株価が822%値上がりした「ゲームストップ」

株取引に「空売り」という手法があるらしい。

株と無縁の私にはチンプンカンプンな話だが、例えば証券会社から時価100円の株を借りて市場で売ると、手元に現金100円と証券会社へ期限付きの株の借用証が残る。その後、借りている株価が90円に値下がりした時に買い戻し証券会社に株を返すと10円の利益が出ることだという。

米国では、新型コロナウイルスの感染拡大で「おうち時間」が増えたことからゲーム関連企業の株が買われ「ゲームストップ」というゲーム機販売チェーンの株価は年初は17ドル25セント(約1810円)だったのが、1月26日には159ドル18セント(約16700円)へと822%値上がりした。

822%も株価が値上がりした「ゲームストップ」
822%も株価が値上がりした「ゲームストップ」
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この値上がりの過程で、有力ヘッジファンドはこの株が下がるに違いないという見通しで空売りを仕掛けたらしい。しかし、一般の小口投資家はSNS「ウォール・ストリート・ベッツ」を舞台に「もっと買え!ヘッジファンドをやっつけろ」とゲキを飛ばしたので「ゲームストップ」の株価は下がらず、ヘッジファンドは数十億ドルの損失がみこまれるような窮地に陥ったと言われる。

ゲームストップ株の購入を禁止した「ロビンフッド」

そこに登場したのが、小口投資家が主に取引を行ってきたスマホのアプリ「ロビンフッド」で、28日「ゲームストップ」の株を買うのを禁止したのだ。

小口投資家に人気アプリ「ロビンフッド」(画像:AP通信)
小口投資家に人気アプリ「ロビンフッド」(画像:AP通信)

その結果「ゲームストップ」の株価は一時68%下落し「機関投資家を今悩ませてきたすべての動きが28日に逆回転した」(ブルームバーグ通信)。つまり、ヘッジファンドの「空売り」を救うことになったようだ。

この措置について「ロビンフッド」は「株式市場が不安定になっていることを受けて、ゲームストップやAMC、ブラックベリー、ノキアなどの一定の株の購入を規制する」とそのホームページで説明している。

経済界や政界から猛反発

株式市場の秩序を保つために売買を規制したということのようだが、これには経済界だけでなく政界からも党派を超えて猛反発が巻き起こった。

「これは受け入れられない。ロビンフッドが小口投資家の株購入を阻止する一方で、ヘッジファンドは好きなように売買ができるというのは理解できない。下院金融委員会の委員として必要あれば聴聞会を開くことを支持したい」

「受け入れられない」と批判するアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員
「受け入れられない」と批判するアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員

米下院で、もっとも注目されている民主党の若手議員アレクサンドリア・オカシオ・コルテスさんはこうツィートした。これについて上院共和党の有力者テッド・クルーズ議員は一言「全面的に賛成だ」とリツィートし、米政界の最左翼と最右翼の意見が一致するという例のないことになった。

英国の伝説上のロビン・フッドは「弱気を助け、強きを挫く」英雄だが、投資アプリのロビンフッドは「貧しきから盗み金持ちに与える」と非難されているという。(バズフィード・ニュース)

また、ロビンフッドは手数料無料を売り物にしていたが、実は小口投資家の売買データをヘッジファンドに売るのが大きな収入源になっていたとされる(ワシントン・ポスト紙)。

この問題、米国証券取引委員会(SEC)が既に調査を始めているが、オカシオ・コルテス議員ががツィートしたように、ワシントンで関係者の事情聴取など政治問題に発展する可能性がある。

大手ヘッジファンドとイエレン財務長官の関係

実は、バイデン政権の財務長官に就任が決まったばかりのジャネット・イエレンさんは、ロビンフッドと密接な関係にあったとされる大手ヘッジファンドから講演謝礼として2019年から2020年にかけて71万ドル(約7455万円)から76万ドル(約8000万円)を受け取っていたことが議会へ提出された資産公開文書に記されている(ワシントン・ポスト紙)。

バイデン政権で財務長官に就任したジャネット・イエレンさん
バイデン政権で財務長官に就任したジャネット・イエレンさん

「イエレン長官は、ロビンフッドの問題に関与しないことを宣言するのか?」

ホワイトハウスの記者会見で、こういう質問も飛び出した。

サキ報道官は口を濁したが、バイデン政権の目玉人事とも言われたイエレン長官のこの問題への関わりは、政権の「泣きどころ」になるかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。