ロビンフッダーVSヘッジファンドの"乱闘劇"
さながら殴り合いのようにも見える“乱闘劇”だ。
アメリカのゲームソフト小売り大手「ゲームストップ」の株をめぐり、2021年1月最終週の米国株式市場はドラスティックに動いた。年明けには17~19ドルで推移していたゲームストップの株価が急騰し、28日には一時483ドルを記録。実に25倍を越える高値をつけたのである(乱高下した同日の終値は193.60ドル。また週明け2月1日の終値は225ドルと前日比で30%も下がっている)。
なぜこんなことが起きたのか。
実は個人投資家とヘッジファンドの間でかつてないバトルが繰り広げられていた。
乱闘の主役は、
① ロビンフッダー(ネット証券「ロンビンフッド」などで少額の投資を行っている個人投資家たち。新型コロナウイルス給付金を得たものの、外出制限によりお金の使い道が限られ個人による少額投資が増えたといわれている)。
② 空売りで利益を確定するヘッジファンド
この2者だ。
SNSを舞台にした"個人投資家の乱"
今回はこのロビンフッダーたちが、「レディット」と呼ばれるSNSの投稿サイトで、「ゲームストップ買い」を呼びかけた。ゲームストップ株が暴落すると見込んで空売りで利益を得ようとしていたヘッジファンドを潰しにかかったのだ。
株価はつり上がり、ロビンフッダーたちの思惑通り、ヘッジファンド側は株を買い戻さざるを得なくなったため巨額の損失を被った。SNSで連携した個人投資家がヘッジファンドを出し抜くのに成功したと言っても良い。
証券会社やファンドなどが事前に合意の上で同一の行動を取った場合は、「共謀」や「株価操作」と見なされ法令違反となる。今回のケースは規制の対象になるのか、専門家の間でも見方が分かれている。
株式市場を揺るがした“個人投資家の乱”。

個人投資家が仕掛けた「場外乱闘」の舞台となり、一躍世界の注目を集めたゲームストップとは、一体どんな会社なのだろうか?
業績不振の「ゲームストップ」に行ってみた
ホームページを見てみる。テキサス州に本社を置き、アメリカを中心に5000以上の店舗を持つ大手のゲームソフト小売りチェーンだ。しかし、2020年の第三四半期の売上高は、前の年より3割も減少している。新型コロナウイルスの影響、そしてオンラインゲームの台頭が原因とされている。
筆者が住むニューヨークにも複数の店舗がある。「イースト・ハーレム」という地域にある店舗に立ち寄ってみた。タイムズスクエアのような大都会ではないが、ファストフード店やスニーカー販売店などが並ぶそこそこ大きな通りに、ゲームストップの店舗はあった。

地域によってまちまちだろうが、この店は東京の平均的なコンビニよりも狭い。赤い壁にはゲームソフトのほか、ヘッドホンやキャラクターのTシャツや帽子も置かれ、日本語のカタカナが書かれている商品もあった。
ゲームソフトのラベルをよく見ると、「新品(New)」と「中古(Pre-owned)」と書かれており中古品も販売していることがわかった。どうやら客側がソフトを売ることもできるシステムのようだ。

筆者は土曜の午後訪れたが、客は5~6人くらいだった。閑古鳥とまではいわないが、株式市場の注目を集めているなんてどこ吹く風の静けさだった。
客はおのおの目当ての商品を探していた。ある家族連れは、壁にぶらさがっていたぬいぐるみを熱心に見ており、女性店員は「何かお探しですか?」と親切に接客していた。至って普通の販売店の風景がそこにはあった。

来店客の関心は・・・?
客は今回の騒動をどう思っているのだろう?
店から出てきた一組の男女に聞いてみた。
――ゲームストップの株の乱高下についてどう思いますか?
男性客:
「聞いたことないです・・・何ですか?」
女性客:
「初めて聞きました。投資のことですか?」
特に目当ての商品がなく、なんとなく立ち寄っただけという彼らは手ぶらで、今日は買い物をしなかったようだ。「少し前はよく通っていた」という男性と、男性の付き添いで来ただけという女性。客はゲーム関連商品に興味があって来店している。株が急騰したからといってセールがあるわけでもないので、市場や投資に興味がなければ客側が知らなくても当然だろう。
以前は常連だったという男性にこんな質問をしてみた。
――ゲームストップは、以前に比べて客足は減りましたか?
男性客:
「一番はコロナじゃないかな?みんな行かないよね。確実に減ったよ」
次に応えてくれたのはジョセフさんという36歳の男性。手にはゲームストップのロゴが書かれたエコバッグを持っていて、きょうはポケモンカードを買いに来たという。中にはそのほかにもいろいろな商品が詰まっていた。
「ゲームストップのに株価ついて・・・」と質問を切り出すと、すぐに笑ってこう答えてくれた。
ジョセフさん:
「ちょうど今、その話をしていたところなんだ!店員さんと、株がすごいことになっているね、“ロケット・スカイハイ(うなぎのぼり)”だね、って」
――店員さんと株について何の話をしたんですか?
ジョセフさん:
「僕はゲームストップの株を持ってないから、店員さんに、株持ってないの?って聞いたんだよ。店員は僕に、自社の株を買うことは禁じられているって言ってたよ」
今回のニュースを知るジョセフさんは、会計の際、店員とこの話題で盛り上がっていた。実際、ここ数日アメリカメディアでも、「2年前に、10株だけ買った10歳少年が大もうけ!」というインタビュー記事が出始めるなど、ゲームストップ株主は“話題の人”となっている。ジョセフさんが店員に興味本位で聞いてみたくなる気持ちも理解できる。
今回の騒動についてはどう思っているのか。
ジョセフさん:
「僕は株を持っていないけど、顧客にとっては株価が上がるのは悪いことじゃないよね。いいことだと思う。株が上がることによって、何らかの形で顧客に利益が還元されればいいと思うよ」
20年、ゲームストップに通い続けているジョセフさん。以前は店内に30人ほどの客がいることもあったと話してくれた。やはり客足の減少は確実に起きているようだ。常連客としてみれば、今回のことを契機に、経営の安定やサービス向上を願っているという気持ちだろうか。

今回の“個人投資家の乱”によって影響を受けた銘柄は、ゲームストップ株だけではない。映画館チェーン大手の「AMC」の株価も、同時期に乱高下を繰り返した。奇しくも「AMC」も新型コロナウイルスによって大打撃を受けた企業だ。
映画館といえば、ロックダウンにより長期間の閉鎖を余儀なくされ、再開後も入場制限が設けられたり、映画館に行かなくなる市民も増えた。
2020年はAMCが連邦破産法の申請をして経営破綻するのではないか、との報道も一時流れたほど。「ゲームソフト販売店」「映画館」ともに、“オンライン/配信型コンテンツ”の台頭や、新型コロナウイルスによる生活様式の変化よって、逆風にあえいでいたところに、今回の株価急騰が起きたのは皮肉にも見える。
業績や客足、企業努力と全く違うところで繰り広げられた今回の「ゲームストップ株」の波乱。あまりの乱高下に、個人投資家に人気のネット証券「ロンビンフッド」は、一時、取引に制限をもうけたが、その対応に批判も相次いでいる。また証券取引委員会は、不正行為の可能性について「注視し、評価していく」と調査する方針を発表。第2、第3の“場外乱闘”は起きるのだろうか。
株価の過熱をよそに、ゲームストップは、粛々と営業を続けている。
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【執筆:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】