夏に近づくと全国各地で増える水難事故だが、5月9日には香川県で釣りに来た6歳男児と父親がため池で溺れ死亡した。
このような事故を減らすため、ため池で起こる水難事故を実演し検証した動画が注目されている。
まずはこちらの動画を見て欲しい。
「子供を陸に上げようとしますが、上げることができるのでしょうか?Can the child survive?」というタイトルのこの動画は、子供がため池に落水したところに大人が助けに入り、陸に上げようとする様子を再現している。
これは、2016年に宮城県で父子3人が亡くなるため池事故があり、その後の事故調査で撮影されたものだという。

男性が持っている赤いポリタンクには水が入っており重さは約18キロ。小さい子供を抱えて救助する状況を想定している。
しかしポリタンクを抱えて陸に近づこうとするも、なかなか前に進むことができない。何度も挑戦するが、動画では撮影したスタッフなのか、「だめだ」と言う声も聞こえた。

他にも「(事故は)こういう状態だったと思いますよ」などとも話しており、足が滑るのか全く陸に近づけず、ポリタンクは何度も水に浸かり、子どもを抱えての救助がいかに大変なのかを想像できる。
また別の動画では、大人ひとりの状況でも、ため池から上がることが難しいことを紹介していて200万回以上再生されている。
平泳ぎやクロールで水面から勢いをつけたり、立って上がろうとするも、足が滑ったりして最後まで陸に上がることができなかったのだ。足元は見えないが想像以上に大変なのだろう。このまま水中にいることとなると、次第に体力を奪われ、溺れてしまうこともあるだろう。
ため池への落水がとても危険であることがよくわかる動画だが、なぜ陸に上がることがこんなに難しいのだろうか? もし落水した場合には、どのようにしたら良いのだろうか?
動画を撮影した、一般社団法人水難学会の斎藤秀俊会長に話を聞いた。
ため池は、穏やかに見えるが滑って上がれない
ーーため池に落水する事故はよくあるの?
死亡事故だけでも年間20~30件ある、珍しくない事故です。
ーー落水する原因は何?
山間部すり鉢状底であれば、斜面からの滑落落水事故が多いです。平野部平坦底であれば水中を歩いていて、急な深みに沈水する事故が多いです。

ーーため池がなぜ危険なの?
周囲が比較的平和に見えること、水面に波や流れがなく穏やかに見えること。そしてそのために危険性に対して気を緩めてしまうからです。
ーー落水するとどうなるの?
なにもおこりません。浮こうと思えば浮きますし、沈もうと思えば沈みます。ただ、じたばた暴れれば、ますます深い方にもっていかれます。
ーーでは、なぜ陸に上がれないの?
滑って水中に落ちたということは、つまり、滑って上がれないということです。

”背浮き”で救助を待つか119番通報
ーーため池付近を訪れた際に、注意すべきことは?
ため池に近づかないこと。フェンスなどを乗り越えたり、破ったりしないことです。
ーーもし落水したら、どうしたらいいの?
近づかないことを前提にして、背浮きで救助を待つか、足がつくなら立って救助を待つ。誰も来なかったら、水の冷たさ、周囲の寒さで体力を奪われます。

また、携帯電話が取り出せるようであれば、119番通報する。背浮きのままでも119番通報できます。

ーー落水した人を見つけた場合どうしたら良い?
まず、119番をかけて消防の救助隊を呼んでください。溺れている人が立っていられるのなら、動かないように指示します。浮いているようであれば「浮いて待て」と声をかけ続けます。
ーー最後に、動画に込めたメッセージを教えて。
ため池には近づかないでほしいと思います。ため池は農業のために大変重要な施設です。人を育むための施設が人の命を奪ってしまっては元も子もありません。
水難事故は毎年のように起きている。人ごとだと思っているかもしれないが、この「背浮き」「背浮きのまま携帯が使えれば119番通報する」や救助方法を頭に入れておけば、万が一の事態を避けられるかもしれない。だが、最も重要なのは、万が一の事態が起こらないようにため池には近づかないことだろう。
斎藤会長のYouTubeには、他にも「ロープ1本でため池から上がれるか」など水難事故に遭遇した際役立つ動画が多く投稿されている。こちらの動画で、色々学んでおくことも良さそうだ。
【関連記事】
最も大切なのは「浮いていられる状態」…急増する川の事故 専門家が指摘する注意点「川の深さ」「渦」「急な雨」
川で人間の体は2%しか浮かない…川遊びに「ライフジャケット必須」を河川財団が呼びかけるワケ