新型コロナウイルスの影響で「出社ありき」の働き方が見直され、完全なテレワーク・リモートワークを採用する企業も出てきたことで、引っ越しを検討している人もいるかもしれない。

こうした流れを、地方移住の機会と捉える自治体もある。その一つが静岡市だ。

静岡市は2018年度から「お試しテレワーク体験事業」として、首都圏の会社員や個人事業主に、市内のコワーキングスペースなどを体験してもらう試みを行っている。

この事業の特徴は、体験にかかる諸費用を市が補助していることで、2020年度だと、施設利用料は1回4000円まで、宿泊費は1泊8500円まで、交通費は往復で1万2000円まで補助される。参加者の自己負担をできる限り少なく、移住後の生活を体験してもらおうというものだ。

お試しテレワーク体験事業の概要(提供:静岡市)
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さらに、企業向けには「Move Toしずおか『新しいビジネス様式』支援事業」を展開していて、こちらはより太っ腹。静岡市に新規進出する企業であることなど条件はあるが、シェアオフィスの1カ月分の賃料、往復交通費、30日間の宿泊費を2人分まで補助してくれるという。

企業向けの「Move Toしずおか『新しいビジネス様式』支援事業」(提供:静岡市)

静岡市は人口約70万の政令指定都市だが、なぜここまでテレワークの受け入れ態勢を充実させているのだろう。移住施策の狙いについて、静岡市の担当者に聞いてみた。

若年層が首都圏に転出している

ーー静岡市はなぜ、テレワークを推進している?

日本の人口がピークに達したのは2008年ですが、静岡市はそれより約20年早い、1990年に人口減少に転じています。首都圏へのアクセスが良いこともあり、若年層を中心に首都圏への転出超過が続いたのです。そのため、人口減少対策として移住促進に取り組んできました。

しかし、若年層が移住に踏み切るには「仕事」と「住まい」が特にネックとなります。そこで、仕事を変えなくても移住促進できるようにと、お試しテレワーク体験事業を開始しました。
 

ーー移住してテレワークするメリットは?

JR静岡駅周辺には、シェアオフィスやコワーキングスペースが集積していますが、東京駅まで新幹線で約1時間なので、必要であれば東京に行くことも可能です。首都圏と変わらない環境で仕事ができると思います。県庁所在地と政令指定都市でもあり、多くの業種がバランスよく発展しているので、地域とのビジネスマッチングもできると思います。

新幹線を使えば約1時間で東京に行ける(画像はイメージ)

ーー移住促進施策の効果は出ている?

静岡市の社会動態は、2013年~2016年の4年間で3289人の社会減でしたが、2017年~2020年の4年間は351人の社会減なので、大幅な抑制につながっています。移住支援センターなどを経由した移住者は、2017年度~2020年度(1月末まで)で256人となっています。2020年度に企業6社が市内に拠点を新規進出したことで、地元雇用にもつながっています。
 

ーーどんな人に移住を勧めたい?

テレワークの普及により、仕事はそのままで住む場所は自由に選べる時代になりつつあります。首都圏などでのスキルやキャリアを地方で発揮したい方、新たな働き方を求め、結婚、子育て、セカンドライフなど、充実したライフスタイルを求める方に勧めたいですね。

実際に移住した人に聞いてみた

静岡市は地方の良さがありつつ、新幹線を使えば約1時間で首都圏にもいけるという、ある意味で“ちょうどいい”環境にあるようだが、そこでの生活はどんなものなのだろう。
コロナ禍の中、東京都から静岡市に移住してテレワークで働いている、会社員の成瀬基樹さん(31)にお話を伺った。

ーー現在の状況や職業を教えて。

2020年11月ごろから、静岡市で生活しています。もとは愛知県出身で、移住前は東京都の世田谷区で9年間暮らしていました。職業はプログラマーで、「myProduct」(東京都)という会社の最高技術責任者を務めています。事業内容は、地域と観光客を結ぶWebプラットフォーム「CRAFTRIP」の運営、ビジネスコンサルティングなどです。

静岡市に移住した成瀬基樹さん(提供:成瀬さん)

ーー静岡市に移住したきっかけは?

