軍用犬に追われて死亡したバグダディ容疑者

死亡したバグダディ容疑者とみられる画像

10月27日、アメリカのトランプ大統領が武装過激派組織IS「イスラム国」の最高指導者として知られてきたアブ・バクル・アル・バグダディ容疑者が、シリア北西部のトルコとの国境近くの村はずれで死亡した事を発表した。

トランプ大統領によれば、バグダディ容疑者は、米軍特殊部隊が夜間にヘリコプターで潜伏先の建物を急襲すると、トンネルの内部に逃げ込み、米軍部隊の軍用犬に追い詰められると、着用していた自爆用ベストを爆発させて死亡したという。この爆発では、複数の軍用犬のうち一匹が重症を負ったという。

作戦を見守るトランプ大統領

こうした特殊部隊の作戦行動の詳細は、例外的なケースを除けば一般には明らかにされないものだが、今回の急襲作戦では目標となった人物を現場で追跡する手段として、嗅覚に優れる軍用犬が使われたことが明らかにされた。

トランプ大統領はツイッターで、バグダディ容疑者を追い詰めた軍用犬について写真の機密指定を解除したと発表し、「素晴らしい仕事をした」と強調してその犬の写真を掲載している。犬は軽傷を負ったもののすでに現場復帰し任務に当たっているという。



(トランプ大統領の公式ツイッターより)

古代から続く「動物兵器」という手法

犬をはじめとする動物に兵器としての役割を担わせることは、古代から続けられてきており、かつては長く馬(軍馬)が、兵士とともに偵察や敵陣突破(騎兵部隊)、輸送などに活用されてきた。19世紀以降の近代になると、軍用通信手段として伝書鳩が多用されるようになったが、動物自体を敵目標への攻撃手段として活用する「動物兵器」には、どのようなものがあったのだろうか。

20世紀以降では、1930年代の初頭に旧ソ連軍で敵の戦車の下にもぐりこんで自爆する「対戦車犬」が考えられ、第二次世界大戦期にはソ連に攻め込んだドイツ軍の戦車隊に、実際に訓練された対戦車犬部隊が投入された。旧ソ連軍の記録では、戦時中に約300両の敵戦車を破壊したとされているが、ドイツ軍は1942年に戦車に火炎放射器を積んで、戦場で対戦車犬を焼き払うという対抗手段を打ち出したところ、多くの対戦車犬が火炎放射によってパニックに陥り、自軍(旧ソ連軍)の陣地内に逃げもどり、味方の戦車の車体下にもぐりこんで自爆する例が多発したため、同年中には実戦使用が中止された。

一方米軍では、同大戦中に夜行性のコウモリに黄燐焼夷弾(火炎爆弾の一種)を括り付けたコウモリ爆弾を開発していた。これは対日戦兵器の一つで、計画では数百万匹のコウモリを夜明け前に日本の上空で放ち、日光を避ける習性を持つコウモリが、日本の木造家屋の屋根裏に止まったところで焼夷爆弾を発火させるというものだった。コウモリ爆弾は、開発中に逃げ出したコウモリが米軍航空部隊の施設内で自爆するという「戦果」もあったが、多数のコウモリの育成に時間がかかることから、米軍ではマンハッタン計画(原子爆弾開発)と爆撃機部隊の増強が優先されたため、戦時中に開発が中止されている。

知能指数が高いイルカの活用

第二次大戦後には、1960年代から米海軍で知能の高いイルカの活用研究が始まり、こちらは今日まで、一定数(数十頭)が軍用イルカとして実用になっている。主な用途は味方ダイバーの救難、機雷の探知、海軍基地の内部と周辺で接近してくる国籍不明の水上戦闘艦や潜水艦、海から潜入する敵特殊部隊などへの警戒・警備行動で、1990年代の湾岸戦争時から公式に活動していることが知られている。軍用イルカについても、以前には水雷兵器を取り付けて、敵の潜水艦に対する自爆攻撃を行わせたり、毒矢を装備して水中で敵戦闘員を殺傷する構想があるとの憶測から、物議をかもしたことがある。また米海軍では、今世紀に入ると水中での機雷・爆発物などの捜索・探知に軍用アシカも使うようになっている。

昆虫の体に超小型通信機

今世紀に入って米軍で研究・開発が進むようになったものには、昆虫の体にマイクロ・ビデオカメラや超小型通信機を取り付けて、特殊部隊を含む第一線部隊で局地用の偵察手段として使おうというもので、これまでに各種の大型ゴキブリやカブトムシ、体の柔らかい夜行性の大型のスズメガなどの生体改造(サイボーグ化)実験が実際に行われている。

幸か不幸か数年前には、ノースカロライナ州立大学で、寿命の長い大型ゴキブリにセンサーや極小指令装置を取り付けた「ロボローチ」と名づけられたゴキブリ・サイボーグの開発に成功しており、すでにバックヤード・ブレインズ社という民間企業から、大型ゴキブリを改造するサイボーグ化キットなるものが販売されている。これは一般の人々が軍用偵察ゴキブリを造るものではないが、昆虫の脳機能を人間が任意に制御する科学実験用商品で、将来的には小型センサー、通信機を取り付けて、災害発生時に倒壊した建物の下敷きになった人や動物の救助に活用できる潜在的な可能性があるという。

軍用犬で追い詰めた作戦が行われたとみられる現場

この他にも米軍では、ネズミの脳に制御用マイクロチップを埋め込み、胴体上に小型カメラを取り付けて、局地での偵察・捜索活動に活用する研究が進んでおり、少なくとも現時点では小型の試作偵察ロボットよりも姿勢制御や体の整備、静粛性に優れるという結果が出ている。

昆虫やクモ類といった節足動物を改造し、軍用の兵器の一部として活用するのが、バイオテクノロジーとマイクロエレクトロニクスを融合させた新機軸ならば、ローテクしか持たないテロ・ゲリラは当分の間、伝統的な動物兵器で対抗することになるのだろう。実際アフガニスタンでは、最近、調教したロバの体に爆弾を括り付けた「ロバ爆弾」を使ったことが伝えられている。

【執筆:軍事評論家 宇垣大成】