「日本のコスメ業界でオーガニック&サステナブルな流れを加速したいよね」

SDGs(=持続可能な開発目標)へ企業や自治体の取り組みが活発化する中、環境省の官民プロジェクトのこの発言から始まったのが「サスティナブルコスメアワード」だ。

2020年のアワードで銀賞を受賞した、女性に優しい福島発コスメブランドを作る元官僚の女性経営者を取材した。

元官僚の女性が震災を機に福島で起業する

2020年のアワードで銀賞を受賞した「明日 わたしは柿の木にのぼる」のフェミニンオイル。

このブランドを生んだのが、福島県国見町にある株式会社「陽と人(ひとびと)」だ。

設立したのは小林味愛さん。東京生まれの小林さんは慶應大学を卒業後、衆議院調査局に入局して経産省へ出向し、コンサルを経て2017年に陽と人を設立した。いまは子育てをしながら、福島県と東京都の2拠点生活を送っているという。

東京まれの元官僚の小林さんは「福島の役に立ちたい」と福島で起業
東京まれの元官僚の小林さんは「福島の役に立ちたい」と福島で起業
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大学の卒業旅行まで福島には縁がなかったという小林さんが、なぜ福島で起業したのか。

「2010年3月に卒業旅行で福島に初めて行って、『温泉もあっていいところだなあ』と当時はそれだけだったんですね。そのちょうど1年後に東日本大震災が起きて、原発事故のニュースに日々触れる中で、本当にもどかしさ、無力感を感じて、福島の役に立てること、自分にできることって何だろうと考え始めたんです」

その後コンサルに転職した小林さんは、福島の復興やビジネスのプロジェクトを担当することになり、「土地の人たちと触れ合う中でどんどん好きになって」コンサルを辞めて福島で陽と人を設立した。事業の柱は農産物の規格外品などの流通、地域活性のプロデュースとフェミニンケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」の企画販売の3本だ。

「陽と人」ではコスメの企画販売のほか、農産物の規格外品などの流通や地域活性のプロデュースも行う
「陽と人」ではコスメの企画販売のほか、農産物の規格外品などの流通や地域活性のプロデュースも行う

悩んでいる女性の心と身体をケアしたい

このブランドの発売開始は2020年1月。しかし小林さんがブランドの開発を検討し始めたのは起業する前の2017年からだったという。

「デリケートゾーンケアのオーガニックコスメをつくりたいという想いが起業前からありました。前職で周りの多くの女性たちが、長時間労働だけでなく家事や育児とあらゆることを求められ、それをこなそうと頑張って心と身体を壊していたのが悲しかった。悩んでいる女性たちに自分の心と身体のケアをできるようなライフスタイルを作りたい、ちょっとでもサポートができたらという想いで開発を始めました」

銀賞を受賞したフェミニンオイルと同ブランドのフェミニンケアコスメ
銀賞を受賞したフェミニンオイルと同ブランドのフェミニンケアコスメ

そんな中小林さんが福島で偶然出会ったのが“あんぽ柿”だった。

「何か奇跡だと思いました。福島にあんぽ柿という特産品があるのですが、農家のおばあちゃんと雑談しているとき『この柿の皮、昔はよく食べたんだよね』と言われて。そこで『食べていたのなら皮にも栄養あるのでは』と思って、研究機関と成分分析を行ったらタンニンが多いことがわかり、コスメとして消臭作用と毛穴を引き締める作用が期待できるなと感じました」

そして柿の皮から抽出した成分を使用した日本初のデリケートゾーンケアコスメが誕生したのだ。

福島特産のあんぽ柿。皮から抽出した成分をコスメに使用した
福島特産のあんぽ柿。皮から抽出した成分をコスメに使用した

「明日 わたしは柿の木にのぼる」への想い

ブランド名「明日 わたしは柿の木にのぼる」にも小林さんの想いがあった。

「“柿の木にのぼる”ってお転婆で普段あまりしないですよね。この言葉には、女性たちに『君にはいろんな面があるから、これができないとか卑下しないで、そんな自分を愛してあげてね』という気持ちが込められています。“のぼる”には女性が自分自身で人生を選んでいくという意思を、“明日”には『いまやらないと』と追い詰められていく女性たちに『明日でもいいよ』と言ってあげたくて選びました」