経済産業省が実施した、スタートアップ企業とその活動を支援したい地域をマッチングするイベントに参加したのがきっかけです。弊社がここで静岡県からお話をいただいたのですが、支援の条件が静岡県内で働くことでしたので、それならばと移住者に立候補しました。

静岡市を選んだ理由は、事業メンバーの一人が静岡市に引っ越す予定で、仕事上の連絡が取りやすかったこと。もう一つは僕がこれまで観光地に住むことが多かったので、そうでない地域で暮らしてみたいとお願いしたためです。

CRAFTRIPのサービスの特徴

ーー静岡市の支援制度は助けになった?

活用したものだと、Move Toしずおか「新しいビジネス様式」は良いと思いました。企業向けの制度ですが、宿泊費なども助成してくれるので、遠方からでも滞在して住居を探すことができたり、移住後の生活を想定することもできました

空を見るだけで気分が良くなる

ーー移住前と移住後で生活は変わった?

快適になりましたね。東京と比べると人や車両の密度は少ないですし、満員電車に乗る必要もありません。それでも生活に必要なお店はそろっています。高層ビルのように背の高い建物が多くないので、晴れた日は空を見るだけでも気分が良くなります。

住環境も変わりました。東京では駅から近いワンルームに住んでいたのですが、こちらだと同じような家賃で3LDKの部屋に住むことができています。前は車の騒音が悩みでしたが、今はそれもありません。近隣の子供の元気な声が聞こえるくらいで、和やかな気持ちになります。

晴れの日が多く、富士山も見えるという(提供:成瀬さん)

ーーどんな働き方をしている?

会社側の協力もあり、かなり自由に働かせてもらっています。静岡市には事業拠点としてシェアオフィスを設けましたが、自宅でのテレワークとオフィスへの出社を選べるようになっていて、基本的には始業・終業時間も自分で決められます。

私の場合はテレワークと出社を使い分けていて、会社のミーティング(会議)が午前の早い時間帯にあるなら、自宅からオンラインで出席して仕事をします。そうでないなら、自転車か徒歩で職場に向かい仕事をして、午後6時ごろには自宅に帰ることが多いです。

事業拠点として利用するシェアオフィス(提供:成瀬さん)

ただ、ミーティングは帰宅時間より遅くなることもあるので、その場合は自宅でオンラインで参加します。自由な社風ですが、仕事の志はある会社なのでそこは知ってほしいですね。

東京に住むメリットが小さくなった

ーー移住して良かったこと、悪かったことは?

良いところはたくさんありますが、住環境の良さと交通量の少なさですね。自転車に乗るのが好きなのですが、東京は道の狭さからか自転車と車の距離が近く、怖く感じていました。こちらはそんなことはないですし、無料の駐輪場も多いと思います。

食事も海鮮はおいしく、野菜は安くて大きいです。地元産のトマトはお気に入りですね。スーパーの商品価格も東京よりは安く感じます。悪いところは見つからないですね。飲食店の選択肢は東京のほうが多いですが、こちらにも魅力的なお店はあります。

自然環境の豊かさも魅力という(提供:成瀬さん)

ーー移住を検討している人に伝えたいことは?

僕が東京に住んでいた理由は人が集まり、仕事上でも便利という理由でした。コロナ禍でそうしたメリットは小さくなったと感じています。移住は簡単にできるものではありませんが、受け入れに前向きな地域も多いです。僕はコロナ禍が収束しても、静岡市に住み続けたいですね。

 

成瀬さんの場合、移住のきっかけはスタートアップ企業と地域のマッチングイベントからということだったが、今の生活を満喫しているようだ。フルリモートや週に1度の出社といった柔軟な働き方ができるのであれば、移住という選択もありかもしれない。
 

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