「最も信頼できる報道番組」がフェイクニュース?

「60ミニッツ、お前もか!」

米国のテレビ報道で「最も信用される番組」と評価されてきたCBS放送の「60ミニッツ」が、「フェイク・ニュース(偽ニュース)」の誹りを受けている。

「60ミニッツ」は4日(現地時間)、フロリダ州のワクチン接種をめぐる特集を放送した。番組は同州のワクチン接種が富裕層に偏っていると指摘。同州のロン・デサンティス知事(共和党)が、10万ドル(約1100万円)の政治資金の供与を受けたスーパーマーケット・チェーン「パブリックス」に同州最大のパームビーチ郡で独占的にワクチン接種の権利を与え、同チェーン店の少ない地域に住む貧困層のワクチン接種の機会を奪ったと批判した。

番組は、こうした疑惑を伝えた後、リポーターの記者が記者会見でデサンティス知事を詰問する様子を流した。

記者:「貴方はパブリックスが選挙資金を寄付した見返りに、ワクチンの独占的配布の権利を与えたわけですね」

デサンティス知事:「それは全く間違いだ」

記者:なぜ収賄ではないと言えるのですか?

デサンティス知事:「それはフェイク(偽)話だ。私はパームビーチ郡の郡長や理事官ら関係者と会って『今後ドライブスルー方式や病院での接種を増やすこともできるし、パブリックスという選択肢もある』と言うと、彼らは『パブリックスが郡の住人にとって一番手早い方法だ』と言ったから採用したのだ」

記者:「パームビーチ郡の郡政委員はパブリックスのことは聞いたことがないと言っていますよ。これはやはり収賄だと批判されていますが」

デサンティス知事:「違う、違う。それはフェイク話だ。今分かりやすく説明したじゃないか。それなのに君は気にもかけない。私は君が反論できないほどの事実を述べたはずだ」

カットされた「知事の言い分」

記者会見の場面はここで終わるが、この番組が放映された直後から60ミニッツがビデオを編集して知事の言い分をカットしたと、知事側だけでなく他のマスコミからも指摘され始めた。

記者の質問に答えるデサンティス知事(60minutesのツイッター動画より)
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それは、知事が次のように言った部分だった。

デサンティス知事:「ワクチン接種が始まった昨年12月は、まずコンビニと薬局チェーンのウォルグリーンで配布をした。年が明けて配布場所を増やす必要ができたのでスーパーやコンビニなどに募集すると、パブリックスが最初に手を挙げたのだ。そこで試験的に配布をしてみると全く問題がなかったので決めたわけだ」

民主党幹部も知事を擁護

この部分がカットされると、まるで知事が一存でパブリックスにワクチン配布の権利を与えたように聞こえるわけだが、ここで思わぬ援軍が入った、知事とは政治的に対立する立場の民主党のパームビーチ郡のデイブ・ケーナー郡長が、知事を擁護する声明を発表した。

デイブ・ケーナー郡長:「60ミニッツの報告は、間違った情報に基づくだけでなく故意に偽の話にしたのだ。と言うのも、私は郡のワクチン接種の実態について説明すると申し出たのだが、60ミニッツは断った」

またフロリダ州民主党の危機管理委員会のジャレッド・モスコウィッツ氏も続いてこうツィートした。

「60ミニッツよ、もう一度くり返す。我々はすべての薬局などに声をかけた結果、対応できたのはパブリックスだけだった。終わり!知事の関係者でパブリックスを提唱しなかった。あれは全くのデタラメだ」

共和党には手厳しいワシントン・ポスト紙電子版は8日の論評欄で「60ミニッツのロン・デサンティスに対する攻撃は、今ジャーナリズムが抱える問題の全てを表している」と報じた。

ジャーナリストへの不信感が裏付けられた

最近の(調査会社エーデルマン社の)世論調査で、米国人の56%が「ジャーナリストや記者たちは、事実が違っていたり誇張していると知りながら、国民を誤った方向へ導こうとしている」と答えたことを裏づけたと言う。

さらに、民主党寄りのCNNも6日、「60ミニッツは、ロン・デサンティスに大きな贈り物をした」という見出しで、番組の誤りが逆に知事の評価を高め、2024年の共和党の大統領候補として有力視されることになった」と伝えた。

一連の批判に対してCBS放送は「放送したことが全てを物語っている」と訂正の余地はないと声明を発表したが、評価が高い番組だけに余波はなかなか収まらない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】