「国民から信頼されるメディアのため」建設された施設
ミャンマー国軍がクーデターにより権力を握ってから8カ月が過ぎた。ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会」(AAPP)は、2021年10月、ミャンマー国軍の弾圧により市民1170人が死亡したと発表。これまでに8916人が逮捕され、7240人が拘束されているという。
この記事の画像(11枚)一方、コロナ禍も重なり、街では失業者が増え、物価は大幅に上昇し経済が悪化している。
またクーデター直後から報道への圧力が続く。国軍は市民らによる抵抗運動を報道するなど、国軍に批判的だった独立系メディア5社の免許を剥奪。日本人ジャーナリスト北角裕樹さんはデモ取材中、「虚偽ニュースの流布」を理由に連行され、約1カ月間にわたり刑務所に収監された。
メディアへの締め付けを強める一方で、国軍側は5月に、ミャンマーのメディア企業が利用するための施設「ミヤワディ・メディア・センター」をオープンした。ミャンマー国軍のトップ、ミン・アウン・フライン最高司令官はこの施設について「報道、映画、音楽、文学、テレビ放送も含めたメディアは、国益に大きく貢献する力だ」「私は国内メディアの技術力に不満を持っていたので、この施設を設立することにした」と語った。また、「メディアは視聴者の心を掴まなければならない。」とも述べた。硬軟両様の構えで、メディアを国軍側に取り込みたいという思惑が窺える。
10月14日、国軍が「国民から信頼されるメディアのため」建設したとする「ミヤワディ・メディア・センター」がメディアに公開された。
施設は7階建てで、トークショー収録用のスタジオ1つに、緑色の背景「グリーンバック」を利用し背景は場面に合わせて合成できるスタジオが2つ、ラジオ収録用のスタジオ1つ、200人席以上を備えたシアタールーム2つ、100人規模で収容可能な劇場のほか、会議室が備えられている。ほかにも図書館、トレーニングジムまである。放送用の機器は日本製だった。
本格的な運用はまだ・・・人材の流出が影響か
国軍は取材に訪れたメディア各社に対し「市民のために質の高い国際水準の芸術を創造・制作し、芸術の水準を高めることを目指す」「世界水準の映画、演劇、音楽、書籍を制作する」と胸を張った。確かに最新式の設備を備えた複合的なメディアセンターで、施設としては世界水準と言っていいだろう。
しかし本格的な運用はまだだという。
これだけの施設を作っておきながらなぜ運用ができていないのか。
国軍側は明らかにしていないが、可能性として考えられるのは運用に携わる「人材がいないこと」だ。クーデターにより政情は急速に不安定となり、国外へ人材が流出。専門技術を持つ人々がいなくなってしまったのではないかという声がある。また、反政府系のメディアや市民らへの弾圧を続ける国軍に対し、メディア側が根強い不信感を抱いていることも否定できない。
国軍が鳴り物入りでオープンしたメディアセンターだが、施設は“宝の持ち腐れ”となる可能性がある。
【執筆:FNNバンコク支局長 百武弘一朗】