないうちにニュースが出ていたようです。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏
フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏

反町理キャスター:
何の容疑だったのですか?

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
その場では全く知らされず令状もなかった。刑法505条(a)という、フェイクニュースや国家に混乱をもたらす行動を規制する法律に違反した容疑だと後から知らされた。ただ、どの記事がフェイクだった、どのビデオが問題だなどの説明は一切なし。非常に不当で恣意的な拘束でした。

レシートに鳥の羽で濃いコーヒーを使って文字を書いた

反町理キャスター:
独房に入れられていたとのこと。政治犯は皆独房に? 

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
日本人、外国人のジャーナリストということでVIP扱いだったようです。同じ建物には全部で11人のVIPの政治犯がいました。クーデター前に大臣だった人、メディアのオーナー、著名な民主活動家、映画俳優など。

反町理キャスター:
一方、VIPではない人たちはどのような収容状況に?

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
大きな部屋に100人以上の政治犯が雑魚寝している。非常に狭くて身動きが取れないと聞きます。マスクなども全くなく、コロナウイルス感染の危険もある。

反町理キャスター:
記録を残されていますが、どのように? 

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
ペンや筆記具を持つことは禁止されており、自分でペンを作ろうと試行錯誤しました。最終的には、大使館に頼んで差し入れてもらったインスタントコーヒーを非常に濃く入れ、落ちてくる鳥の羽を使って紙に文字を書きました。紙は差し入れ時にもらえるレシートなどを使って。

反町理キャスター:
他の政治犯よりははるかに早く釈放された。他の受刑者の反応は?

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
皆集まってくれて、おめでとうと。日本人だからと先に出るのは複雑でした。しかし政治犯の一人が「日本に帰れば表現の自由があるから君は何でも言える。事実を世界に伝えてくれ」と。一人ずつ肩を抱き、約束を守るからと言って出てきました。

反町理キャスター:
解放交渉では、在ミャンマー日本大使館が尽力したのですか。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
私の知る限り大使館は、想像したよりずっと全力を尽くしてくれたと思います。丸山一郎大使自ら刑務所に来られ、全力を尽くすと繰り返し励まされました。大使が刑務所長と面会をして待遇の改善を求めるということがあり、刑務所の幹部も驚いていました。

市民は3本指を立て命がけの抵抗

新美有加キャスター:
クーデター後の抗議デモの様子について、現地ではどこでどのような取材をなさっていたのでしょう。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
ヤンゴンで、なるべく市民に接点を持ち、デモに参加している人・参加していない人問わずいろんな人に話を聞こうと思っていました。

反町理キャスター:
実弾射撃される現場に居合わせたことも?

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
3月の初め頃、デモを鎮圧するために軍と警察の部隊がやってきて、私の家の前で銃を乱射したことがあった。その後に調べてみたら武器が見つかりました。音と閃光だけが出るスタングレネードというものと、散弾銃の実弾だと思います。

反町理キャスター:
デモ隊に対して散弾銃を撃っていた?

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
はい。非常に多くの場面で実弾が使われていたと思います。

反町理キャスター:
家の前での銃撃映像はどうやって撮影したのか。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
体を隠し、スマホを使ってカメラだけバルコニーから出して。

反町理キャスター:
他の映像でも、実際に市民の人たちが撃たれている場面がある。軍が完全に殺傷目的で撃っている。市民はどういう気持ちで向き合っているのか。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
当初は、平和的なデモに対しては当局も無理はできないという予想もあった。しかし軍の武器の使用がエスカレートしてきた。私は外国の記者なので、現地の人によく「平和的なデモをしてもこのままでは殺されるだけ。だが武器を取れば諸外国がどう思うか心配だ」と聞かれた。

反町理キャスター:
軍事政権側の狙いは、民心の諦めを狙う力による制圧と考えられる。市民の気持ちはどちらに向かっているのか。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
市民のクーデターに対する不満や恐怖は非常に強い。今はなかなか行動できないが、状況が変わればマグマがもう一度噴き出してくることはあるのではと思います。

新美有加キャスター:
映像の中には、学生の抗議デモの様子も。主導は学生なのですか。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
大きなひとつの団体が率いるというより、Facebookで呼びかけに応えた小さなグループが集まってくるケースが当初は多かった。

新美有加キャスター:
一体感を示すために、3本指を立てて抗議をする姿がよく見られる。この意味は。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
もともとは映画で使われた、独裁に抗議するサインと聞きます。とにかく3本指を立てることがクーデター反対の意思表示として使われている。

反町理キャスター:
軍政に対し、命を懸けてまで反対を貫く。日常の生活もある中、何がここまで彼らを駆り立てているのか。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
恐怖だと思う。アウン・サン・スー・チー以前、長い軍事政権の中で非常に嫌な思いをしてきたミャンマー人たちは、現在の状態が続くことを非常に恐れています。確かに街に出れば死ぬ危険があるが、それ以上に死の危険を感じなければいけない状態で暮らすことが嫌だ、それを今終わらそうという思いなのだと思います。

反町理キャスター:
今後の見通しは。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
国軍側も厳しい戦いになることは承知でクーデターを起こした。市民も絶対に独裁は嫌だ、民主主義を勝ち取るという強い意志がある。妥協がされるのはなかなか難しい。

ミャンマーへODAは日本がトップ

新美有加キャスター:
今のミャンマーでは2つの政府が併存する状態になっています。逢沢さん、この状況をどのようにご覧に。

逢沢一郎 日本ミャンマー友好議連会長 自民党衆院議員:
正統性は去年の秋の選挙で選ばれた国会議員の皆さんにある。その多くがNUGに結集し、国際社会に自分たちの正統性を認めてほしいと叫んでいるが、国軍は聞く耳を持たない。平行線の状況。

新美有加キャスター:
期待されるのが日本の対応。ミャンマーへのODAは日本が国別トップ全体の35パーセント。茂木外相は見直しの可能性にも言及。この是非や効果は。

逢沢一郎 日本ミャンマー友好議連会長 自民党衆院議員:
ODA停止はミャンマー国民の生活や経済に大きな打撃を与える。しかし軍の態度や考え方を改めさせられるという判断ができるなら、思い切って選択するべき。

フリージャーナリスト 映像作家 北角裕樹氏:
欧米と歩調を合わせたメッセージとして強いものがある実際日本がODAを止めても、短期的には庶民に対しインパクトは出ない。またクーデターのせいで、これまでの日本の援助がいくつも無駄になっている。これについて日本の納税者はもう少し関心を持って軍事政権に対し怒るべき。

逢沢一郎 日本ミャンマー友好議連会長 自民党衆院議員
逢沢一郎 日本ミャンマー友好議連会長 自民党衆院議員

反町理キャスター:
ミャンマーに進出している日本企業も多いが。

逢沢一郎 日本ミャンマー友好議連会長 自民党衆院議員:
直接は関係ない。だが民間のビジネスでも、軍に連なる企業との合弁事業は続けられない。いち早く解消を宣言したキリンホールディングスの動きなどは的確、正しい判断。

BSフジLIVE「プライムニュース」6月1日放送