ミャンマー情勢 米中対立の主戦場に

政権発足から2週間。アメリカ・ホワイトハウスのサキ報道官は2月2日、記者会見で、バイデン大統領が就任以来、中国の習近平国家主席と電話会談を行っていない理由を問われ、こう答えた。

「我々の対中アプローチは間違いなく戦略的なものだ。同盟国と連携し、強固な立場からアプローチするべく取り組んでいる。現時点で、いかなる電話会談の予定もない」

ホワイトハウス・サキ報道官 1時間近くに及ぶ記者会見を連日実施
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バイデン政権が前政権の対中強硬路線を維持するのか、はたまた“弱腰”に転じるのかー。

世界が見極めようと注目する矢先に勃発したのが、ミャンマーにおける国軍のクーデターだ。民主派と国軍の危うい均衡の中で進められていたミャンマーの民主化は暗礁に乗り上げた。

ミャンマー軍は1日首都ネピドーでスー・チー氏らを拘束し非常事態宣言を発令した

突然の政変をめぐり米中の対応は鮮明に分かれた。

クーデターを強く批判し経済制裁も示唆するアメリカに対し、「内政不干渉」の立場から一切の非難を避ける中国。その対照的な姿勢は、さながらミャンマーを主戦場とした米中対立の様相を呈している。

アジア太平洋重視を掲げるバイデン大統領は日本を含む同盟国、友好国を結束させ、中国の影響力拡大を封じられるのか、外交上最初の大きな試練となる。

ミャンマーの突然の政変に対する米中の対応は鮮明に分かれた

米は「クーデター」と正式認定 制裁も示唆

バイデン政権は同日、ミャンマーで軍が全権を掌握したことについて、「軍事クーデター」と正式に認定した。アメリカは武力によるクーデターが起きた国への経済支援を禁止しており、国務省のプライス報道官は、ミャンマーへの経済援助の見直しを進める方針を表明した。

一方、迫害を受ける少数民族ロヒンギャへの人道支援については、継続するとした。

国務省・プライス報道官 2月2日

バイデン大統領自身も、直ちに声明を発表。「民主主義と法の支配への移行に対する直接の攻撃だ」と非難し、これまで解除していた制裁の復活も辞さない姿勢を示した。またクーデターを主導した国軍に対し、「即刻、権力を手放し拘束した人々を釈明するよう国際社会が一致して圧力をかけなければならない」と強調し、中国が軍事政権に接近し、影響力拡大を狙うことに警戒感を露わにした。

ミャンマーの民主化をめぐる米中の覇権

ミャンマーの民主化には、米中の覇権をめぐる歴史があり、双方にとって重要な意味を持つ。

アメリカにとっては、自らが関与して民主化実現にこぎ着けた成功の象徴だ。

ミャンマーでは2011年に民政移管されるまで軍事政権が統治し、アウン・サン・スー・チー氏の軟禁など、民主化運動をことごとく弾圧した。アメリカは、ミャンマーとの取引を禁じるなど、重い経済制裁を科してきた。

拘束されたアウン・サン・スー・チー氏

しかし、10年の総選挙を経て、テイン・セイン政権が発足し11年に軍政が終了。ミャンマーは軍事政権下の親中路線を転換し、スー・チー氏の釈放など、アメリカとの関係改善が進んだ。

12年、オバマ大統領が現職として初めてミャンマーを訪問し、民主化への支援を継続する姿勢を表明、16年には制裁を全面解除した。ミャンマーが親中路線を放棄し民主化に転じたことは、バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権のアジア外交の成果の一つと言われた。

オバマ大統領は2012年に現職として初めてミャンマーを訪問

しかしその後、イスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害問題で状況が一変する。“民主化の象徴”とされるスー・チー氏が、軍が主導した弾圧を積極的に制止しなかったとされるためだ。2018年には、フランス・パリ市がスー・チー氏に贈った名誉市民の称号を剥奪するなど、国際社会の批判が高まった。

国際社会との間に生じたこの“間隙”を縫って、ここぞとばかりにミャンマーに接近したのが中国だ。欧米がミャンマーへの圧力路線に転じ、盛り上がりを見せた投資の動きが停滞する中でも、友好的な姿勢を示して後ろ盾となり関係強化を進めた。ミャンマー側も、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に協力的な姿勢を見せた。中国にとって、ミャンマーは地政学上重要な拠点だ。国境を接する東南アジアへの玄関口で、インド洋に抜けるルート上にあるからだ。

狙う中国 バイデン外交の試金石に

中国は現在、クーデターを静観する姿勢を示している。中国は自国の問題にもつながりかねないため、欧米諸国による民主化支援の動きを「内政干渉」と主張し、一貫して反発してきたという背景がある。また、欧米の包囲網によりミャンマーの孤立化が進めば、さらに中国への依存度が強まるとの思惑が見え隠れする。

ミャンマーの民主化への道はいかに

アメリカは中国の絶大な影響力を前に、いかにミャンマーを民主化の道に引き戻すのか。経済制裁をも含む圧力の効果は「限定的」との見方も出ている。新型コロナウイルス対策など、国内政策に優先的に取り組む一方で、重要政策として掲げる気候変動問題では中国の協力を不可欠とするバイデン政権。

ミャンマーをめぐる対応は、対中政策ともからんで今後のバイデン外交の方向性を占う重要な試金石となる。

【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】