志の田うどんについて名古屋の人たちはどれくらい知っているのか
「名古屋めし」といえば、味噌煮込みうどんにひつまぶし、味噌カツに、きしめん…と、今や多くが全国に知られるメジャーなグルメになっている。
では「志の田うどん」をご存じだろうか。知る人ぞ知る名古屋めしとされているが、どのくらいの認知度があるのか、そして一体どんなうどんなのか、さらに、そもそも本当に名古屋めしなのか、取材した。
ーー志の田うどん、知っていますか?
女性2人組:
わかんない。
ーー聞いたことは?
女性2人組:
ない!味噌煮込みうどんしか出てこん!
別の女性:
全然わかりませんね。(画像を見て)なんですか?これ。普通のうどんですね。
40代以上の人たちにも聞いてみても…。
ーー志の田うどんって知っていますか?
男性:
知らないです。
別の男性:
味噌煮込みとかってなると、『あっ、名古屋』って思いますけど、普通のうどん。
やはり知らない人がほとんど。なぜその名前で、ルーツは一体どこに…詳しく探るべく名古屋で街のうどん店を訪ねてみることにした。
きしめんの有名店「芳乃家」で志の田うどんとは何か尋ねる

訪ねたのはきしめんの有名店、名古屋市昭和区の「芳乃家」。二代目の野嶋さんが出してくれたのはシンプルな実にうどんだった。
芳乃家 二代目・野嶋さん:
白だしですので、白醤油を合わせてあるだけ。
1.白醤油ベースのつゆ
2.刻んだ油揚げとネギ
3.かまぼこ
この3つがのった、シンプルなうどんとのこと。食べてみると、とにかくあっさりしていて「すまし汁」っぽい味だ。本当に濃厚な味が多い名古屋めしかと疑ってしまうほどだった。

ーーどのくらいの頻度で注文がありますか?
芳乃家・野嶋さん:
1日1杯出ないです。ほとんど出ない…。志の田うどんは、最後に取り残された、最後の名古屋めし。
マイナーなメニューではあるものの、味の決め手でもある「白醤油」は地元産。さらにこの白醤油は使われているのも東海地方がメインということで、どうやら名古屋めしということは間違いなさそうだ。

一体いつごろからあるものなのだろうか?
芳乃家・野嶋さん:
うちのオヤジの代から志の田うどんはある。知らずにやってる。
ある程度の歴史があることは間違いなさそうだが、それ以上詳しいことはわからずじまい。
手がかりを探るべく、もう1軒すぐ近くのうどん店「手打ちまことや」で取材を続けたところ…

まことや 二代目・横井さん:
志の田うどんでテレビ局が来るのは始まって以来じゃないかな。電話が来たときに本当にいいのかしらと思って。
店のウリは味噌煮込みうどん。志の田うどんでテレビ局が取材に来るのは初めてだという。

「まことや」の志の田うどんも、見た目は「芳乃家」と変わらず白だしをベースに、刻んだ油揚げにネギ、それとかまぼこ。“志の田うどん”の定番は、このスタイルのようだ。
ーールーツは?
まことや・横井さん:
先代の大将が「やろうか」ということで、それでやったというくらいしかないと思う。どうしてやったかというのは分かんない!あるからやったっていうだけ(笑)。それ以上のことは…分からん!知らん!
分からん!知らん!とバッサリ…。謎多き名古屋めしだが、あることに気付いた。店の看板メニュー・味噌煮込みうどんを頼んでみると…
リポーター:
気づいちゃったんですけど、汁の色は違いますけど、上にのってる具材が…
まことや・横井さん:
みんな同じです。

名古屋めしの代表格・味噌煮込みうどんと比較してみると、味噌と醤油の違いだけで、全く同じ具材を使用していた。
重要な手がかりを発見したが、なかなかそれ以上のことは分からず、名古屋めし専門の研究家 Swindさんに聞いてみた。
名古屋めし専門の料理研究家 Swindさん:
名古屋めしとしての志の田うどんというのは間違いなく言えるかなと思います。
ーールーツは?
料理研究家・Swindさん:
これがですね、調べてみてもさっぱりわからなくて。
名古屋めし専門家も詳しく知らないという、まさに“忘れられた名古屋めし”…
それでも諦めず、老舗をたよって取材を続行。昭和2年創業、名古屋でも歴史の古い「えびすや」へ。すると、意外な手がかりが見つかった。
創業90年以上の老舗で聞いたヒント…出てきた別の地名

総本家えびすや本店 三代目・中山さん:
(お店が)大阪にあるのは間違いない。マツバヤさんっていう、船場のほうに。
志の田うどんのルーツは『大阪』?
忘れられたと思いきや、名古屋めしですらないのかもしれないというまさかの展開に…。混乱したまま、大阪の「マツバヤ」へ。
大阪の「うさみ亭マツバヤ」にあった『信太うどん』
メニューを見てみると確かにあった。しかしそれは「信太(しのだ)うどん」。読み方は同じだが、字が全く異なる。
注文してみると、名古屋の志の田うどんとは全く違ううどんが登場。つゆの色や油揚げの形も違っていた。いわゆる“きつねうどん”のようだ。

ーーこれは、きつねうどんでは?
うさみ亭マツバヤ 三代目・宇佐美さん:
お揚げが2枚入っているのを、ウチでは信太うどんって言っています。
どうやら大阪ではきつねうどんに揚げを1枚プラスしたものを、信太うどんと呼んでいるようだ。その味は…

リポーター:
あー、甘い!甘いです、汁が。今までのだしの効いてた汁と違う。
甘いあげが効いた、まさにきつねうどんの味!
ーーどうして信太うどんという名前に?
うさみ亭マツバヤ・宇佐美さん:
信太(しのだ)という駅があって、そこにきつねの伝承の神社があって、その場所から名前をとりました。
ご主人によると、大阪の信太森葛葉稲荷(しのだのもりくずのはいなり)という神社がきつねをまつっていることから、きつねの好物の揚げをプラスしたうどんを、信太うどんと呼ぶようになったという。
どうやら名前は大阪由来のようだ。名古屋の「志の田」とは漢字が異なる理由を宇佐美さんに聞いてみたが、何かいわれはあると思うというものの、理由については本当のところはわからなかった。名古屋の志の田うどんの画像をご主人に見せてみると…
うさみ亭マツバヤ・宇佐美さん:
お揚げは入ってますわね。親戚みたいなもんや!
ーー名古屋の「志の田うどん」を知っていましたか?
うさみ亭マツバヤ・宇佐美さん:
いや、知りません。初めて…見ました。
調査の結果、志の田うどんが名古屋めしということは判明。しかし、名前のルーツは実は大阪らしく、また同じ「しのだうどん」でも名古屋と大阪では中身が全くの別物ということまでわかった。
そしてその後、名古屋めし専門料理研究家のSwindさんがある説を教えてくれた。
大阪で生まれた信太うどんは、お隣の京都に伝わった時に、舞妓さんが化粧や着物を汚さず食べられるようにと、揚げを細かく刻むようになり、
さらに、東海地方に入って来て名古屋の人になじみ深い、白醤油のだしに変わったのではないかということだった。

(東海テレビ)
