シカへの餌やりSTOP!キャンペーン開始

愛らしい姿を見せる奈良のシカは国の天然記念物であり、奈良で1300年以上前から生息する。そのシカの健康被害を防ぐためのキャンペーンが2月1日から始まった。

奈良公園のシカは野生動物であることから、公園内に生えている芝などの植物を主食とし、自力で食べている。園内で販売されている「鹿せんべい」は、“おやつ”に過ぎない。

しかし、新型コロナウイルスの影響で鹿せんべいを与える観光客が減ったことで、「シカの餌が減って飢えている」という誤解が拡散。パンや菓子類・野菜などの“人の食べ物”を与える人が増えているというのだ。

そこで、奈良のシンボルの1つ“シカ”を守るため、奈良県と一般財団法人奈良の鹿愛護会が始めたのが、鹿せんべい以外の餌を禁止する「奈良公園の鹿ストップえさやりキャンペーン」だ。

設置している看板の内容(奈良県提供)
設置している看板の内容(奈良県提供)
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2月28日までの1カ月間行われるこのキャンペーンでは、「餌やり禁止の周知」や「なぜダメなのかということへの理解」を目的に、看板の設置やチラシ配布、パトロール強化などを行っている。

奈良のシカについては、観光客激減でシカが“野生化”しているという調査結果を、去年7月に編集部でお伝えした。

(関連記事:観光客減少で奈良公園のシカが“野生化”…これはいい影響?専門家に聞いた

あれから半年が経過した現在の様子はどうなのだろうか?そして、人の食べ物を与えてはいけないことは分かったが、シカがこれらを食べると、具体的にはどのような悪影響を及ぼすのだろうか? 

奈良県・奈良公園室の奈良公園管理担当者に話を伺った。

鹿せんべいは“主食”ではない

ーー観光客が減少したという今、現在のシカの健康状態は大丈夫なの?

奈良公園にいるシカは人に慣れていますが、本来は野生動物。観光客とのふれあいが減った今、本来の生体に近づいたことでみんな健康に過ごしています。

配布しているチラシ(奈良県提供)
配布しているチラシ(奈良県提供)

ーーでは、人の食べ物などを与える事で、シカにはどういった影響があるの?

スナック菓子やパンくずは、本来シカが食べるものではないので、体調不良になったり、虫歯になる可能性があります。また、匂いを覚えて匂いのついたゴミ袋などを食べることもあり、病気・死亡の原因にもなります。野菜くずは、味を覚えて、畑を荒らしたりする可能性があります。

餌の与え方による問題もあります。自動車からや車道近くでの餌やりは、シカが自動車に慣れてしまい、自動車が来ても逃げなくなり、交通事故や交通渋滞を引き起こします。


ーー実際、シカは普段どういったものを食べているの?

奈良公園内のシバ、木の実など自然のものを食べています。野生動物なので、当然自分で餌になるものを見つけて食べています。

シカが食べるもののうち、鹿せんべいの占める割合はわずかです。中には、鹿せんべいをもらいやすい場所にずっといて、大量にせんべいをもらっていたシカもいたかもしれませんが、あくまでも主食ではありません。

鹿せんべいをもらう鹿(奈良県提供)
鹿せんべいをもらう鹿(奈良県提供)

ーーなぜ、鹿せんべいは大丈夫なの?

鹿せんべいは、江戸時代から始まった「奈良のシカ」と人とのふれあいに欠かせないものであり、歴史的背景をもつ文化です。その売り上げの一部がシカ保護の費用に充てられていることから、保護と観光振興の観点から餌やりの例外として認めています。なお、鹿せんべいは米ぬかを主成分としており、シカの健康に害がないことが確認されています。

最終目標「鹿への餌やりゼロ」

ーー2月1日から開始したキャンペーンの現在の状況や反響を教えて

多くのメディアに取り上げていただき、広報効果は出ています。御社も含め、メディアのみなさまに感謝しています。また、パトロールでも、不適切なえさやりをしている人にチラシを配布して、ご理解いただけていると思います。SNS等でも反響をいただいており、多くの人に注目していただけていると思います。

多くの反響をいただけて、大変ありがたいです。これを機に改めて奈良のシカについて知っていただき、シカと人とがより良い形で共生していける環境づくりにご協力いただきたいと思います。

看板設置の様子(奈良県提供)
看板設置の様子(奈良県提供)

ーーキャンペーンの最終目標は?

究極的には奈良公園で餌やりをする人をゼロにすることです。奈良公園でシカに餌やりをしてはいけないという機運を醸成し、シカと人との共生を続けていける環境を作りたいです。みなさん、奈良のシカを愛しているなら絶対に餌をやらないでください!


ーー最後に、シカへ接触・餌やりをする際に注意すべきことを教えて。

シカが“野生動物”であることを忘れずに接しましょう。急に思わぬ行動をすることがあり、角で突かれる・突進される・蹴られる・噛まれる等の事故が起きています。特に、秋の発情期の雄ジカや、春の子育て中の母ジカは気が荒くなっていて注意が必要です。

小さな子どもだけで近づいたり、鹿せんべいをあげたりするのも危険です。写真を撮るためにシカの近くに立たせるのも注意してください。

鹿せんべいを与えるときは、(1)子どもは大人と一緒に、(2)シカをじらさないで、(3)周りのシカにも注意しながらあげましょう。せんべいがなくなったら、シカに向かって両手を広げて「もうないよ」と教えてあげましょう。また、紙類やビニール袋などをシカに取られないように十分注意してください。

チラシ配布の様子(奈良県提供)
チラシ配布の様子(奈良県提供)

シカへの不適切な餌やりは、シカ自身の健康被害だけでなく、畑や地域の交通状況にまで幅広く影響与える可能性があるという。

これからもシカと共に生きていくためにも、“野生動物”であることを理解した上で、適切な距離を保って接することを忘れないでほしい。
 

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プライムオンライン編集部
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