震度3でオー・マイ・ゴッド!

私の住むワシントンDCで災害というとハリケーンと大雪がダントツなのですが、実は東日本大震災があった年の8月、想定外の災害がワシントンDCを襲いました。それは200年に一度来るか来ないかと言われる地震。だから震度3で「オー・マイ・ゴッド!」「爆弾だ!」「テロだ!」と町中大騒ぎです。ホワイトハウスや国会には避難指示も出ました。幸いにも人的被害はなく、最大の被害はワシントン大聖堂の破損くらいだったようです。あいにく地震保険に入っていなかったとかで、資金を集めながら未だに修復作業が続いていますが。

アメリカを度々襲い甚大な被害をもたらすハリケーン
アメリカを度々襲い甚大な被害をもたらすハリケーン
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こんな風に言うとアメリカの防災知識も管理もなんとも心もとないように感じられるけど、いえいえどうして、 2005年に甚大な被害をもたらしたハリケーン・カテリナで多くの人命を失うという大失敗の教訓も生かし、最近のアメリカの防災管理は、ものすごく進化しています。 災害を未然に防ぐだけでなく、一旦被害が起きた時にその拡大を防ぐにはどうすればいいか、そして被災からの復旧作業に至るまで、しっかりと対策がとられているのです。

進化の秘密は、災害による人命の喪失が「想定外だからこれだけの人が亡くなっても仕方ない」では許されない、を徹底していること。アメリカでは「人命」を防災の最優先課題に掲げ、「まさか!」の時に対応するための「ある改革」をしています。それはもうアメリカ版防災管理の秘密兵器と言ってもいいほど。そして実は日本からも多くの人がアメリカ版防災管理を学びにやって来ているのでした。

アメリカ版防災の秘密兵器

グローバルレジリエンス研究所(IIGR)のエグゼクティブ研修会の様子
グローバルレジリエンス研究所(IIGR)のエグゼクティブ研修会の様子

その受け入れ先となっているのがワシントンDCを本拠地として危機管理におけるプロフェッショナリズムの強化を目指し、教育、研究、コンサルティングを行うグローバルレジリエンス研究所(IIGR)です。研究所の代表、深見真希博士は「日本とアメリカでは防災に対する考え方が根本的に違う。」と言います。

どこが違うのかというと「アメリカは防災をマネジメントの視点で捉えていて、災害時の現場に立つ人をいかに教育し専門家として育て、いかに効率よくリソースを災害現場に配置して人命救助に当たるか、が最優先されます。でも日本の場合はインフラや国土利用などハードウェアの整備に焦点が当てられやすい。」。真逆に近い違いです。

またアメリカの防災のプロは修士号や博士号を持っている人がほとんどですが、日本の場合だと防災のプロというよりは、人事異動で防災担当になった人が職務にあたるという具合だとも。プロ対担当者。災害時にこの違いって大きいのでは・・・・と思えてきました。

元FEMA長官やカリフォルニア州危機管理官らと日本人実務家たちの交流会
元FEMA長官やカリフォルニア州危機管理官らと日本人実務家たちの交流会

「人」に投資する方が対経済効果が高いという調査結果も出ているようで、アメリカの防災は「人」を中心に防災に対する意識改革を目標に掲げ、国民の教育・啓発に力を入れてエマージェンシー・マネージャーという防災のプロを育成しています。「防災のプロに必要なのは未経験の状況や想定外に遭遇しても即座に対応できる想像力、そして高いコミュニケーション能力」だと深見博士は言います。どんなにAIや設備が発達してもやっぱり最後は人なのじゃないかなと思えてきました。インフラよりも防災の投資先としては、やはり「人」に軍配があがるのかもしれません。

高校生はプロ並みの防災スペシャリスト

アメリカでCERTの研修を受けている様子
アメリカでCERTの研修を受けている様子

そしてその投資先としてアメリカが最も力を入れているのが子供達への防災教育です。大学でも特別のプログラムを提供しているところがありますが、特に高校生に対する教育はFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)が中心となって進めているTeen CERT(Community Emergency Response team)というプログラムがあり非常に進んでいるのです。

「今君達にできるとても重要なことがある。それは自分自身を、家族を、そして友達を災害から守る方法を身につけることだ」として起こりうる災害に対する知識を教えます。そして応急処置、消火活動、避難誘導、連絡体制の確立に復旧作業などプロの救急隊員の元で働けるほどの訓練を受けているのです。我が家のご近所にも高校があるのですが、なんだか生徒さんたちが頼もしく思えてきました。

先日の台風15号に加えて台風17号でも大きな被害の出た日本。長引く復旧作業で被災された皆さんは本当に大変な生活を送られていることと思います。自然災害が多発する日本においてもこのようなプログラムは有効活用できるのではないでしょうか?

次世代への投資も含めて、防災は「人」に投資するのが有効。皆さんはどう思われますか?

【執筆:ボーク重子】

「常識が通用しない・・・今備える防災」すべての記事を読む
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ボーク重子
ボーク重子

合同会社BYBSコーチング代表、Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。
福島県生まれ。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。1998年に渡米、結婚し娘を出産する。非認知能力育児に出会い、研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生」に選ばれる。子育てと同時に自身のライフワークであるアート業界のキャリアも構築、2004年にはアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、アートを通じての社会貢献を評価され「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。
現在は、「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が予約待ち6ヶ月となるなど、好評を博している。著書は『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など多数。