「柿の木にのぼる」には自分を愛してという気持ちが込められている
「柿の木にのぼる」には自分を愛してという気持ちが込められている

ちなみに“明日”と“わたし”の間に半角があいているのは、「女性の心や時間のゆとり、ちょっと息継ぎをすることを表して」いるのだそうだ。ネーミングには端々まで小林さんの想いが込められている。

人々に光があたって、楽しい毎日を願う

「陽と人」という会社名は、「普段の暮らしの中で、人々に日の光があたって、楽しい毎日になりますように」という願いからつけられたという。

「人々に光があたって楽しい毎日を」と「陽と人」の社名をつけた
「人々に光があたって楽しい毎日を」と「陽と人」の社名をつけた

小林さんは「SDGsでいうと、私たちは5の“ジェンダー平等を実現しよう”と12の“つくる責任つかう責任”をずっと目標としてやっています」という。

「たとえば農産物の規格外品を農家から全量買い取りしていますが、箱詰めを減らしてコンテナで流通をさせることでゴミを削減することができます。持続可能な社会に向けて会社として事業を考えています」

福島の柿が女性の活躍を応援する
福島の柿が女性の活躍を応援する

サステナブルなコスメを応援するアワード

サスティナブルコスメアワードが始まったのは2019年。環境省が立ち上げた「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトのアンバサダーたちの会議で、ビューティ業界に長く関わってきたホリスティック美容家の岸紅子さんが「人にも地球にも優しいコスメの選択肢を増やしたい」と提案したことが契機となり、「まずはオーガニックでサステナブルなコスメを応援していく表彰制度を作ってみよう!」とアワードが立ち上がった。

提案をした理由を岸さんは「過度な資本主義経済の中で埋もれる地域資源の循環やそれを活かそうとする取組みに光をあてて、人と自然との繋がりを取り戻すきっかけにしたかったんです」と語る。

 
今回のアワードで金賞を受賞した株式会社リム・ジャパンの「せとうち T&K ハーブ せとシリーズ」
今回のアワードで金賞を受賞した株式会社リム・ジャパンの「せとうち T&K ハーブ せとシリーズ」

地域資源を活用するコスメが一気に増えた

サスティナブルコスメアワード事務局長の小原さん(左)と岸さん(右)
サスティナブルコスメアワード事務局長の小原さん(左)と岸さん(右)

第1回のアワードは環境省が所管する環境に優しい商品を認証する認証団体「エコマーク事務局」が主催し、森里川海プロジェクトから生まれたチーム(※)が協力するかたちで開催した。そのメンバーでアワード事務局長を務める一般社団法人the Organic代表理事の小原壮太郎氏はこう語る。

「日本にはこれまでサステナビリティを謳うコスメのアワードや認証は無かったので、開催してみるとサステナビリティに取り組むメーカーや流通さんがものすごく反応を示してくださいました」

(※)森里川海プロジェクトのアンバサダーメンバーが組成したソーシャルアクティビストチーム「MOTHER EARTH」

第1回目では大手化粧品メーカーのブランドのエントリーが多かったのだが、第2回目となる2020年のアワードでは「申請メーカーの裾野が着実に広がってきている」(小原氏)という。

「グローバル展開している大手の化粧品メーカーさんだけでなく、地域の資源を活用して生産者の支援や地方創生に結びつける『地方創生型コスメ』が一気に増えてきました」

アワードの選考風景。第2回となる今回は地方創生型コスメが増えているという
アワードの選考風景。第2回となる今回は地方創生型コスメが増えているという

審査員長でもあった岸さんも、エントリーしたコスメを見た感想をこう語る。

「アワードはSDGsを審査の基準に据えましたが、やってみると社会課題解決とものづくりが見事に融合しているお宝コスメが沢山発掘できました。シャンプーなどコスメは毎日五感で直接触れるもの。循環の大切さを頭で理解するだけでなく、心に働きかけ納得させてくれる力もあります」

持続可能な社会に向けた「100人の1歩」

小泉進次郎環境相は「1人の100歩より100人の1歩」という言葉をよく使うという。地球環境のために小泉氏自身もマイバッグやエコバッグ、マイボトルを持ち歩いているそうだ。

元経産官僚が起業して福島を応援する。つくったコスメは女性の心身をケアする。その取り組みをアワードというかたちで支援する。

一人ひとりが1歩踏み出すことで、社会は少しずつ変わるはずだ。

(福島関連の写真提供:株式会社陽と人)

サスティナブルコスメアワードの審査員メンバー。筆者もその1人。
サスティナブルコスメアワードの審査員メンバー。筆者もその1人。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。